212.納得いかないんだけど⁉
300万PV達成してました!
それだけ多くの時間をいただいたってことですよね……ありがとうございます!
「うわぁ!ユーリの研究室って三階だから見晴らしがいいね!」
わたしは部屋に入るなり、窓に駆け寄って歓声をあげる。横にやってきたユーリもうなずくと、窓からそびえ建つ王城を見あげた。
「そうですね、王城が邪魔ですが」
「ええ?これくらいなら、じゅうぶん日当たりもいいし最高だよ!ユーリも気に入ってるでしょ?」
「はい」
季節は秋だから、窓から射しこむ日差しもだいぶ柔らかい。
部屋を見回すと大きな本棚には本が並び、どっしりした机には魔道具や計器がいくつも置かれている。
部屋のすみにお茶コーナーがあるのが彼らしい。その上の壁にはマウナカイアで仲良くなった画家さんの絵が飾られていて、わたしはちょっとうれしくなる。
ユーリはキラキラ王子様だけど、ふだん身につけたり使ったりするのは飾りの少ないシンプルなものを好む。
そのせいか彼の研究室も、王族が住む奥宮みたいな落ち着きがある。無意識に寄せているのかもしれない。
「ネリアってば、ずいぶん珍しそうにユーリの部屋キョロキョロ見てるね」
お茶のカップを受け取ったオドゥは、まるで自分の部屋にいるみたいに、のんびりと椅子に座る。
「だって前に来たときは、そんな余裕なかったもん。ねぇ、オドゥの研究室もあとで見せて?」
わたしが持ちかけると、彼はすっと目を細めた。
「僕の?」
「そう、オドゥの研究室だけまだちゃんと見てないし。いいでしょ?」
錬金術師たちにとって、研究室はそれぞれの聖域みたいなものだ。
師団長になってすぐに、わたしはカーター副団長の案内で、みんなの研究室を見て回ったけれど、不在だったオドゥの部屋はなんとなく行きそびれていた。
それはわたしが彼を避けていたせいもあるんだけど……師団長としてやっていくからには、いつまでもそんなことは言っていられない。
そう思ってオドゥを見返すと、彼はふっと目元を緩めてわたしにほほえむ。
「そうだね……あとでね」
「それで魔力制御の魔道具ってどうするの?アレクが身につけている腕輪みたいなもの?」
アレクはまだ子どもで魔力が安定しないから、ヌーメリアが手作りした腕輪を身につけている。それがないと近くにある魔道具を壊してしまうのだとか。
「ええ、昔と違って現在使われている魔道具の魔導回路は複雑で、ムラのある魔力に弱いんです」
子どもの魔力は大人に比べると弱いけれど、感情に任せて暴発することもあるらしい。
アレクは緊張すると魔力が不安定になるため、ヌーメリアはソラと相談しながら、彼がリラックスして過ごせるように心がけている。
ヴェリガンと関わるようになって、アレクの魔力も安定してきたというから、いい影響があってよかった。
なにが起こるかわからないからと必要以上に恐れず、魔力を積極的に使っていくほうがよさそうだ。
「僕は山育ちだから、家にあった魔道具は古いものばかりで、魔力制御なんて気にしたことないよ。けど王都では魔道具を身につける子が多いみたいだな。レオポルドもガチガチにつけてた」
「ガチガチ?ヨロイみたいな魔道具でもつけてたの?」
わたしがたずねると、伸びをしたオドゥはポキポキと首を鳴らしながら答える。
「違う違う。腕輪とか耳飾りだから、今とたいして変わんないけど、なにつけてもアイツはかわいくなっちゃうから、さらわれそうで一緒に街を歩くと心配だった」
「ふうん、さらわれそうにかわいいレオポルドなんて、今じゃ想像できないね」
うーん……アクセサリーをいっぱいつけたソラが、トコトコ歩いてついてくる感じかな?
