223.王立植物園に行きたい
よろしくお願いします!
「ララロア医師に借りたレシピノートをヌーメリアと一緒にみてたの。足りない材料がいくつかあって……ヴェリガンの研究室に生えてないかしら?」
そういうとヴェリガンは研究室で一番高いガトの木によじのぼっていき、毛布を敷いた寝床をゴソゴソ探してみつけた〝植物図鑑〟を持ってまた降りてきた。なんてとこにしまっているの……。
「ここにない薬草は……九番街にある王立植物園でそろう」
わたしとヌーメリアはそれをのぞきこむ。
「アレクも成長期になれば魔力暴走を起こすかもしれませんし……材料は調達しておきたいですね」
「王立植物園……いくにはちゃんと準備が必要だって、王都見物のときにライアスから聞いたんだよね」
わたしが三年間住んだデーダスは、荒野というだけあって乾燥した荒れ地が続いていた。シャングリラも都会だし植物をみかけるのは川沿いや街角の植えこみ、研究棟の中庭やヴェリガンの研究室ぐらいだ。
錬金術師なのだから素材としての植物はたくさんみている。けれどそれらはみな乾燥させたものが多く、土に生えている状態の植物をきちんと観察したことはない。そしてみせてもらった〝植物図鑑〟のなかに、わたしは見慣れない単語をみつけた。
「ねぇヴェリガン、これ……〝食獣植物〟って書いてあるけど〝食虫植物〟のまちがいじゃ?」
「ううん……〝食獣植物〟で正しい」
あってるんだ……花が歌ったり動物を食べたり、こっちの植物は能動的なんだなぁ……。
「ひょっとして歩く植物もいたりして」
「いる……植わってるくせにひっこぬくと……ダッシュで逃げてく」
……いるのかよ!
「マホウガニーの大木は種を落とすとその場所を種にゆずって、自分で歩いて引っ越しますよ。家具になっても大事にあつかわないと、腹をたてて家をでていってしまうんです」
魔術学園にあったあの教壇にそんな歴史があったなんて!
師団長室にある大きな天井まで届く本棚も、重厚なマホウガニー製だ。ソラが手入れしているからだいじょうぶだろうけど、家出しないかちょっと心配になった。
そんな話をしながらページをめくっていたら、〝薬用植物〟という項目のなかに〝パパロス〟という植物をみつけた。
「〝パパロス〟……〝パパロッチェン〟の材料になることで有名な芋。へぇ、〝パパロッチェン〟の材料って芋なのね。あっ、でも植物園で採集はできないよね……苗とか種だけでも手にはいるかしら」
「新鮮な〝パパロス〟が手にはいるのは、王都では王立植物園ぐらいですから……魔術学園のみんなはよく植物採集にいきますよ」
「そういうものなの?」
わたしがびっくりして聞き返すと、ヌーメリアはうなずいた。
「ほっといても増えすぎて困るものもありますし。オドゥもときどき素材をとりにいっているようです」
王立植物園かぁ……興味はあるけれど……薬草の採取もできたらやってみたい。そんなことを考えていたら、ちょうどライアスがエンツをくれた。
「わたしがいきたいところ?あるよ!ちょうどわたしもライアスに一緒にいってくれないか聞こうと思ってたの!」
「そうか、きみがいきたいのであれば、どんなところでもつきあおう!」
ライアスってば頼もしい!
「わたしたちだけじゃちょっと不安だったし、ライアスもきてくれたら心強いよ。あのね、〝王立植物園〟にいきたくて!」
ライアスが静かになった。
「ライアス?」
「……ネリア、いま『王立植物園にいきたい』と聞こえたんだが……」
「うん!あ、でもライアスもきっと忙しいよね……」
「いいや、きみがいきたいなら植物園にいこう。ならば夜がいいな……植物たちは寝ているから危険が少ない」
夜はたしかに植物たちも寝ているだろうけど……危険が少ない?
首をかしげたわたしの耳にライアスのきびきびした声が聞こえる。
「いちおう準備はきちんとさせてくれ……死力を尽くして戦うと誓おう!」
「う、うん……」
ライアスの勢いにおされるように返事をしてエンツをおえたあと、わたしは首をひねった。
死力を尽くすって……いくのは植物園だよね?
「えっ、ライアスと王立植物園にいくの?」
「うん、それでライアスの様子が変だったんだけど……」
中庭で昼食をとりながらその話をすると、オドゥがのんびりとコーヒーカップをもって苦笑した。
「ああ、まぁライアスでも手こずるかもねぇ」
「手こずる?」
オドゥの隣でもくもくと食事をしていたカーター副団長がニヤリと笑った。
「ふむ……王立植物園の園長とは懇意にしておりますからな……私が連絡をしておきましょう」
「え、と……それはどうも」
カーター副団長が親切だなんて、ちょっと不気味だ。
家で朝ごはんづくりは続けているようだし、魔道具師だった経験を活かしてグリドルにも積極的だけれど、もうメレッタは研究棟にこない。
そのためマウナカイアから戻ってきたら、カーター副団長の態度も元にもどった。
「ほかにもだれかくる?」
みんなの顔を見まわしたら、ユーリは食事の手をとめて眉をさげた。
「すみません……僕は儀式の打ち合わせで大聖堂にいかなければならなくて」
「ユーリはムリでしょ、立太子の儀もあるんだしケガでもしたら大変だよ。そうだねぇ……植物と相性のいい、ヴェリガンとアレクを連れていくといいよ」
オドゥは眼鏡のブリッジに手をかけ、人のよさそうな笑みをうかべた。
そして当日、研究棟に迎えにあらわれたライアスをみてわたしは目を丸くした。
わぁ、ワイルド!
ライアスはいつもの騎士服でもミスリルの甲冑でもなく、カーキ色をした野戦用の身軽なスタイルだ。
「ライアスかっこいい!すごく頼もしいよ!今日はきてくれてありがとう!」
わたしはライアスにアレクを紹介した。
「ヴェリガンの紹介は必要ないよね。こっちはアレク、ヌーメリアの甥御さんだよ。今日はわたしのほかにヴェリガンとアレクが参加するから」
「ライアス・ゴールディホーンだ、竜騎士団長をしている」
「よろしくお願いします、アレク・リコリスです」
アレクがおずおずとライアスの差しだした手をとると、ライアスはにっこりとさわやかな笑みをうかべた。
「アレクか、今日はよろしくな……時間をかけずに制圧したいから、きみにも戦力になってもらう」
「制圧?」
なんだか「死力を尽くす」とか「制圧したい」とか……ライアスの言葉遣いがやたら物騒だ。
わたしが不思議に思っていると、ライアスのほうもけげんな顔をした。
「これから〝王立植物園〟を見学にいくのだろう?」
「そうだけど……」
ライアスが眉間にシワを寄せて険しい顔になった。
「ならば制圧してしまったほうが楽だろう、いつどこから植物に攻撃されるかわからない」
……そうなの⁉
ありがとうございました!
もう一人ぐらい、だれか参加させようかなぁ…やっぱ筋肉ですかね。












