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テルジオがすべてを忘れた夜

番外編をいくつか投稿します。

200話でカイとオドゥに連れさられたテルジオのお話です。

「あらカイ、きょうは女連れじゃないのね、ちょっとぉ……イイ男じゃない!紹介してよ」


「いいぜ、ダチのオドゥと、そのまたダチのテルジオだ。こっちはメイサ、そこの店で働いていて王都の男が大好物なんだ」


 ビーチでも屋台に灯りがともり、夜をたのしむ人々がそぞろ歩きをしていた。声をかけてきたメイサも、人魚の血をひくのかグラマラスな美女だ。これはこれで大人な夜の予感だ!テルジオはシャキッとした。


「よろしくお願いしますっ」


「僕、ダチになったおぼえはないんだけどなぁ」


 オドゥが抗議するのを、カイがこづいた。


「カタイこというなよ、おなじベッドで過ごした仲じゃねぇか」


「それ、雑魚寝っていう表現が正しいと思うんだけど?ナジの寝床に転がりこんだだけだし」






「ねぇオドゥは王都からきたの?なにしてるひと?」


 オドゥを酒場のカウンターまでひっぱっていって、興味深々といった様子でたずねるメイサに、オドゥはすました顔で応じた。


「僕は錬金術師だからね、金にならないことには興味ないのさ。きみが僕に一杯おごってくれたら、面白い話を聞かせてあげるよ」


 メイサの勝ち気な瞳がきらめいた。


「へぇ、じゃあ聞かせてもらおうじゃないの。マスター!彼にエルッパを!」


 すぐにエルッパのグラスが運ばれてきた。南国の夜をアツく燃やしそうな度数のつよい酒だ。オドゥはグラスをもちあげて、メイサにほほえむ。


「ごちそうさま。じゃあこの酒を飲んでいるあいだだけ、きみのことを褒めてあげるよ」


 メイサは眉をあげた。


「いわれて悪い気はしないけどさ。それのどこが面白い話なのよ」


「もちろん面白いさ、だって女性は自分のことを褒められるのが大好きだろう?きみの耳たぶの形は厚みがあってふっくらとやわらかそうで、つまみたくなるぐらい可愛い……って褒めた男はこれまでにいたかい?」


「アハハ!あんた面白い人ねぇ……」


 なんだかんだで、褒められて悪い気はしないのだろう。酒をひとくち飲んでは、「髪がきれい」「声がセクシーだ」などと、使いふるされたセリフを言われているだけなのだが、メイサは笑いころげながらも、ほんのり頬を染めて聞きいっている。


「ねぇ、じゃあアタシのことも褒めてみせてよ」


 話がきこえていたのか、オドゥはあっという間に女性たちに囲まれた。カイとテルジオは店の隅のテーブルに腰を落ちつけ、みているしかない。カイが感心してつぶやいた。


「すげぇな……稀代のナンパ師とかいってた師匠をしのぐほどのモテっぷりだぜ」


「……」


 テルジオは敗北感につつまれていた。デートコースのリサーチ力には自信がある。相手の体調や好みを把握して、即時に臨機応変に対応することだってできる。そう、テルジオだってモテる準備はできている!


 なのにオドゥはといえばただ座って、酒代もださずに女たちの差しだす酒に口をつけては、彼女たちと二言三言言葉をかわすだけだ。それなのになぜ次から次へと彼のまわりには女性がやってくるのだ。


 だんだん差しいれが豪華になり、料理の皿まで運ばれているのは、オドゥがちょっとした魔術の小技で雪を降らせたり、火花を散らしたりしているからだろう。女たちが競いあうようにオドゥのために注文し、彼の気をひこうとやっきになっている。


 なんでどうしてなにがどうなっているんだ!いいやきっと女たちの目が節穴なんだ!そうに違いない!


 そしてテルジオのまわりにはだれもいない。海の王子がどっかりすわっているだけだ。こいつはこいつで、やたら顔がよくて瞳がきれいすぎてムカつく!体つきもひきしまって均整のとれたいい体格だ。世の中不公平すぎるだろうが!たのむから俺をみて気の毒そうな顔をするな!


