211.納得いかないんだけど⁉
300万PV達成してました!
それだけ多くの時間をいただいたってことですよね……ありがとうございます!
「うわぁ!ユーリの研究室って三階だから見晴らしがいいね!」
わたしは部屋にはいるなり窓に駆け寄って歓声をあげた。横にやってきたユーリもうなずくと、窓からそびえ建つ王城を見あげた。
「そうですね、王城が邪魔ですが」
「ええ?これくらいならじゅうぶん日当たりもいいし最高だよ!ユーリも気にいってるでしょ?」
「はい」
季節は秋だから窓からさしこむ日差しもだいぶやわらかい。
部屋を見まわすと大きな本棚には本がならび、どっしりとした机には魔道具や計器がいくつも置かれている。
コーナーに茶道具を置く場所があるところが彼らしいとおもった。その上にはマウナカイアで仲良くなった画家さんの絵がかけられていて、わたしはちょっとうれしくなる。
ユーリはキラキラ王子様だけど、ふだん身につけたり使ったりのは飾り気の少ないシンプルなものを好む。
ユーリの研究室もリメラ王妃に連れられてはいった王族用の居住区のように落ち着いた感じがする。無意識に寄せているのかもしれない。
オドゥはユーリが淹れたお茶を受けとると、まるでそこが自分の部屋みたいにのんびりと椅子にくつろいだ。
「ネリアってばずいぶん珍しそうに、ユーリの部屋キョロキョロ見てるね」
「だって前にきたときは、そんな余裕なかったもん。ねぇ、オドゥの研究室もあとで見せて?」
「僕の?」
わたしが持ちかけると、オドゥがすっと目を細めた。
「そう、オドゥの研究室だけまだ見せてもらってないもの。いいでしょ?」
各自の研究室はそれぞれの聖域のようなものだから、わたしも勝手に立ちいらないようにしている。
師団長になってすぐにカーター副団長の案内でみんなの研究室をみてまわったけれど、不在だったオドゥの部屋はなんとなく行きそびれていたのだ。
それはわたしがオドゥをさけていたせいもあるんだけど……師団長としてやっていくからには、いつまでもオドゥを苦手とするわけにもいかない。
そう思ってオドゥを見つめると、彼はふっと目元をゆるめてわたしに微笑んだ。
「そうだね……あとでね」
「それで魔力制御の魔道具ってどうするの?アレクが身につけている腕輪みたいなもの?」
アレクはまだこどもで魔力が安定しないから、ヌーメリアが手作りした魔力制御の腕輪を身につけている。それがないと近くにある魔道具を壊してしまうこともあるのだと聞いた。
「ええ、昔とちがい現在使われている魔道具の魔導回路は複雑で、むらっ気のある魔力に弱いんです」
子どもの魔力は大人にくらべ弱いが、感情にまかせて暴発することもあるらしい。
アレクは緊張すると魔力が不安定になるので、ヌーメリアはソラと話し合いながら彼がリラックスして過ごせるように心がけている。
「ヴェリガンと関わるようになってアレクの魔力も安定してきたんですよ」
そうヌーメリアがうれしそうに教えてくれたから、魔力というものは何が起こるかわからないからと必要以上に恐れず、積極的に使っていくほうがよさそうだ。
「僕は山育ちだからまわりにある魔道具は古いものばかりで魔力制御なんて気にしなかったけど、都会っ子は魔力制御の魔道具を身につけるみたいだな。レオポルドなんかガチガチだったよ」
「ガチガチ?ヨロイみたいな魔道具でもつけてたの?」
わたしがたずねると、オドゥが伸びをしてポキポキと首を鳴らしながら答える。
「ちがうちがう、腕輪とか耳飾りだからいまとたいして変わんないけど、アイツ何つけても可愛くなっちゃうんだよなぁ……いっしょに街を歩くと人さらいにあいそうで心配だった」
「ふうん、さらわれそうな可愛いレオポルドって……いまじゃ想像できないぐらい無愛想だけど」
うーん……アクセサリーをいっぱいつけたソラが、とことこ歩いてついてくるような感じなのかな?
