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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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22.レオポルド・アルバーン

挿絵(By みてみん)

魔術師団長レオポルド

紫のグラジオラス:瞳の色に合わせてよろづ先生にリクエストしました。

花言葉は『情熱的な愛』です。


 ミストレイが舞い降りたのは、ドラゴンたちが使えるように王都全体が見渡せる高さに造られた、〝天空舞台〟と呼ばれる本城のバルコニーだった。


 ドラゴンたちが舞い降りるさまが、まるで舞台で踊るように見えることから、そう名づけられたという。


 わたしはライアスの手を借りて、広々とした天空舞台に降り立つ。すると精緻な魔法陣の刺繍がある黒いローブを着た、長髪の人物がわたしたちを出迎えた。


 それはとても綺麗な人間だった。


(お、男の人よね?)


 まるで精霊かと思えるほど人間離れした美貌の青年が、背中まで流れる銀の髪を風になびかせ、わたしたちに向かってまっすぐ歩いてくる。


 すっと通った鼻筋にキリッと引き結んだ薄い唇、シミひとつない肌はつややかできめ細かい。しっかりした骨格で肩幅もあるから、決して線は細くないけれど、騎士のライアスとくらべて優美な印象だ。


 同じく銀のまつ毛に縁どられた瞳は、黄昏時の空みたいな美しい薄紫をしていた。じっと見ていると吸いこまれそうなほど、涼やかで神秘的な光を放っている。


 でも見た目のよりも強烈に彼を印象づけているのは、その身にまとう強い魔力の圧と、こちらに向けられた厳しい視線だった。わたしをにらみつけるようにして彼は言い放つ。


「……そのアホ面がネリア・ネリスか」


(アホ面⁉︎)


 確かにポカンと見とれていたかもしれないけど、初対面なのにいきなりひどい。 


「おい、レオポルド。可愛らしい女性にそんな言いかたはないだろう。ネリア、彼が魔術師団長のレオポルド・アルバーンだ。この通り口が悪くてすまない」


 ライアスがとりなすように紹介してくれたけど。この美しい人に向かって、可愛らしいとか……ありがたいんだけど穴掘って隠れたい。


 そしてレオポルド・アルバーンという名前に、わたしは聞き覚えがある……この人が『イルミエンツ』の送り主⁉


「可愛らしい……?お前にはこいつが可愛らしく見えるのか?」


 彼はわたしを睨みつけたまま、凍えるような冷気を帯びた声で意外そうに呟いた。


「私には……化け物にしか見えないが」


「!」


(ばっ、化け物⁉︎まさかの化け物判定っ⁉︎)


