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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第七章 ネリアとお城の舞踏会
231/560

231.みんなそれぞれ頑張ります!

よろしくお願いします!

 わたしは三重防壁を勢いよくひろげ、声を張りあげてヴェリガンを呼んだ。


「ヴェリガン!」


 ヴェリガンとアレク、ついでオーランドがスルスルと蔦をつたってやってきた。


「な……何?」


「あなたがここの指揮をとって!」


 ヴェリガンの目がまん丸になり顔色がサーっと青ざめた。


「ぼ、僕……⁉」


「そう、樹海で生まれ育ったあなたがいちばん、植物のことを知っている。五層の植物たちをどうしたらいいかみんなに指示をだして。ライアス、オーランド、アレク……ヴェリガンの指示に従って!」


「了解した」


 ライアスが簡潔にいいオーランドも軽くうなずいた。ヴェリガンはがくがくと震えだし、青ざめたまま一歩足をうしろにひくと両手を前につきだしてフルフルと振った。あえぐように何かいおうとする。


「なっ……でっ……ぼっ」


「時間がない、学園長の救助と五層の制圧を急がないと。どうしたらいいか指示をだして!」


 マルップが吐きだす鋭い種が防壁にビチビチと当たってはじかれ、地面から勢いよくとびだしたギルバンサの根も、くりかえしその根を防壁にむかって打ちつけてくる。


 ギルバンサの根にマルップの蔓が勢いよく絡みつき、根ごと三重防壁を包みこむかのように伸びはじめた。まるで研究棟を包みこんだグリンデルフィアレンみたいに。


 すぐにでも学園長を救出しないといけないのに、ギルバンサとマルップの争いの只中にいるわたしたちは思うように動きがとれない。


 学園長を飲みこんだばかりのダラセニアはまだモグモグとしているけれど、あれは学園長がもがいているのかもしれない。


 ほんとうに危なければきっとライアスが何とかしてくれる。


 だからこれは賭けだ。


「ヴェリガン!」


 もういちどヴェリガンにむかって呼びかけると、ヴェリガンはビクッとしてそのひょろりとした体を震わせた。


 それでも動かないヴェリガンに、アレクが走り寄って呼びかける。


「ヴェリガン!ヴェリガンはすごいじゃないか、森のことを何でもよく知ってる。こういうときどうしたらいいか、いつもみたいに教えてよ。学園長を助けてあげて!あの人、はじめて魔術学園を見学したときに、僕たちを案内してくれたんだ!」


 ハッ、そういえばそうだった!


 よかった……あのときは、みにくい大人のやりとりをアレクにみせてしまったかもしれないと焦ったけれど、アレクはそんなこと気にもせずまっすぐ育ってくれてる!


