232.収穫
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ライアスが鎌を振るうたびに銀の刃がきらめき、稲光がしてダラセニアが粘液をまき散らしながらなぎ倒されていく。
オーランドはマルップにトドメをさした後はギルバンサにむかい、砕けるギルバンサからヴェリガンが水分を奪い即席のウッドチップが積み重なっていく。
動物愛護……じゃなくて、植物愛護団体から苦情がきたらどうしよう……。
なんか破壊の限りを尽くしにきたみたいで気がひける……この後始末どうするの?
グリンデルフィアレンをきれいに燃やし尽くしてくれた、レオポルドの白焔がちょっとだけ懐かしい。
そしてわたしは何もせず突っ立ってる。
なぜならアレクの呼びだした水球にむかい、水を求めて五層中から植物が大挙して押し寄せてきているからだ。
防壁のむこうでビシバシと根がはびこり、そこえさらに蔦がうねって絡みつき、枝が葉を散らしながら打ちつけてくる。
そう、つまりアレクとわたしはおとりだ。
押し寄せる植物たちをライアスがなぎ払い、オーランドが砕きヴェリガンが乾かす……三人の連係プレーは見事なのだけれど。
わたしとアレクはそのあいだずっと、防壁のなかで植物の攻撃にさらされていた。
「も、もういやああああ!」
わたしが半泣きで絶叫するころになってようやく、五層の見通しがよくなった。ヴェリガンが紺色の髪をなびかせながら、アレクがだした水球のまわりに魔法陣を展開する。
森を統べる我が与えるは恵みと安らぎ。
我に従いし者たちへ命の水を。
生のはじまりを。
朽ちた苗床から伸びゆく命を。
それは誕生。
命を与えるのは我のみ。
我に従いし者に与えるは……。
即ち、生なり。
魔法陣の中心に浮かんでいた水球が大きくふくれ、そのまま五層の天井付近まであがっていってはじけると、光の中をふりそそぐ細かな水滴が五層に虹をえがいた。
『ヴェリガン、いまの……さっきのと似て……けど、意味……反対だ……ね』
わたしが言語解読の術式をつかって必死に話そうとしたら、ヴェリガンは驚いた顔をした。
〝森の民〟がつかう言語はその発声が独特で、ヴェリガンに合わせてしゃべろうとしたら舌がもつれてしまう。ヴェリガンはわたしにむかってゆっくりと、聞きとりやすいように返事をしてくれる。
『破壊と再生は対になってる。両方をおこなうことがひとつの儀式。ここにはちょっと早く冬がきたようなもの。枯れた草はまた春になれば再生する。ライアスたちが片づけた植物の残骸は、あたらしい子たちの苗床になる』
わたしはいままでヴェリガンの何をみていたんだろう……植物とともに生活し植物のことには誰よりもくわしい人なのに。こんどこそちゃんと彼の話を聞いてみたい。
『そ……なんだ。ヴェリ……ガン、ごめね……わたし、苦手な言語……使わせてた』
『ちがう。王都にきても僕はなかなか人としゃべろうとしなかったから、二十年以上いるのに会話が苦手で』
ヴェリガンがポリポリと照れくさそうに頭をかくとアレクが笑った。
「いったでしょうネリア、ヴェリガンは本当にすごいんだって」
「うん、ほんとだね」
本当にそう、グレンの元に集まっていた錬金術師たちはみんなすごい。
そこへ銀色に光る鎌を持ったライアスがにっこりと爽やかな笑みを浮かべて近づいてきた。死神が持つような大きな鎌を持っているのに、あいかわらずライアスはさわやかなイケメンだ。
「どうしたネリア、ネコネリスの実やユーリカの花の蜜を採りにきたのだろう?ようやく近づけるぞ」
「そうでした……」
想像を絶する事態に当初の目的をすっかり忘れていました。
ギルバンサとマルップの生息地の奥にあるネコネリスは大きな巨木だった。ぶ厚い濃い緑の葉が重なるむこうに、金色の大きな実がなっているのがみえた。
「この木はあまり変わりないね」
ヴェリガンが答えた。
『たぶん起きなかったんだと思う』
この騒ぎで起きないって……動じない木なのかな。
みんなにも手伝ってもらって金色に光るネコネリスの実をたくさん収穫し、収納鞄におさめた。
ポーションの材料にもなる素材だから、ちょっとやそっとのことでは傷つかないようだ。手に持ったらずしりと魔力の波動が伝わってきた。
つぎにユーリカの花から蜜を採ろうとして、葉陰からたくさんの赤い眼がこちらをみつめているのに気がついた。
赤い眼?
