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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

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20.カタツムリの『ヘリックス』

20話目になりました。よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

2巻発売記念イラスト

(絵:よろづ先生)

 すさまじい高さまで水柱が上がり、あたり一面に水滴が雨のように降り注ぐなか、ドラゴンたちがカタツムリに突っこんでいく。


「レインさん‼︎」


「ネリア嬢⁉︎」


 わたしは腕輪から展開したライガにまたがり、アマリリスの背から放りだされた彼を、空中で正面からキャッチする。


「助かった!いくら身体強化をしていても、この高さから落ちたら大怪我だ」


 リンデルカ、クレマチス、ツキミツレのドラゴン三体がつぎつぎに攻撃を加え、マール川の岸辺に叩きつけられたカタツムリの殻全体に、ビシビシとヒビが入っていく。


 パリンと粉々に割れた殻からは魔道具とともに、白いローブを着た小柄でヒゲを生やした男が転がりでてきた。ドラゴンたちが彼を囲むように舞い降りたため、わたしもすぐそばに降りてライガをしまう。


 男はカンカンに怒っていた。


「きさまらぁっ!乱暴すぎるぞっ!ああぁ……ヘリックスの殻が割れてしまったではないか!」


 巨大カタツムリは『ヘリックス』というらしい。その殻に潜んで爆撃具やオートマタを転送したヤツに、乱暴だとは言われたくない。


 そして殻を失ったヘリックスは、巨大なナメクジみたいな姿でピクついていた。


「誰……?」


「わしは王都錬金術師団のウブルグ・ラビルだっ!このヘリックスはなぁ、わしが構想に二年!製作に三年もかけた、世界唯一の〝カタツムリ型オートマタ〟なのだぞっ!タダですむと思うなよっ!」


「タダですまないのはお前だ。竜騎士団の精鋭に攻撃を仕掛けたのだからな」


 ライアスに見下ろされても、ウブルグ・ラビルはふんぞり返って高笑いする。


「ふんっ!フハハハハ、見たか!わしのヘリックスがドラゴンどもを攻撃する勇姿を!天空の王者ついに陥落せり!フハハハハ!」


「…………」


 誰もそんな勇姿は見ていない。ヘリックスはただ水に沈んでいただけだ。


 プンプン怒っているウブルグ・ラビルによると、巨大カタツムリのヘリックスは、殻部分に人や物資を積んで移動する画期的なオートマタとして、彼が五年の年月をかけて製作したものらしい。


「ライアス、知ってた?」


「……いいや」


 殻は高い気密性が保たれ容量も大きく、水中でも移動できる画期的な乗り物だ。けれどひとつ残念なのは、移動速度もカタツムリ並みだった。もちろんその蠕動運動は、みごとに再現されている。


 遅い。遅すぎる。


 その速度は亀よりもミミズよりも遅く、人間が荷物を持って歩くほうが速い。


 リアルさにこだわったせいか、歩行をスムーズにするために分泌した粘液は、乾くと筋になり簡単に追跡できる。


 いったいそんなものが何の役に立つのか、錬金術師団でも意見があった。悔しくなった彼は今回の襲撃を引き受けて、ヘリックスに大量の爆撃具と黒蜂のオートマタを積むと、マール川に潜んでいたらしい。


 わたしは脱力した。確かに命を狙われて、わたしは実際危なかったのだけど。ウブルグ・ラビルにとっては、カタツムリが認めてもらうほうがだいじで、粉々になった殻を心配していて。


