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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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23.『竜の間』(カーター視点)

挿絵(By みてみん)

『魔術師の杖』1巻と2巻

 錬金術師団にいた副団長のクオード・カーターは、帰還したミストレイが王城中に轟かせた咆哮を聞いた。


(ウブルグ・ラビルはしくじったか……ふん、時間稼ぎにはなったな)


 もとより彼に期待していたわけではない。


「わしの〝へリックス〟が役に立つところを見せてやる!」


 そうはやるウブルグと爆撃具や黒蜂を積んだ〝ヘリックス〟を、マール川のほとりに転移させた。


 それぐらいでドラゴンが倒せるわけもなく、せいぜい乗っている人間に傷を負わせられるかどうか。竜騎士団を妨害してネリア・ネリスがひるみさえすればいい。


 弱気になった相手に封印を解かせ、師団長への就任は辞退させる。


(どうせ無名の錬金術師だ。さして度胸はあるまい。ウブルグはどこまでやれたのか……)


 カーターはピシリ、ピシリと持っていた定規を自分の手に打ちつける。


(デーダスに向かわせたオドゥ・イグネルは何かつかむだろうか)


 ふたたびピシリ、と手に打ちつけたところで、アーネスト国王からエンツが飛んできた。


「カーター副団長、ネリア・ネリスが到着した。〝竜の間〟にくるように」


 〝竜の間〟とは本城の〝天空舞台〟に続く部屋で、ドラゴンで飛来した客人と会うために造られた謁見の間だ。


「ヴェリガン・ネグスコ!」


 副団長の呼ぶ声に応え、工房のすみにいたヴェリガン・ネグスコが立ちあがった。艶のない紺色の髪と精彩のない瞳を持ち、陰気な感じの頬がこけた男で、ふだんはろくに食事もせず、自分の研究室にこもっていることが多い。


「〝竜の間〟に行ってくる。準備をしておけ」


「いいけど……これ使ったら……しばらく研究棟……使えなくなるよ?」


 ヴェリガンは聞き取りにくい声でボソボソとしゃべり、クオードはギロリと目を光らせニタァと笑った。


「かまわん、やるなら()()()()だ」






 副団長が〝竜の間〟に転移すれば、デゲリゴラル国防大臣が彼を手招きする。


「錬金術師団副団長、クオード・カーター参りました」


「おお、カーター副団長、きたか」


 そこにはすでに大臣だけでなく、国王のアーネスト・エクグラシアとヒルシュタッフ宰相、魔術師団長であるレオポルド・アルバーンがそろっていた。


 それに向き合うように竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンと、肩かけ鞄をたすき掛けした小柄な娘がいて、クオードは意表を突かれた。


(竜騎士団長が迷子を保護した……というわけではあるまいな。まさかこれがネリア・ネリスだと⁉)


 ペリドットのように強い輝きを放つ瞳が印象的だが、まだあどけない顔立ちで成人しているかも定かではない。


 国王がひとつうなずき、ヒルシュタッフ宰相が口火を切った。


「これで全員そろった。グレン老が死去し、錬金術師団の業務は速やかに、新師団長へ引き継がれねばならぬ。そしてたった今、後継者に指名された〝ネリア・ネリス〟が到着した。アーネスト陛下の裁可を頂くまえに、みなの意見を聞かせてもらおう」


 竜騎士団長のライアスが手を挙げ、カーター副団長に厳しい視線を向ける。


「では私から。先ほどマール川上空にて移動中、錬金術師団の襲撃を受けた。すぐに退けたが、錬金術師ウブルグ・ラビルを拘束中し、ヘリックスを押収した。カーター副団長、これはどういうことだ?」


「なんと!ウブルグがそんな暴挙にでましたか!」


 白々しいまでに副団長が驚き神妙な顔をすると、ライアスは眉間にぐっとシワを寄せる。


「……錬金術師団ではあずかり知らぬことだと?」


「もちろんです。ウブルグもグレン老に次ぐ古参の錬金術師ですからな、こたびの決定に不満があったやもしれませんが……早まったことを……」


 デゲリゴラル国防大臣も彼にうなずき、打ち合わせどおりのセリフで彼を後押しする。


「私はカーター副団長に任せるのがいいと思う。グレン老の決定とはいえ、いきなり現れた者を師団長にするのは、承服できない者も多いだろう。彼なら経験も豊富だし、長年実務を取り仕切ってきた」


 ヒルシュタッフ宰相が首を横に振った。


「ほかの師団とのバランスもある。私はユーティリス第一王子を推す。これまで通りカーター副団長が補佐を務めれば、体制にそう変化もない」


「レオポルド、そなたの意見はどうだ?」


 アーネスト陛下がたずね、魔術師団長のレオポルド・アルバーンは無表情に答えた。


「……私は師団長が誰であろうとかまいません。ですがまずネリア・ネリスに師団長室の封印を解いてもらいたい」


 全員の視線がいっせいにネリア・ネリスに集中し、それまで黙っていた小柄な娘はようやく口を開いた。


「わたしが王都シャングリラに来たのは、グレンの死を確認するため、そして彼との約束を果たすためです。『錬金術師団長になってくれ』とは頼まれていません。なのでもう帰ってもいいですか?」


カーター副団長の物差しペシペシ。

挿絵にもならないような細かい動きが、コミカライズでは見られるかも……と期待しています。

元は錬金術師1人にそれぞれ助手が2~3人つく設定でしたが、登場人物が多くなってしまうため省きました。

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