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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

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21.王都シャングリラ

ブクマ&評価ありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

ネリア・ライアス・ミストレイ

(絵:よろづ先生)

 錬金術師ウブルグ・ラビルのヘリックスを使った襲撃の後始末を終え、ようやくわたしたちが王都シャングリラに着くと、もう日は傾きかけていた。悠々と城壁を越えるドラゴンたちを、警備兵が敬礼で出迎える。


「うわぁ……大きい……」


 王都シャングリラは、圧巻のひと言に尽きた。わたしはミストレイの背中から、ため息をもらす。


 近くで見ればその広大さに圧倒される。建物が見渡すかぎり地平を埋め尽くし、街並みは整然としているのに、大都市らしい無機的な冷たさは感じない。


 高い城壁がぐるりと街を取り囲み大きな城門がある。そこから魔導列車の線路が放射状に延びていた。


 ライアスの説明では、 竜騎士団のドラゴンたちは、国に飼われているのとはちょっと違い、エクグラシアと契約しているようなものらしい。


 もともとドラゴンが守護していた土地に、人々が住み着き発展したのが、国のはじまりだという。


「このシャングリラはミストレイの住まいでもある。エクグラシアは竜王の縄張りであり、彼らが守護する土地なのだ。人とドラゴンが共存したことでこの国は栄え、大陸でも屈指の魔導大国となった」


「すごいね……」


「もう少し日が高ければ、街並みがハッキリと見渡せたのだが」


 黄昏色の空から見下ろすシャングリラは、暗闇に沈む一歩手前で、灯された明かりが建物を彩りはじめたところだ。薄暮のなかで染まる街並みが、幻想的な雰囲気をだしていた。


 街並みの美しさに見とれると同時に、その明かりひとつひとつに人々の営みがあると思うと、急に息苦しさを感じて怖くなる。


「…………」


 心臓がドクンドクンと嫌な音を立てはじめる。


 わたし……こんなに人が大勢いるところで、やっていけるんだろうか。


 ずっとデーダス荒野の一軒家で、引きこもるように暮らしてきた。家のまわりは、見渡すかぎり無人の荒野で、ときどき黒いカラスが遊びにやってくるぐらい。


 こっちの世界にきてから三年、接したのはグレンひとりきりで、彼を訪ねる者もいなかった。


 それなのに昨日から、メロディ・オブライエンや、ライアス・ゴールディホーン、オドゥ・イグネルと立て続けに出会って。竜騎士団のみんなやウブルグ・ラビルとも話して。正直いっぱいいっぱいだ。


 こんなに人がいるところで、わたしは飲みこまれずに、やっていけるんだろうか。濁流に巻きこまれる木の葉みたいに、大勢のなかで流されて、息も吸えずに溺れてしまったらどうしよう。


 わたしは目をつぶり、ギュッと唇を噛みしめた。こちらにきてからの生活を支えてくれた、グレン爺はもういない。心細いのはきっとそのせい。


 錬金術師として仕事して生活して、生きていけるんだろうか。


 わたしは。


 これから……どうすればいいんだろう。


「ネリア?」


 考えに沈んでいたわたしは、ライアスに話しかけられて現実に引き戻された。


「えっ?ああ、ごめんライアス。ぼーっとしてた」


 あわててライアスを見上げると、彼はわたしに向かって照れながら提案してきた。


「もし……よければだが、王都がはじめてなら俺が案内しようか?」


「えっ?」


「その、もちろん、落ち着いてからでいいのだが」


「わ、うれしい!ありがとう!お願いするね!」


 ライアス、ほんといい人だ。わたしが喜んで返事をすると、彼はほっとしたように目尻を下げて優しくほほんだ。


 黄昏色の空で風に吹かれ、彼の金髪は光の糸みたいに柔らかく輝く。深みを増した蒼い瞳がゆらめいて……いやもう、激烈にかっこいいです。さっき黒蜂を相手に戦ったときの勇ましさと、今見せる優しい笑顔とのギャップにクラッとする。


「うん、楽しみなことができた!わたしがんばる」


 そうだね、ライアスにシャングリラの街を案内してもらおう。魔導列車で出会ったメロディのお店にも遊びに行きたい。怖がってばかりじゃダメだ。


 だいじょうぶ……心の中でそう、自分に言い聞かせた。


「ライアス、わたしね……錬金術師団長を引き受けるつもり。あんなやつら、野放しにしておけないでしょ?」


「ちがいない」


 明るく言うと、ライアスも屈託なく笑った。そう、逃げだすのはいつでもできる。


「大変だと思うが、何かあれば遠慮なく俺のことも頼ってくれ」


「うん、お願いします」


 前を見つめるとシャングリラの中心に、マール川の支流を引きこんで造られた堀と森に囲まれた、広大な敷地にそびえる王城が見えてきた。


 城自体がひとつの街といえるぐらい大きく、手前には大きな時計塔が建つ広場がある。


「あれが王城だ。本城を挟むように魔術師団の本拠地である『塔』と、竜騎士団の本拠地の『竜舎』が建てられている」


 向かって右手に建つ尖塔が『塔』で、左手にあるのが竜の寝床と騎士団の訓練所である『竜舎』らしかった。


「錬金術師団は?」


 わたしがたずねると、ライアスは王城をまっすぐに指差す。


「こちらからは見えない。本城の裏手に三階建ての建物がある。それが錬金術師団の本拠地、『研究棟』だ」


「三階建ての建物……」


 錬金術師たちのいる王城の『研究棟』は、広い王都の中心にありながら、どこか異質で浮いた場所で……わたしはそこに向かうのだ。


 ほかのドラゴンたちと別れ、ミストレイだけが王城でひときわ高い建物の、ドラゴンが降りられるように造られた、広々としたバルコニーに降り立つ。


 ミストレイは王城全体に響くような、ひときわ高い声で鳴き、竜王の帰還を知らせた。


【オマケ】

 実はヘリックスを倒した直後、マール川河畔にて遮音障壁を展開した竜騎士たちのあいだでは、こんな会話が交わされていた。


「団長!王都に着くまでに絶っ対、ネリア嬢にシャングリラを案内する約束!取りつけてくださいねっ!」


「!……今は職務中だぞ!」


「なにいってんです!王都着いたらふたりきりになれるチャンスなんてないっすよ!」


「そうそう、可愛い子ほど売れるのが早いの、団長知らないでしょ!次に会うまでにほかの男とデートの約束してたらどうすんです?」


「!」


「生真面目なのもいいけど、こういう時はぽぽーん!とね!」


「ぽぽーん……」


「そう、ぽぽーん!」

……団長、頑張りました。

挿絵(By みてみん)

3巻書影

(絵:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
なるほど…。弾丸娘さん、貴女は自然の脅威とかそう言う物理的な事柄ではなくて、人の営みやその規模に恐怖を感じとれるのですね。 人間の魂とか精神的な事象に重きを置いてらっしゃると言うこと。異世界転移時の…
[良い点] ぼぼーん。
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