「……まぁ、のめよ」


 カイに差しだされたエルッパをぐいっとあおれば、のどがカッとあつくなり、胃にじわりと熱がひろがる。


「俺だって……俺だって……」


「わかったわかった……まぁ、のめよ」


 テルジオだって魔術学園卒のエリートなのだ。しかもキラッキラの王城づとめだ。王太子になるユーティリスのそばで、カッコよくチラっと新聞記事の写真にのることだってできる。そう、でるとこにでれば自分だってモテるはず!俺だって女の子にキャーキャーいわれたい!


「「「キャー!」」」


 オドゥのまわりで女たちの歓声があがる。そう、あんなふうに……だからなんでオドゥなんだよ!見ればオドゥが花をつくりだして、女たちの一人の髪に飾っているところだった。


 花ぐらい……花ぐらい、俺にだってつくれる!テルジオは学園でならった造形魔術を必死におもいだした。手のなかに出現した赤い花をもって、テルジオはたまたま近くにいた、淡いピンクの髪の女の子に決死の形相ではなしかけた。


「あの……きみの髪にこっ、この花を……かざっ……てもいいかな?」


 噛んだ。緊張でガチガチのテルジオは肝心のセリフを噛んだ。


「え……いらないし、なによアンタ」


 女の子はきもち悪そうにテルジオを一瞥すると、さっと人ごみにまぎれて姿を消した。テルジオのガラスのハートは粉々に砕け散った。


 ごめんなさい、ヌーメリアさん……ちょっとでもモテたいと思った俺がバカでした。あなたみたいに優しい女性は世の中には見つかりません……ぐすん。


「俺だって……俺だって……」


「わかったわかった……まぁ、のめよ」


 しょんぼり落ちこむテルジオの背をぽんぽんと優しくたたきながら、カイがグラスを差しだしてくる。


「あんた……けっこういい奴だな……」


「ああ、よくいわれる」


 カイが差しだすグラスにつがれているのが、かなり度数の強いアルコールだということを忘れるぐらい、テルジオは判断力をなくしていた。


(こいつが女だったら、惚れてるかも……)


 こんなさびしい夜は、自分に優しくしてくれる相手がいたら、惚れてしまう。いまのテルジオは人魚が歌をうたえば、海の底にだってついていくだろう。






 オドゥは女たちひとりひとりの髪に花を飾ると、酒宴をきりあげてきた。


「あれ?テルジオ先輩ねちゃったの?」


 店のすみのテーブルでは、眠りこんだテルジオを膝枕したカイが、ひとりのんびりグラスをかたむけていた。


「なーんか、さみしかったみたいだな。オドゥのこと見ながら、ずっとグラスあおってたぞ。最後は俺にまでべったり甘えてきた」


「ええ?せっかく連れてきたんだから、女の子たちと遊べばいいのに……ヘンなとこでマジメだなぁ」


 オドゥはそんな自分が、テルジオのモテたい意欲をそいだことには気づいていない。


「オドゥがひとりでモテてたからじゃねぇのか?」


「モテ……?どうだろうねぇ、僕はあの子たちの話をきいてあげて、あの子たちがほしい言葉をあたえているだけだしね。それにあとくされがないからだよ。僕が彼女たちにサービスするのは酒を飲んでいる間だけだからね」


 オドゥは席につくと、水を飲んでひといきつき、くすりと笑う。


「まぁ、今日はサービスしちゃったかな……王都だったら、酒の一杯ぐらいじゃ動かないよ。なにせ僕は錬金術師だしね……僕になにかして欲しかったら、それなりの『対価』が必要だ」


 はずしていた眼鏡を胸ポケットからとりだし、オドゥがかけなおすと、女たちの視線にこもっていた熱がすっとひいた。


 どうやら錬金術師というのは、王都では稀代のナンパ師よりもすごい人気者らしい……カイが変なふうに誤解したのを、ただす者はその場にいなかった……。

ありがとうございました!

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