「今も美形ですけど、みんな遠巻きにしていますよね」
「あれは……アルバーン公爵夫人がアクセサリーがわりにアイツを連れ歩いて、それで無愛想になったんだ」
あの態度の悪さは公爵夫人が原因なのかぁ。確かレイバートで公爵夫妻と会ったけれど、ぼんやりとしか思いだせない。
「あのさ、魔力暴走も魔道具で抑えられる?」
ちょっと期待して質問すると、オドゥが難しい顔をする。
「それができたら、レオポルドも苦労しなかったし、ユーリ以外にもグレンと契約したがるヤツはいただろうね。学園時代のアイツはよく倒れてた」
「倒れてた?」
「魔力は伸び続けるのに体は小さいままで、力任せに使ったら体のほうがもたない。アイツ時々とんでもない無茶するから、心臓が止まったこともあった」
「心臓が……⁉︎」
危険なのは知っていたけど、それほどだとは思ってもいなかった。でも……わたしが魔力暴走を起こしたときの苦しさを考えれば、少年だった彼の体にもすごい負担だったのだろう。
「レオポルドはさぁ、ふだんから魔力の圧がすごいだろ?学園時代からのクセなんだ。魔力をたれ流しておかないと暴発する危険があったんだよ」
「そんなに危なかったんだ……」
「魔力制御の魔導回路でできるのは、魔素の乱れを整えるだけで、魔力そのものは抑えられないんです」
「ユーリは大丈夫だったの?」
わたしが確認すると、ユーリは苦笑してうなずいた。
「これでも慎重なんですよ。レオポルドは十二歳だったけど、僕は十四歳になってからグレンと契約しました。魔力の伸びは鈍くなりましたが、体があまりに小さいと耐えられないと知っていたので」
「ユーリのときはグレンも改良したんだろうな。僕が頼んだときは断られたから」
その言葉に、わたしとユーリは目を丸くする。
「オドゥまでグレンに頼んだの?」
「それ、初耳ですよ」
眼鏡の錬金術師は、なんでもないように肩をすくめた。
「えぇ?レオポルドの魔力はどんどん増えるし、もちろん僕もグレンに願ったさ。それなのに断られてさぁ。そんなの言いたくないじゃん」
バカをするヤツがもうひとりいた。なんとなくわかってた、うん。
「ともかく、魔力が制御できなくなった状態が魔力暴走で、保有魔力が大きいほど被害も大きくなる。それを無理に抑えても意識を失い、死ぬことだってある」
眼鏡のブリッジに指をかけて、オドゥはわたしを見る。
「ネリアが師団長室で倒れたとき……かなり危なかった。自分でわかってる?」
「うん……レオポルドが薬を持ってきてくれて助かったよ」
あのとき彼がすぐに対処できたのは、自分も何度も経験していたからかも。
もし彼がわたしを放っていたら……。ぎゅっと唇をかみしめると、オドゥが静かに言った。
「そうだね、グレンに拾われたことといい、運がいいよネリアは。そろそろ作業をはじめようか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それからすぐに、オドゥがあきれた声をだす。
「ネリア……魔道回路引くの、ヘタすぎない?」
「へっ、そう?」
ユーリまでわたしの手元をのぞきこみ、感心したようにつぶやく。
「ライガの術式を読んだときも思いましたが、ネリアの術式って力技で動かしますよね。微量の魔素で働く繊細な魔導回路は……超ヘタなんですね」
「しみじみと『超ヘタ』って言わないで……」
「いや、だってこれ……センスないなんてレベルじゃないよ。よくこれで師団長やってられるね」
涙目になったところに、オドゥがさらに追い打ちをかけた。そっ、そこまで⁉︎
「こっ、細かい設計は師団員のみんなにお任せしてるもんで!」
おねがい……ふたりしてわたしの手元をのぞきこまないで!
あのね、術式を書くようになって二年とちょっとなの。物心ついたときから、せっせと魔道具いじりしてたユーリみたいにはいかないの!
「グリドルの術式はちゃんと書けてたじゃないですか」
「あれは必要に迫られてっていうか、ちゃんとしたものが食べたくて……」
ユーリがふしぎそうに首をかしげた。
「ちゃんとしたもの?」
「だってグレンは料理なんかしなかったし、食事も保存食とか干し肉で……キッチンもコンロもないから、調理ができる魔道具をなんとか作ろうと……」
そこでふたりはようやく納得したらしい。顔を見合わせてウンウンとうなずき合っている。
「ああ、それで」
「ネリアって食いしん坊だもんね」
ちょっと待って!
そこで納得されても……こっちが納得いかないんだけど⁉︎