 学園長にはいい印象がないけれど、アレクのまっすぐさにわたしはうれしくなった。


 わたしが思わず感動していると、ヴェリガンは紺色の頭をボリボリと掻いてボソボソとつぶやいた。


「土……植物たちをおとなしくさせるには……土……そして水を……支配する」


「土と水を支配する……それってどうやるの?」


「マ……マルップの本体は……土のなかの塊根……そこをたたく」


「土のなかの根をたたくのね?それはどうするの?」


「蔓の根元……地中の根を……物理で」


「それは私がやろう」


 ガシっとオーランドが自分の両の拳を打ちつけると、ライアスも声をあげた。


「風属性の俺にもできることはあるか?」


 ヴェリガンはコクリとうなずくと、ダラセニアの群生地を指さす。


「ダラセニアは根の力が弱い……土のなかの水や養分を吸いあげる力が弱いから……体に水分をたくわえるし、栄養を摂ろうとする……」


「電撃が有効……ということだな」


 すぐに察したライアスに、ヴェリガンが慌ててつけ加えた。


「学園ちょ……死なない程度に……」


「わかった。シビれるぐらいなら問題ないな」


 ライアスはさわやかにいいきって魔力を練りはじめたけれど、ほんとうに問題ないのかはよくわからない。彼がもつ鎌のまわりにバチバチと火花が散りはじめた。


 つぎにヴェリガンはしゃがみこんで、アレクと目を合わせた。


「アレク……頼みが……」


「何?ヴェリガン」


 アレクが澄んだ青い瞳で、ヴェリガンの紺色の瞳をじっとまっすぐにのぞきこむ。


「き……危険だけど……」


「ぼく、やるよ!」


 ヴェリガンが目を細めて、ふっと笑った。ヴェリガンの笑った顔みるのはじめてかも。


「だいじょ……ぶ、僕もやる……五層の水を消すから……水をよんで……マウナカイアで練習した」


「うん、マウナカイアで何度もやったヤツだね!」


 それからヴェリガンは、まっすぐにわたしをみた。彼と目があった瞬間、なんだろう……体全体にぞわりと、いままで感じたことのない魔力の圧を彼から感じた。


「ネリ……ア、僕たちを……」


 守って……。


 言葉は相変わらずたどたどしかったけれど、ヴェリガンはいつものようにオドオドとした態度ではなくハッキリといった。わたしは彼の目を見返しただうなずいた。


「電撃……物理……水をよぶ……この順番でやる」


 それだけいうとヴェリガンが動いた。


 口を開いた彼はまったく聞いたことのない言語で、なめらかに言葉を発する。


「ーーーーーーーー」


(……え?)


 全員を守るように防壁を展開していたわたしは、あわてて言語解読の術式に魔素を流す。


 そして悟った。


 ヴェリガンはオドオドと、たどたどしくしゃべってたんじゃなくて。


 彼はいままで必死に、エクグラシア語をしゃべってたんだ。


 彼の言葉は……彼自身の本来の言語は……エクグラシア語とはまったくちがう、〝森の民〟が用いる言葉といえるもの。





 我らに恵みと安らぎを与えし我らが命の水よ。


 従わぬ者たちに死への誘いを。


 命の終わりを。


 その源から枯らし。


 朽ちゆく運命を与えよ。


 それは終焉。


 命を与えるのは我のみ。


 我が森を統べる者なり。


 我に従わぬ者に与えるは……。


 死、のみなり。





 言葉を紡ぎながらヴェリガンが展開した魔法陣には、古代文様のほかにみたことのない文字が浮かんでいた。森中からそれに呼応するかのように、植物たちから悲鳴のようなざわめきがおきる。


 さきほどまで青々としていた植物たちの色がいっせいに茶色く変わりはじめ、ヴェリガンは腕を伸ばしてかすれた声で指示をだす。


「ライ……アス」


 ドォオオオオン!バチバチバチバチィッ!


 ヴェリガンのボソボソとしたつぶやきに反応したライアスが、ダラセニアにむかって雷を帯びた鎌を振りおろす。


 轟音とともにまばゆいばかりの稲光が地を這うように走り、ダラセニア全体がカッと発光すると、あちこちからショートするような火花とともに煙があがった。


 そのまま瞬時にライアスはひときわ大きなダラセニアに移動し、ナイフでダルビス学園長を飲みこんだ葉を切り裂いた。


 どろりとした粘液に包まれた学園長は、ボロボロなうえにさらにデロデロになっていた。うわぁ、きちょい……。


「オ……ランド」


「ハアアアアアアッ!」


 オーランドが入魂一発、マルッパの根元に鉄拳をうちこむと土が勢いよくはじけ飛び地面に大穴があく。


 穴に飛びこんだオーランドは穴に飛びこみ、そこにうごめく塊根へさらに拳を繰りだしてゆく。


「ウオリャアアアアアアア!」


 拳を繰りだすたびに、めっちゃ硬そうなマルップの岩のような塊根が粉砕されていく。


 物理……物理だ……オーランドさん……ふだんのキリリとした銀縁眼鏡の筆頭補佐官とはまるで別人だ。


 粉々になっていくマルップをみて、わたしはマルップじゃなくてよかった……と内心ビクビクした。


 それらを静かにみていたヴェリガンがやがてアレクを呼んだ。


「アレク」


「うん!」


 アレクが元気よく展開した魔法陣のうえに、呼びだされた水球がぽわりと浮かんだ。





 わたし?


 わたしは突っ立っていた。


 三重防壁を張ってただ突っ立ってるだけですが、何か⁉


 あっ、足手まといじゃないもん!……たぶん……。

ありがとうございました!

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