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196.命の水のある場所で(ネリア→オドゥ視点)

5章は202話で完結です。

海が好きすぎて、海の話だけになってしまい、すみません。

 オドゥが持っていた鍵の魔法陣を発動させると、わたしたちはふたたび深海にいた。肌にはりついていたドレスが、脚をおおいつくすとゆったりと水の中にひろがっていく。


「オドゥ、ここ……カナイニラウじゃないね?」


 魔法陣がゆっくりと光を失うと、あたりは暗闇に変わる、わたしははじめてくる場所だ。


「海王の本体が眠っていた場所……つまり海の精霊がいる場所に直接こられるように、鍵の魔法陣を修正したんだよ。そのほうが面倒がないだろ?『命の水』はこのちかくらしいしさ」


「ちょいとあんた……ここにきたってことは、『海の精霊』にも会ったんだろう?あんたはなんともなかったのかい」


 リリエラにきかれて、オドゥは困ったように眉をさげた。


「……会ったよ。だけどリリエラとちがって、相手にはされなかった」


「それは……幸運だよ。あたしはね、ここで『命の水』を一緒にとりにきた恋人をうしなった。わかっていたさ、無茶なことだって。けれど人間のあの人と人魚のあたしがずっと一緒にいるために、『命の水』がほしかったんだ」


「リリエラはもしかして、それでレイクラを助けたの?」


 藍色の髪と瞳をもつリリエラは、かすかに笑っているようにも、泣いているようにもみえて、そのまま海に溶けてしまいそうだ。


「まぁね……あたしはここで死のうとしたんだよ。けれど海の精霊は海の底で泣きさけぶあたしに、『お前の命は吾がもらう……わが目となり手足となり、世界をみてこい』……そういった。あの人のあとも追えず、あたえられた精霊のカケラは、あたしの体でも負担が大きかった。あたしは半狂乱になり、海王に捕まって牢獄に閉じこめられた」


「海の精霊はここにいるの?どこに?」


 そうたずねたけれど、リリエラはほほえむだけだ。


「ネリアには見えないみたいだね。精霊はあんたのこと、おもしろいと思っているみたいだよ」


「ええ?全然見えないよ!オドゥは会ったんでしょう?」


 一生懸命、瞳をこらすけれど、わたしにはなにもみえない。オドゥにきいても、困ったように頭のうしろを掻くだけだ。


「会ったっていうか……精霊は実体がないからねぇ。僕はちょっとやりすぎて騒がしかったと思うんだけど」


 オドゥはここで、眠る海王を起こすために爆撃具をつかったが、それでも精霊の反応はなかったらしい。海王は激怒して追ってきたので、必死に逃げるハメになったそうだ。


「なんで爆撃具なんか」


「ネリアを助けるのになにが必要かわからなかったし、それにレイクラを連れてくるよりも、海王を起こして連れてくるほうが早いと思ったんだよ。『命の水』もほしかったし」


「『命の水』?オドゥは『命の水』がほしいの?」


「そう。グレンはカナイニラウを二度訪れている。三十年前の魔導列車開通時と、王都からデーダス荒野にひきこもったばかりの四年前に……グレンはそのとき、『命の水』を手にいれたはずなんだ」


「それならこっちだよ。『命の水』はさらにこの下だ」


 リリエラについていこうとして、わたしはうしろをふりかえった。目には見えない……けれどなにも感じないわけじゃない。なにかとてつもない気配、それがわたしたちをみまもっている。


「ネリア?」


「あっ、いまいくね!」


 オドゥに呼ばれて、わたしはあわてて二人のあとを追った。





 それからリリエラの案内で、わたし達は『命の水』が湧く場所にきた。オドゥが水中に光球をはなつと、まるで太陽が出現したみたいに海の底が照らされる。


 みおろせばここの海底は、死の世界のように静かな場所ではなかった。貝類がびっしりついた円柱が何本もあって、チューブワームがその体をゆらめかせ、エビなどもいるようだ。円柱の先端から勢いよく煙のように色のついた水が噴きだしている。


「へぇ……ほんとうに生き物がいる。こんなににぎやかな生態系があるなんて、さすが『命の水』だね」


 わたしは近づこうとするオドゥを、あわててとめた。


「オドゥ、ダメだよ!」


 オドゥは不満そうにふりかえる。


「ネリア邪魔しないでよ……グレンも手にいれた素材なんだ」


「そうじゃないの!深海のような高圧下で存在する『命の水』は、地上で沸騰する水よりはるかに高い温度だから、人間には近づけない……炎に手を突っこむのとおなじだよ!」


 オドゥは眉をあげた。


「……ネリアはあれがなんだか知ってるの?」


「あれは熱水噴出孔といって……不用意に近づくと、たいへんなことになるよ!わたしが行く!そのためにわたしをここに連れてきたんでしょう?」


 オドゥが目をみはった。オドゥはきっと、ひとりでここまできたものの、『命の水』を自分で汲むことはあきらめたのだろう。転移陣を設置だけして、海王を起こして地上にもどった……おそらくわたしを連れてきて、この水を汲ませるために。