 そっ、そこまでひどいかなぁっ⁉そりゃこんな美形から見たら、誰でもブスだろうけど。いや、もう歩く美形ハラスメントだよ。ライアスが彼を注意した。


「レオポルド……お前、言いすぎだ」


「私が言いたいのは……いや、いい。さっそく〝竜の間〟で陛下に謁見する」


 きびすを返そうとしたレオポルドを、わたしは慌てて呼び止めた。


「あ、ちょっと待って!まずはグレンの死を確認したいです。遺体はどこに?」


 レオポルドはもの凄く煩わしそうに振り向いた。肩にかかる銀髪がさらりと流れる。


「……二日前にグレンの心臓は動きを止めた。死亡は王城医師団が確認している。遺体はない」


「遺体はないって……どうして?」


「錬金術師の癖に知らないのか?」


 レオポルドは馬鹿にしたように眉を持ち上げた。


「魔力持ちの個体はいい素材になる。それこそ髪の毛一本から爪一枚まで利用価値がある」


「なっ」


「自分の死体を利用されないために、我々は死後に肉体が消滅する術式を自ら体に施している。あとに残るのは魔力を凝縮した魔石だけだ」


 一瞬、グレンがバラバラにされてしまったのかとびびったが、そうではないらしい。


「グレンは魔石になってしまったってこと?それは今どこに?」


 レオポルドは聞かれたくなかったように、眉間にしわを寄せ大きく息を吐いた。


「魔石は私が保管している」


「なぜあなたが?魔術師団長だから?」


「……」


 答えを返さない彼のかわりに、ライアスが口を開いた。


「ネリア、レオポルドはグレン老の息子だが……知らないのか?」


「え」


 今なんて言った?……息子って言った?グレン老の……息子⁉︎


「え?ええっ?グレンの息子さん⁉︎」


 思わず、レオポルドの顔をガン見すると、彼はとても嫌そうに顔を歪めた。


 はぁ……歪めた顔も美しいってどんだけ……わたしは必死にグレンの面影を、目の前の整った美貌の持ち主の中に探した。


(うーん……同じ銀髪だけどグレンはボサボサだったし、しいて言えばすっと通った鼻筋が似てるかも)


 そこまで観察して、わたしはハッとする。


「じゃあ……じゃあっ、デーダスの家とかも、本当はあなたの物なんじゃないの⁉」


「……生物学上の父親というだけだ。()()とは何の関わりもない」


 レオポルドはいまいましげに吐き捨てる。


「グレンの魔石が見たいなら後で見せる。錬金術師団の動きが怪しい、急いでくれ」


 レオポルドは無表情にわたしを見下ろし、ぞっとするような冷たい声でとんでもないことを言いだした。


「ひとつ言っておくが、だれもお前が錬金術師団長になることなど望んでいない。グレンの愛人だか何だか知らないが、師団長室の封印を解いたらさっさとデーダスにでもどこにでも行くがいい」


「あ、愛人~⁉︎」


「レオポルド、いいかげんにしろ!」


 わたしは怒りのあまり口をパクパクさせたけれど、それ以上言葉にならない。


 殴っていいですか⁉︎殴っていいよね⁉︎


 うっかりその美貌に見とれたさっきの自分を、叱り飛ばしてやりたい。


(こいつ、最っ低!)


 怒りのあまり拳をにぎりしめたわたしに、ライアスがそっと耳打ちした。


「ネリア、君が愛人なんかじゃないのは知っている。気持ちはわかるがやめてお。レオポルドにケンカを売るのは戦争を起こすぐらいの覚悟がいる。魔術師としても最強だが、騎士の訓練も受けていてドラゴンにも乗れるヤツだぞ?」


 なんなの⁉︎そのパーフェクトっぷり!


 だいたいどうして愛人⁉︎


 あ、でも自分の知らないうちに父親の家に住み着いて、遺産まで譲られる女って……息子から見たら愛人に見えるかも……いやああああ!


 グレン爺、なんて面倒なことをしてくれた!


 くぅ、でも言われっぱなしも嫌だ。


「さすが親子ね、最低の毒舌野郎っぷりがグレンによく似ているわ」


 すると鋭利な刃物で切り刻まれそうな勢いで睨まれた。うん、視線だけで人を殺せるなら、わたし今百回ぐらい死んだ。


「ははは、ネリアはやっぱり豪胆だな!レオポルドにひるみもしないとは」


 ライアスは楽しそうに言うけどね、『豪胆』って女性に対する褒め言葉じゃないからね?わたしとしてはライアスにも、レオポルドにもっと怒って欲しかったよ!


 ライアスの好感度まで一緒に下がったからね!……うん、八つ当たりだよ、分かってるよ!


 シャングリラの都に到着したとたん、人外の美貌の青年(恩人の息子さん)から『化け物&愛人』呼ばわりされました。


 本日一番の衝撃に、わたしのライフポイントはほぼゼロ。ゲームだったら瀕死の状態。それぐらいぼうぜんとしてる。


 これから王様と謁見って……え……無理でしょ……。

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― 新着の感想 ―
まだ読み始めて間もないのですが、世界観の丁寧な書き込みと読みやすさは勉強になります。一通りこちらを読んだら書籍にも手を出してみようかと………この先も楽しみにしております。では。
[良い点] えっ? グレンの……。びっくりしました。だとするとネリアの存在は彼にとってかなり目障りかも……。 視点がさらに増えて、それにもちょっとびっくりですが、どのキャラも作り込んでいるからこそ出来…
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