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200.おなじ目線で一緒に驚ける(ユーリ視点)

200話目です!こんなに長い文章を書いたのは初めてです。

本当にここまで読んでいただき、ありがとうございます!

なお本作品は、今年5月に書籍化することが決定しました。皆様の応援に感謝です!


 花火を見ながら、ユーリは浮かない顔をしていた。カナイニラウとの交渉もうまくまとまった。マウナカイアでおこなったライガの試運転の結果は、『研究棟』に持ち帰り今後に活かせるし、充実した休暇だった。


 けれど王都に帰れば、立太子の儀に向けて王城全体が本格的に動きだす。ユーリにとってはつかのまの、唯一の気楽な休暇ともいえた。それがもうすぐ終わってしまう。


「どうしたの?ユーリ、なんだかぼーっとしてる」


 ネリアに差しだされたサウラのジュースを受けとりながら、ユーリはぼんやりとつぶやいた。


「なんだか……休暇もこれで終わってしまうんだなぁ……って思って」


 ちょっと名残りおしいです……とつぶやいた声をひろって、ネリアが提案してきた。


「それならあした帰る前にふたりで一緒にビーチにいってみる?わたしも見てみたいお店、まだあったなって思ってたの」


「え」


「ダメかなぁ?」






 気の強いきみが眉をさげ、気弱そうな表情を見せる、その顔をされると僕は弱い。


「……いきます」


「よかった!断られたらどうしようかと思ったよ……だれかを誘うのってドキドキするね!」


 安心したように笑う彼女に、問いかける。


「一緒にいくのが、僕でいいんですか?」


「どうして?ユーリと一緒なら楽しいじゃん!だって……」


 そうしてネリアが告げた理由は、僕にとっては意外だった。


「ユーリもいろんなことをよく知っているのに、街歩きはあまりしたことないでしょ?わたしも慣れてないから……おなじ目線で一緒に驚けるから楽しいんだよ」


「おなじ目線で……」


 ネリアとおなじ目線で一緒に驚ける、笑い合える。それは僕の望むような距離ではないかもしれないけれど、彼女のそばにたしかに僕の居場所はあるということなのだろう。






 ライガの飛行から戻るなり、勢いよくグラスをあけていたカイが、何杯目かのグラスをあけると顔をしかめた。


「なんつーかこぅ……上品すぎる酒ってのはなかなか酔えねえな……おいオドゥ、ビーチで飲みなおそうぜ」


「えええ?僕、プライベートなつき合いは、遠慮したいんだけどなぁ」


「いいからさぁ、ちょいとつき合えよ……お前には興味があんだ」


 カイが強引に首に腕を巻きつけてきたので、オドゥはすぐ横にいたテルジオの腕をグイッとひっぱる。


「じゃあさ、テルジオ先輩も仲間にいれたげてよ」


「は⁉オドゥ、おまっ、なに俺を巻きこもうと……俺はきょうこそヌーメリアさんと、大人同士の語らいをだなぁ……」


 テルジオの抗議は無視された。


「へぇ……」


 カイはオドゥに捕まったテルジオのあごをくいっと持ちあげると、真正面からその顔を、澄みきったエメラルドグリーンの瞳でしげしげと眺めた。


「ななな何ですか⁉手を離してくださいよ!」


(ムダにきれいな瞳してんじゃねぇよ!このクソ王子!)


 内心毒づくものの、これでも相手は海の王子だ、失礼があってはならない……ならないのだがこんなときにかかわりたくはない。だが無情にも相手はにんまりと口角をあげた。


「育ちのよさそうなツラしてんな……いいぜ、お前もこい!大勢のほうが勝率があがるっていうしな!」


「ななな何の勝率⁉」


 いやだ、このメンツに加えないでほしい。俺はまだ人間を辞めたくはない。テルジオは頭をめぐらせてユーリを見つけると、必死に助けをもとめた。


「でっ、殿下!……助けて……」


「テルジオ……いままですまなかった」


 ユーリは手に数枚の紙を持ったまま、テルジオに近づくと、すごく申しわけなさそうな顔をして彼に謝った。


「はいっ⁉」


「僕はお前の、プライベートな時間まで奪っていたようだ……」


 ユーリはテルジオの目の前に、手に持っていたカディアンとテルジオが考えた衣装のデザイン画を掲げた。それ、王都に送ったあと別荘に残っていた写しは、本人の目に触れないようにさっさと処分したやつ!


「ひっ!なぜそれがここに……」


「僕の好みを()()()()()()()お前にまかせていて……本当によかったよ……」


 ユーリのうしろでカーター夫人がうっとりと微笑む。写しを持っていて本当によかった。実物はもっと素敵だろうが、立太子の儀まで毎日眺めて、できあがりを想像しては楽しむのだ。


「まだご覧になってないっていうから、私が持っていた写しをお見せしましたの!本当に優雅で気品があって華やかできらびやかなデザインですもの!できあがるのが待ちきれませんわねって!」


「あはは……カーター夫人、デザイン画の写し、持ってたんですか……」


「ええ!夫と言い争って気持ちがささくれたときなどに眺めると、本当に気持ちがなごむんですもの」


 テルジオにとって不運だったのは、アナの気持ちがささくれたときが、ちょうど今だったことだろう。アナが目の前のユーリにデザイン画をあてはめて、脳内で着替えをさせてうっとりとしているのに、ユーリが気づいてしまった。


 そう、みなで考えただけあって、本当に優雅で気品があって華やかで煌びやかなデザインなのだ……。ユーリの好みとは正反対だが、赤い髪と瞳をさらにひきたて、人々の目を惹きつけるだろう。