それが何だか気づいたとき、わたしはビシリと固まり震え声でライアスを呼ぶ。
「ラ……ライアス……あれ……」
「どうした?ああ、ヌノツクリグモだな。おとなしいし毒もない」
そういってかるく追い払ってくれたけど。人と同じくらいの大きさの蜘蛛なんて聞いてないんですが⁉
「植物園に棲みついていたんだな。これだけ大きな巣はめずらしい」
ヌノツクリグモが逃げたあとに残された大きな巣にみんなでみいっていると、ヴェリガンがわたしにいった。
『ヌノツクリグモの糸は丈夫だから布が織れる。ばあちゃんに頼んでネリアのために織ってもらおうか?』
「これ布になるの?そういえば蜘蛛の糸ってじょうぶだって聞いたことある……お願いしてもらっていい?」
『うん』
そのあとライアスが暴れるユーリカをおとなしくさせ、そのあいだに蜜を集めさせてもらっていると、オーランドが銀縁眼鏡のつるをくいっと持ちあげレンズを光らせて感心したようにつぶやく。
「ネリス師団長はすごいな……薬草園を作りたいというぐらいだ、こやつらを飼いならす秘策でもあるのだろうか」
なんっにも考えてませんでした。そして無謀だったってことがよくわかりました……。
めぼしいものの収穫を終えたところでわたしは収納鞄をあけた。
「さ、お弁当にしようか。ソラとはりきって作ってきたんだよ!」
時間的には夜食だけれど、たっぷり動いたのできっとみんな食べるだろう。ソラと詰めたお弁当はあれだけ激しく動いたにもかかわらず、キッチリと鞄におさめられていた。
「ネリアの手料理……」
やたらとライアスが感動した顔つきで、食べながら「うまい!」「うまい!」と連呼するものだから妙に面はゆい。
「ミートボール、おいしいよね!オドゥも好きみたいだよ」
アレクがそういうとそれを聞いたライアスが、食べかけのミートボールをグッとのどに詰まらせた。そして真剣な顔で聞いてくる。
「……オドゥも食べているのか?」
「うん、みんなでお昼に食べたりするから」
「そっ、そうだよな……みんなでだよな!それならいいんだ……うん!」
自分にいいきかせるようにうなずいたライアスは「これをオドゥも……」といいながら、にらみつけるようにしてミートボールを食べた。
それからお茶をのんで休んでいると、ライアスがさっき収穫したネコネリスの実とナイフをとりだす。
「ネコネリスの実はこうやって食べてもうまい」
ライアスがナイフで器用にネコネリスの実のかたい殻の部分を切り落とし、さくっととりだした中身を枝につきさして渡してくれる。とりだされた果肉はとろりとして甘く、芳醇な香りがした。
「おいしい!」
疲れがふっとぶようなその甘味に喜んでパクついていると、ライアスがうれしそうに笑った。
「ネリアは本当にうまそうに食べるな」
「だって本当においしいんだもの!」
そんなやりとりをしている横ではオーランドが、ダラセニアの中から救出されたダルビス学園長に浄化の魔法をかけ、彼にまとわりついていたダラセニアの消化液のドロドロをきれいにして手当てをしている。
ダルビス学園長と一緒に転がりでてきた茶色のボールみたいなものも、いっしょにきれいにふわふわになった。
「リス……?」
抱きあげるとフサフサのしっぽを巻いた羽の生えたリスが、つぶらな瞳でわたしをみあげて「きゅいっ」と鳴く。
「わ、かわいい!」
「〝羽リス〟か……おそらくダルビス学園長の使い魔だろうな」
「学園長の?こんなかわいいリスが、あの学園長の使い魔だなんて意外だなぁ」
のんきにリスを抱いてそんな会話をしていたら、意識をとり戻した学園長がわめきだした。
「意外だと⁉ふざけるなっ、わしがリリアンテを使い魔にしたのも、リリアンテがへっぽこなのも全部お前のせいだっ!このエセ錬金術師めがっ!」
「リリアンテ?」
わたしは羽リスを抱いたまま、学園長のほうをふりかえった。
「この子、リリアンテっていうの?」
するとあんなに怒鳴っていた学園長は返事をせず、わたしの顔を凝視したままあごがはずれそうなほどパカーンと口を開けて絶句している。
「学園長?」
あご、だいじょうぶ?
「レ……レイメリア……?」
ダルビス学園長はそれだけいうと、みるみる目を潤ませた。
ありがとうございました!