「いまも美形ですけど、みんな遠まきに避けている感じですよね」
「あれは……公爵夫人がアクセサリー代わりにアイツを連れ歩きたがったから、なおさら無愛想になったんだ」
あの態度の悪さは公爵夫人が原因なのかぁ……公爵といっしょに夫人ともレイバートで顔を合わせたはずだけれど、ぼんやりとしか思いだせない。
「あのさ、魔力暴走も魔道具でおさえられる?」
ちょっと期待して質問すると、オドゥがむずかしい顔をして首を横にふった。
「それができたらレオポルドも苦労しなかったろうし、ユーリ以外にもグレンと契約したがるヤツはいただろうね……学園時代のレオポルドはよく倒れたんだ」
「倒れた?」
「魔力は伸び続けているのに体は小さいままで、力まかせに魔力を使うと体がもたないんだ。アイツときどきとんでもなく無茶して、心臓が止まったことも何度かあったよ」
「心臓が……⁉︎」
危険だとは思っていたけれど、それほどだとは思ってもいなかった。でも……わたしが魔力暴走を起こしたときの苦しさを考えれば、少年だったレオポルドの体にはものすごい負担がかかったのかもしれない。
「レオポルドはさぁ、ふだんから魔力の圧がすごいだろ?学園時代からのクセなんだ。魔力をたれ流しにしておかないと暴発する危険があったんだよ」
「そんなに危なかったんだ……」
「魔力制御の魔導回路でできるのは、魔素の流れを整えて乱れをおさえるだけ。魔力そのものをおさえることはできないんです」
「ユーリは大丈夫だったの?」
わたしがユーリに確認すると、彼は苦笑してうなずいた。
「僕はこれでも慎重なんです。レオポルドのように十二歳ではなく、十四歳になってからグレンと契約しました。魔力の伸びは鈍くなりましたけどね……体があまりに小さいと魔力に耐えられないのがわかっていたので」
「グレンもユーリと契約するまでに、術を改良したんだろうな。僕が頼んだときは断られたから」
オドゥが何気なくいった言葉に、わたしとユーリは目を丸くする。
「オドゥまでグレンに頼んだの?」
「オドゥ、それ初耳ですよ」
オドゥはなんでもないことのように肩をすくめた。
「えぇ?目の前でレオポルドの魔力がどんどん増えていくんだ、もちろん僕もグレンに願ったさ。それなのに断られてさぁ……そんなのいいたくないよ」
バカなヤツがここにもう一人いたよ……なんとなくわかってた、うん。
「ともかく魔力が制御できない状態のひどいものが魔力暴走、もっている魔力が強いほど暴走したときの被害も大きい。それを抑えようと内側にむかえば意識を失ったり、最悪死にいたることもある」
オドゥが眼鏡のブリッジに指をかけてこちらをみた。
「ネリアが師団長室で倒れたときは……かなり危なかった。自分でわかってる?」
「うん……レオポルドが薬を持ってきてくれて助かったよ……」
あのとき彼がすぐに対処できたのは、自分も何度も経験してたからなのかも。
彼はわたしを放っておいてもよかったのだし、もし彼がそうしていたらわたしは……。ぎゅっと唇をかみしめたわたしにオドゥが静かにいった。
「そうだね、運がいいよネリアは。グレンに拾われたことといい……そろそろ作業をはじめようか」
それからすぐオドゥがあきれた声をだした。
「ネリア……魔道回路ひくの、ヘタすぎない?」
「へっ、そう?」
ユーリまでわたしの手元をのぞきこみ、感心したようにつぶやく。
「ライガの術式を読んだときも思いましたが……ネリアの術式って力技で動かすものが多いですよね。微量の魔素でうごく繊細な魔導回路はむしろ……超ヘタなんですね」
「しみじみと『超ヘタ』っていわないで……」
涙目になったわたしに、さらにオドゥが追い打ちをかけた。
「いや、だってこれ……センスないなんてレベルじゃないよ。よくこれで師団長やってられるね」
そっ、そこまで⁉︎
「こっ、細かい設計は師団員のみんなにお任せしてるもんで!」
おねがい……二人そろって手元をのぞきこまないで!
あのね、術式書きはじめて二年とちょっとなんだよ。物心ついたときからせっせと魔道具いじりしているユーリには、どうしたって負けるんだよ!
ユーリがふしぎそうな顔をして首をかしげた。
「グリドルの術式はちゃんと書けてたじゃないですか」
「あれは必要にせまられてっていうか、ちゃんとしたものが食べたくて……」
「ちゃんとしたもの?」
「だってグレンは料理なんかしなかったし、食事も保存のきく固形食糧や干し肉とかで……台所もコンロもなかったし、なんとか調理ができる魔道具がつくれないかって……」
そこで二人はようやく納得したらしい。顔を見合わせると、うんうんとうなずきあっている。
「ああ、それで」
「ネリアって食いしん坊だもんね」
ちょっと待って!
そこで納得されても……こっちが納得いかないんだけど⁉︎
ネリアは自分が食いしん坊だって、バレてないとでも思っているんでしょうか……。












