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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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21.王都シャングリラ

ブクマ&評価ありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

ネリア・ライアス・ミストレイ

(絵:よろづ先生)

 錬金術師ウブルグ・ラビルのヘリックスを使った襲撃の後始末を終え、ようやくわたしたちが王都シャングリラに着くと、もう日は傾きかけていた。悠々と城壁を越えるドラゴンたちを、警備兵が敬礼で出迎える。


「うわぁ……大きい……」


 王都シャングリラは、圧巻のひと言に尽きた。わたしはミストレイの背中から、ため息をもらす。


 近くで見ればその広大さに圧倒される。見渡すかぎり地平を埋め尽くす建物が整然と並んでいるのに、無機的な冷たさを感じない。


 街を大きな城門がある高い城壁がぐるりと取り囲み、魔導列車の線路が放射状に延びている。


 竜騎士団のドラゴンたちは、国に飼われているのとは違い、エクグラシアと契約しているようなものだと、ライアスが説明してくれる。


 もともとドラゴンが守護していた土地に、人々が住み着き発展したのが、エクグラシアの始まりだという。



「王城はミストレイの住まいでもある。このシャングリラは竜王の縄張りであり、守護する土地なのだ」


 竜騎士団のドラゴンたちは、国に飼われているのとはちょっと違い、エクグラシアと契約しているようなものらしい。


「魔力を大事にし、人とドラゴンが共存共栄したことでこの国は栄え、大陸でも屈指の魔導大国となった」


「すごいね……」


「もう少し日が高ければ、街並みがハッキリと見渡せたのだが」


 黄昏色の空から見下ろすシャングリラは、暗闇に沈む一歩手前で、灯された明かりが建物を彩り始めたところだ。薄暮の中染まる街並みが、幻想的な風情を見せている。


 街並みの美しさに見とれると同時に、その明かりひとつひとつに人々の営みがあるのだと思うと、突然息苦しさを覚えて怖くなる。


「……」


 心臓がドクンドクンと嫌な音を立てはじめる。


 わたし。


 こんなに人が大勢いるところで、やっていけるんだろうか。


 ずっとデーダス荒野の一軒家で、引きこもるように暮らしてきた。家のまわりは、見渡す限り無人の荒野で。ときどき黒いカラスが遊びにやってくるぐらいで、グレン爺を訪ねる者もなく。


 考えてみればこっちの世界に来てから三年、接したのはグレン・ディアレスひとりきりだ。


 それなのに昨日からメロディ・オブライエンやオドゥ・イグネル、ライアス・ゴールディホーンと立て続けに出会って。竜騎士団のみんなやウブルグ・ラビルとも会話して。正直いっぱいいっぱいだ。


 こんなに人が大勢いるところで、わたしは飲みこまれずに、やっていけるんだろうか。濁流に巻きこまれる木の葉みたいに、大勢の中で流されて、息も吸えずに溺れてしまわないだろうか。


 わたしはギュッと唇を噛む。こちらに来てからの生活を支えてくれていた、グレン爺はもういない。


 錬金術師として仕事して生活して、生きていけるんだろうか。


 わたしを狙ってきた錬金術師団のことも気になる。グレンの遺産ぐらいで命を狙われたくないもの。


 わたしは。


 これから……どうすればいいんだろう。


「ネリア?」


 考えに沈んでいたわたしは、ライアスに話しかけられて現実に引き戻された。


「えっ?ああ、ごめんライアス。ぼーっとしてた」


 あわててライアスを見上げると、彼はわたしに向かって照れ臭そうに提案してきた。


「もし……よければだが、ネリアは王都にきたのは初めてなのだろう?今度、俺に案内させてくれないか?」


「えっ?」


「その、もちろん、落ち着いてからでいいのだが」


「わ、うれしい!ありがとう!お願いするね!」


 ライアス、ほんといい人だ。わたしが喜んで返事をすると、ほっとしたように目尻を下げて優しく微笑んでくれた。


 黄昏色の空で柔らかに輝く、彼の金髪は光の糸みたい。蒼い瞳も深みを増してゆらめいている。いや、もう、激烈に格好いいです。さっき黒蜂を相手に戦っていたときの勇ましさと、今の優しい笑顔とのギャップにクラッとする。


「うん、楽しみなことができた!わたしがんばる」


 そうだね、ライアスにシャングリラの街を案内してもらおう。魔導列車で出会ったメロディのお店にも遊びに行きたい。怖がってばかりじゃダメだ。


「ライアス、わたしね……錬金術師団長を引き受けようと思う」


「そうか」


「あんなやつら、野放しにしておけないでしょ?」


 明るく言うと、ライアスも屈託なく笑った。そう、逃げだすのはいつでもできる。


「確かにな、大変だと思うが、何かあれば遠慮なく俺のことも頼ってくれ」


「うん、お願いします」


 前を見つめるとシャングリラの中心に、マール川の支流を引きこんでつくられた堀と大きな森に囲まれた、広大な敷地にそびえる王城が見えてきた。


 王城前には大きな時計塔がある広場があり、その奥に建つ王城はそれ自体が、ひとつの街と言えるぐらい大きい。


「あれが王城だ。本城を挟むように魔術師団の本拠地の『塔』と、竜騎士団の本拠地の『竜舎』が建てられている。向かって右手に建つ尖塔が『塔』、左手にある『竜舎』は、竜の寝床と騎士団の訓練所で成り立っている」


「錬金術師団は?」


 わたしが尋ねると、ライアスは王城を真っすぐに指差した。


「こちらからは見えない……本城の裏手の三階建ての建物、それが錬金術師団の本拠地、『研究棟』だ」


「三階建ての建物……」


 錬金術師達の集まる本拠地、王城の『研究棟』……広い王都の中心にありながら、どこか異質で浮いた場所。わたしはそこに向かうのだ。


 他のドラゴンたちと別れ、ミストレイだけが王城の中でひときわ高い建物の、ドラゴンが降りられるように作られているのだろう、広々としたバルコニーに降り立つ。


 ミストレイは王城全体に響くような一際高い鳴き声をあげ、竜王の帰還を知らせた。





 実はヘリックスを倒した直後、マール川河畔にて遮音障壁を展開した竜騎士たちのあいだでは、こんな会話が交わされていた。


「団長!王都に着くまでに絶っ対ネリア嬢にシャングリラを案内する約束!取り付けてくださいねっ!」


「!……今は職務中だぞ!」


「何言ってんです!王都着いたらふたりきりになれるチャンスなんてないっすよ!」


「そうそう、可愛い子ほど売れるのが早いの、団長知らないでしょ!次に会うまでに他の男とデートの約束してたらどうすんです?」


「!」


「生真面目なのもいいけど、こういう時はぽぽーん!とね!」


「ぽぽーん……」


「そう、ぽぽーん!」

……団長、頑張りました。

挿絵(By みてみん)

3巻書影

(絵:よろづ先生)

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