「王都のやつらもわかっておらん! 『ヘリックスより役に立つ黒蜂や爆撃具を作れ』などと言いおって」


 わたしも彼らのほうが正しいと思う。攻撃はそっちのほうが嫌だったし。


 けれどこの人が黒蜂や爆撃具をせっせと作るより、カタツムリの研究をするほうが、きっと世界は平和だろう。


「ねぇ、おじいさん」


 わたしはしゃがんで、へたりこんでいるウブルグと目線を合わせる。


「ウブルグ・ラビル様と呼べっ!」


「じゃあウブルグおじいさん? ヘリックスに乗って水中にいても、まわりの景色はよく見えたの?」


「もちろんだ! 濁った水中でもよく見えるように、視界クリアの術式を組みこんである!」


「なら軍事用の輸送機として使うより、観光用の水中遊覧船や水中ホテルとして使う方が、人気がでるんじゃない?」


「へっ⁉︎」


「サンゴ礁の海をカタツムリでお散歩できたらステキだと思う。海水には弱いのかな?」


「お……おお!」


 小首をかしげてたずねると、ウブルグの目がキラキラしてきた。


「そうだな‼︎海水の浸透圧がだいたい千ミオズムだから、透過膜はまだ改良せねば。うむうむ、カルシウムが豊富な珊瑚礁なら、ヘリックスの殻も再生しやすい!むほ……ネリア・ネリスとやら、着眼点をほめてやろう!」


「海底での移動はウミウシの動きが参考になるかも。速さはオウムガイを研究したらどうかな?」


「ふぉっ⁉︎まさしく!おおお……アイディアが次々に湧いてくるっ!さっそく帰って研究をっ!」


 興奮して立ちあがるウブルグを、ライアスがガシッと捕まえた。


「きさまにはまだ用がある」


「なっ!放せ!わしの貴重な研究の邪魔をするつもりかっ!」


 ジタバタするウブルグ・ラビルを冷たい目で見下ろし、ライアスはふたつの選択肢を彼に与えた。


「竜騎士団の取り調べが終わっていない。そうだな、今ここで簡単に〝竜の裁き〟を受けるのと、面倒でも正直に何でも話して、人の手で裁かれるのとどちらがいい?」


 日に焼けてないウブルグ・ラビルの、ぽっちゃりした白い顔が、さーっと青ざめた。


「ひっ!人の手でっ!人の手に裁かれたいですっ!何でもしゃべりますっ!ぜひ取り調べをっ!」


 急に素直になったウブルグ・ラビルと、ナメクジになったヘリックスを連れて、わたしたちはふたたび王都へ出発した。


 後日、ウブルグ・ラビルはベラベラと何でもしゃべり、竜騎士団の取り調べを終えて解放されると、すぐさま王都から引っ越す準備をはじめた。


 クオード・カーター副団長は、その話を聞いて頭が痛くなったとか。


「はぁ?カタツムリの研究のために、海のそばに引っ越しだと?」


 ウブルグ・ラビルは古参の錬金術師で、カタツムリ馬鹿であることをのぞけば腕もよかった。


(あのまま黒蜂や爆撃具を、作り続けておればいいものを……)


「役立たずめっ!」


 クオードはイライラしたように、手に持っていた金属製の定規を、ピシリ!と手のひらに打ちつけたそうな……。


 後年エクグラシアでも有数のリゾート地、マウナカイアビーチで観光客を虹色のカタツムリに乗せ、珊瑚礁を見せてくれる『カタツムリおじいさん』として、ウブルグ・ラビルは世界的に有名になるのだけれど。


 それはまた別のお話。

 最初、『ヘリックス』は水陸両用の無機質な車体を想定していました。そのままでは水から現れた際、絵的に面白みがないので、カタツムリに変えました。

 カタツムリは元ネタがありまして、『ドリトル先生航海記』に出て来る『海カタツムリ』がそうです。そちらはちゃんと生き物です。

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― 新着の感想 ―
弾丸娘の無茶突撃は、カタツムリおじさんによって上塗りされた。 いや、ネリアさん、貴女よく飛び出せるね。小回りが利くライガで落ちた竜騎士を助けようとした意図は分かるのだけど。 目眩ましとは言え爆撃の最中…
[良い点] 優れた長編執筆能力に感嘆しました。このペースが続きますように。 『ドリトル先生航海記』小4の頃、読みました。サンゴ礁だけでなく、海カタツムリだと、何人も殻に乗り込んで、深海まで見渡しながら…
[良い点] あ、こういう研究バカ好き
感想一覧
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