 だがその昔父親のアーネストに「お前が女の子だったらなぁ。リメラそっくりの美少女だったのに」となげかれたユーティリスは、『女の子っぽい』レースやフリルのような繊細な飾りには、拒否反応をしめすようになった。


 問題は、弟のカディアンがアイリの影響か、レースやフリルのような飾りにも詳しくて、さらに可愛いもの好きのカーター夫人までが打ち合わせに加わってしまったことだろうが……。


「みなで考えてくれたこの()()()衣装を、僕はありがたく着させてもらうよ……だからきょうはお前も、()()()()()、楽しんでくるといい」


 ユーリの赤く燃えるような瞳が、テルジオを見すえた。


(あかん!本気で怒ってる!)


 にっこりと優しくほほえむユーリに見送られて、なぜか青い顔をしたテルジオが、カイやオドゥとの飲みなおしに、引きずられるように連れていかれた。






 翌日、ユーリとネリアは二人で丸一日使って、ビーチの散策をした。


 きれいな貝がらを拾い集めてみたり、屋台の食べ歩きをしたり、仕掛け時計のある土産物店の店先で、術式についてああだこうだ言い合ったり。


 カフェで隣の席にいた絵描きさんと仲良くなって、そのあと家にお邪魔して絵を見せてもらったり、何の予定もたてず、その場その時を楽しんだ。


 途中、カイとオドゥとテルジオが、でろでろに溶けているところに遭遇した。


「うわ!カイもオドゥも一晩中ビーチにいたの⁉テルジオさんまで何やってんの⁉」


 ネリアの叫びにオドゥが顔をしかめる。


「ネリア……もうすこし、小さな声でお願いぃ……頭に響くから」


 カイは半分寝たまま返事をする。


「……いい風だぜ……ビーチなら寝てても死なねぇし……どうせきょうは寝て過ごすしな」


 テルジオもふだんだったらあり得ないぐらい、人間を辞めていた。


「ネリアざん……ずみばぜん……うっぷ」


「うわぁ……ダメな大人がいる!こんなダメな大人、ユーリは見ちゃダメだからね!」


「あはは、ネリア……あっちいきましょう」






 店で買ったお土産の袋を収納鞄にしまいながら、黄緑色の瞳を輝かせてきみが笑う。


「本当に楽しかった!またきたいね」


「……ネリアはもうホームシックは大丈夫なんですか?」


「うん!いまはちゃんと王都に戻ろうって思えるよ……それってわたしにとっては大きな変化なんだぁ」


 海のほうを見つめる彼女の視線の先は、僕も知らない彼女の故郷にむけられているのだろうか。僕はその繊細な横顔にむかって話しかける。


「まだ先なんですけど、『立太子の儀』を終えたら、その日の夜は夜会が開かれるんです。ネリアもそれに参加しませんか?当日は仮面をはずして」


「それって……」


 こちらをむいたネリアの表情が、ぱあっと明るくなった。


「師団長として参加しなくてもいいってこと?」


「ええ」


 ユーリは、「師団長としてではなく、僕のパートナーとして」と続けようとした。


 どんなドレスだって用意する。だから……。


 だけどネリアはどこまでもネリアだった。


「それならご飯も食べられるね!」


「ご飯……」


 ユーリが絶句する様子には気づかず、ネリアは期待に満ちた表情で瞳を輝かせている。


「王城でだされるなら、宮廷料理なんだよね!どんなのがでるの?」


「え?ええと……たぶん伝統的なものと、各地の郷土料理をアレンジしたものが、バランスよく供されるとは思いますが」


 王太子主催の夜会といえば、舞踏会だろう!花嫁選びの戦場だ。もちろん料理もでるにはでるが……。


「うわぁ、楽しみ!ソラのご飯も美味しいけど、伝統的なエクグラシア料理も味わってみたかったの!」


 もしも自分のパートナーとして参加したら、ゆっくり食事を楽しむヒマなんかないだろう。ユーリはパートナーのことを言いだせなくなった。それなりに顔はいい自覚はある。頭だって悪くない。それになんといっても王子様だ。


(僕は王宮グルメに負けるのか……)


 もはや、何に嫉妬したらいいのかよくわからない。


 いっそのこと、彼女のまわりに食べ物を置いて、彼女を囲いこんでしまおうか……人魚の男たちとおなじ発想になっているとは気づかず、ユーリはそっとため息をついた。


「ネリアは……好きな人とかいないんですか?」


 彼女はすこし考えこんでから、真面目な顔をして答えた。おそらく彼女なりに、真剣に考えたんだと思う。


「好きな人?うーん、好きっていうか……気になる人はいるかな」


「気になる人……?それって……」


「もぅいいじゃん!はやくいこ!」


 話を切りあげようとしたネリアが面白くなくて、僕はそっぽをむいた。


「はやくフラれて泣けばいいのに」


「あっ、ひどい!」


 ネリアがふくれっ面をした。ころころと変わるその表情も、王都に戻ればまた、彼女は仮面に隠してしまうのだろうか。


「そんなんじゃないもん!ユーリってば、ホントいじわる!キラキラ王子様がだいなしだよ!」


「僕はどんな顔したって王子なんだから、いいんですよーだ」


「うわ、当たり前だけどムカつく!」


「あはは」


 もうすこしだけ……帰り道はすこしだけゆっくりと歩いた。

ネリアにとって、仮面を外す=ご飯が食べられる。

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