「さぁ、水を汲む容器はどこ?」


 手を差しだすとオドゥは少しためらったけれど、わたしに変わった形の小さな魔道具を渡した。


「これだ……『クラインの壺』だ。近づいたら栓をはずしてこれに水を汲む」


 わたしはそれを受け取って、噴きだす水に近づくために、慎重に泳いでいった。光球のおかげで照らされたチムニーに、なにか光を反射するものがひっかかっている。手を伸ばしてみると、びっしりと石灰のようなものがこびりついているけれど、人間が細工した金の鎖のようだ。あとでリリエラに見せよう。


 わたしは成分分析の魔法陣を展開して、水の組成を読みとった。やはり……わたしはこの水を知っている。有毒な重金属も含まれているため、このままでは使えないけれど、たしかにこれは命の源流……。


 『命の水』にふれて『クラインの壺』の栓をはずすと、水流が起こって壺に水が吸いこまれていった。やがて水を吸いこむ勢いがおさまったところで、わたしはふたたび栓をする。ドレスのヒレに魔力をこめると、体がふわりと浮いてふたりのいる場所にもどった。


 ひろった鎖をうけとったリリエラは、「……あの人のだ」とつぶやいて、その場で祈りはじめた。わたしとオドゥはリリエラを待つためにすこし離れた場所にいき、そこでオドゥに壺を渡した。


「はい、どうぞ」


「……ありがとう」


 光球に照らされた世界は、まさしく魔界とも地獄ともいわれる、異世界のようだった。熱水を勢いよく噴きだす円柱のまわりに、その熱を頼りに生きるものたちがいる。光をしらず、酸素さえ必要としないものたち。


 それはまさしく。


 ―――人が触れることあたわず―――


 ここは、星の実験場だ。命を創りだすために、星が試行錯誤をした場所……。


「この水はたしかに『命の源流』……生命の起源ともいえるわね。いろいろな成分をふくみ、さまざまな過程を経て原始生命体が生まれた。グレンはこの『命の水』を手にいれてさらに加工し、恒温槽の培養液の素材にしたんだね」


 渡された『クラインの壺』をしまって、オドゥはわたしを探るように見つめかえした。


「わたしの命が助かったのは、きっと偶然じゃない。グレンは何年もかけて、さまざまな素材を集めていた。わたしがグレンに助けられたときには、素材はすべてそろえられ、あらゆる()()が終わっていた」


「ネリア……きみはどこまで……」


「わたしね、オドゥの使い魔のカラス、見たことがあるよ……不思議だったの……まわりに何にもないのに、デーダス荒野のあばら屋に、ときどきカラスだけ飛んできては、グレンとお話してたから」


 わたしは、オドゥの眼鏡をかけていない深緑の瞳を見つめた。


「最初、グレンにはカラスの友達がいるんだと思ってたんだけど、あれはオドゥだったんだね。もしかしてオドゥは、わたしがグレンに助けられたとき、すぐそばにいた?」


 オドゥの顔色が変わった。眼鏡をかけていない今のオドゥは、光球に照らされて血の気のない顔色をして、鋭い眼差しをこちらにむけている。


 いつもカーター副団長のうしろにひっそりとひかえる、特徴のない目立たない男とは別人のようだ。


「まさかネリア、それ……覚えてるの?」


「あのね、もしそうだったら聞きたいことがあるんだけど」


 オドゥの表情を見逃したくなくて、わたしは彼を真剣にみつめた。


「わたし、瀕死の状態だったと思うんだけど……そのときのわたしって……」


 聞くのがこわい。


 でも、聞かなきゃ。


「わたし、ちゃんと、生きてた?それとも……」


 オドゥはわたしの瞳をのぞきこむように身をかがめて、やわらかくほほえんだ。


「ネリアはなんにも心配しなくていいよ」


「えっ」


「だいじょうぶ、グレンがいなくなっても僕が……きみを守るよ。すべてからね……」


「ちがう、そうじゃなくて!わたしが聞きたいのは!」


 そのとき、オドゥが静かにささやくように歌いだした。オドゥの唇からつむがれるメロディーは、遠い昔に聞いたことがある……まぶたが重く、腕も体も鉛のようになり、わたしの意識は闇にのまれた。






 わたし、ちゃんと、生きてた?


 それとも……。

熱水噴出孔は深海にあって、溶けている成分によって水の色は黒や白や青なんかがあります。

そんな所に生身で行くなんて、ネリアもだけど、オドゥも相当頑張ってるよね!

というか海底洞窟とか色々書きたかったけど、それやるといつまでも海の世界から帰ってこれなくなる。そろそろライアスやレオポルドにも会いたい!

グレンは海底2万マイルのネモ船長とレオナルド・ダヴィンチを足して2で割ったようなイメージです。

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