225.ネリアは『薬草園』をつくりたい
ひたすらずーっとおしゃべりしてます。
先頭を歩くオーランドがライアスを振りかえる。
「ライアス、得物はなにを持ってきた?」
「ナイフと鞭を……換装武器は鎌にしている。木を切るわけじゃないから斧はやめておいた。兄さんは?」
「ナイフと弓だ……たいがいのことは拳ですませるつもりだ。オドゥもくるかと期待したのだが」
オーランド……ライアスよりも血の気が多いんじゃ……そして彼はなぜかオドゥを気にいっている。
「オドゥは単独行動が多いからな……ああ、ネリアは知らないか。学生時代はレオポルドも一緒によく三人でここにきたんだ。ときには兄さんも加わってな」
「へぇ、三人ともやんちゃだったの?」
「え……俺は竜騎士になるための訓練にあけくれていたしな……どうだったかな」
ライアスの目が泳ぎ、オーランドが銀縁眼鏡のつるに手をかけて面白がるようにいった。
「まぁ、にぎやかだったな。実験室を半壊させたり教室を氷漬けにして、ロビンス先生にこってりしぼられたのはお前たちの学年だろう」
「そっ、それは俺じゃなくてレオポルドだ!たしかに俺もそこに居合わせたが……」
あの温厚なロビンス先生にこってりしぼられるなんて……レオポルド何やってんの⁉
「レオポルドは容姿でからかわれることが多くて、ケンカっ早かったんだ……入学当初は保健室の常連だった」
「うわぁ……」
「けれどレオポルドは努力家だし辛抱強い。それに面倒見もよかった」
「へえぇ……」
魔術学園の学生たちは優秀なだけに個人プレーをしがちだ。天才肌のレオポルドもそうかと思えば、グループのひとりひとりの練習につきあい丹念に面倒をみていたらしい。
「みなでやる課題では足をひっぱるようなヤツがいても、辛抱づよくそいつができるまでつきあう。まぁ、あきらめを許さない厳しさもあるがな。あいつが加わった組はいつも、優秀な成績をおさめていた」
それを聞いていたアレクが口をはさんだ。
「ヴェリガンも僕の練習にていねいにつきあってくれるよ、自分の仕事だってあるのに……ヴェリガンもすごいんだ!」
「そ、そんな……魔術師団長と僕とじゃ、ぜんぜんちが……」
「おなじだよ、ヴェリガンだって僕ができるまで何度もつきあってくれるじゃないか」
あわてたヴェリガンにアレクが口をとがらせると、オーランドもうなずいて同意した。
「魔力持ちは優秀な師をみつけることが重要だ。魔術学園に入学する前から、そのような師をみつけられたきみはとても幸運だな」
「アレクの師は……ヌーメリアで……」
ヴェリガンがよわよわしく反論したものの、オーランドは片眉をあげただけだった。
「魔術学園の教師だって何人もいる。師はべつに一人でなくともよかろう。錬金術師になるとき、改めて師を決める必要はあるかもしれないが」
「そうだよ、僕はヌーメリアの助手だけど、ヴェリガンを師と呼んでもいいでしょう?ヴェリガンはすごいんだよ、こんど研究室に川をつくって僕に魚釣りを教えてくれるんだ!」
「……ふぇっ⁉」
アレクのキラキラした瞳のプレッシャー……わかるよ、わたしもマウナカイアにいくまえそうだったもん。
できるって信じてまったく疑いもしないキラキラした瞳……ヴェリガンがんばれ!コールドプレスジュースが売れるといいね!
「それでネリアは何がほしいんだ?」
「まず自分のために魔力暴走の薬をつくりたいの。あとポーション作りのために素材庫の材料を補充したくて、ネコネリスの実やユーリカの花の蜜ね。できたらパパロスもほしいの」
ライアスに聞かれて今回の目的を説明すると、彼は不思議そうに聞きかえしてきた。
「パパロス……パパロッチェンの材料か。なぜそんなものを?」
ハッ!ライアスはわたしがカーター副団長にパパロッチェンを飲まされたことは知らないんだった……。
猫になったりとかあいつの世話になったりとか……やめて、わたしの黒歴史なのよおおお!
「あの、わたし魔術学園に通ったことないから興味があって。学園の生徒たちに流行る遊びなんでしょう?」
おずおずとしたわたしの説明に、ライアスは納得してくれたらしい。
「それならパパロスのほかにも、魔術学園でよく使う薬草をみていこう。採集にコツがいるからアレクもしっかり覚えてくれ」
「ありがとうございます、ゴールディホーン団長!」
アレクが元気よくいい、ライアスはアレクにむかってさわやかな笑顔をみせた。うっ、まぶしい!
「いちいち『ゴールディホーン団長』などと呼んだら舌をかむぞ?それにここにはゴールディホーンは二人いる。俺のことは『ライアス』と呼んでくれ」
「はい、ライアスさん!」
もぅ、アレクの目がキラッキラだ。ほんとライアスってカッコいいよね。
パパロスがほしいのはパパロッチェンが作りたいからなんだけど……その理由をあまり詮索されなかったので、わたしはホッとした。
「ライアスさん、〝パパロッチェン勝負〟って、なんで相手を強い怪物に変えたほうが勝ちなの。相手を弱くしちゃったほうが有利じゃない?」
「パパロッチェンはしあげに、変身させたいものの一部分をいれる。だからそれだけ強いヤツを材料として手にいれた者が勝ちだ。それにあれはただの変身遊びだから、相手を弱くしてやっつけるのとはちがう」
「そっか、弱いヤツにかえて叩きのめせばいいのに、なんで強いヤツに変えるんだろう……って思ってたんだ」
「おいおい、変身させるのは叩きのめすためじゃないぞ。変身させた時点で勝負はついているからな」
楽しそうに会話をつづけるアレクとライアスについて、わたしが後ろを歩いていたらオーランドが声をかけてきた。
「ネリス師団長は植物園に初めてくるのだし、薬草を手にいれるために無理はしないほうがいい。つらくなったらいつでもいってくれ。そのために私やライアスがいるのだから」
「えっ?あっ、オーランドさん、だいじょうぶだよ……でもありがとう!」
ライアスとオーランドは二人とも頼もしくて優しくて、ついつい甘えてしまいそうになる。けれど責任者はわたしなんだ……しっかりしなきゃ。
「今回は薬草の採集が目的だけど、エクグラシアの植物にも興味があるし、実際に植わっているところもみたいの」
わたしは歩きながらオーランドと話した。
「錬金術師団で薬草園を持てないかな……と思って、その下調べもかねてるの」
「薬草園?それはまた……凄腕の冒険者を雇う必要がありそうだな」
う……なんだかわたしが抱く薬草園のイメージが、こっちの人とちがうんですけど!
ようやく70万字超えました!
まぁ、これからもちょこちょこ改稿したりします。












