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194.空と海のあいだで

よろしくお願いします!

 組み立てを終えたライガを広間から庭へ運びだそうとして、そのあまりの軽さにメレッタが声をあげた。


「ユーリ先輩、このライガ……とっても軽いですけど、何でできているんですか?」


「紙だ。ネリアに教えてもらった」


 その答えにカディアンが目をまるくする。


「紙⁉それじゃすぐに壊れるじゃないか!」


「正確にはしみこませた樹脂を硬化させて補強した紙だ。厚みのある部分は内部の構造も力学的に強化してある」


 メレッタが首をかしげた。


「樹脂……水にも強いってことですか?」


「あるていどは。それと骨組みには重力魔法を反転させた属性を帯びた、ミスリルを使用している」


「ミスリル⁉家一軒どころか島だって買えるぞ!」


 カディアンの言葉に、ユーリは気まずそうに目をそらした。


「……ふつうに予算会議を通してたらアウトだろうな」


 師団長室に保管してある稀少素材は、ソラが目録をつくり管理している。使用目的と数量はチェックされるが、金額について何かいわれたことはない。ネリアは素材の値段には無頓着だし、ソラも気にしないのだろう。


「兄上……」


「だから働くんだよ。魔導列車の駆動系のメンテナンスも僕にまかされたし、収納鞄の広告塔にもなるし、錬金術師団に損はさせないつもりだ」


 メレッタはため息をついた。


「島……私がライガを買うのはムリね。やっぱり自分で作るしかないわ」


 庭で準備をはじめたユーリのもとに、ロビンス先生に連れられてレイクラもやってきた。


「あたしも連れていっておくれ。海王に会ってちゃんと話をしたい」


「わかりました。レイン、ふたりをお願いできますか?」


「ああ!」


 ふたりをアマリリスに乗せ竜騎士レインの前にレイクラを、後ろにロビンス先生をそれぞれ固定し、準備ができたところでユーリはオドゥの使い魔を呼んだ。


「ルルゥ!」


 二階のオドゥの部屋の窓から彼の使い魔のルルゥが飛んできて、さしだされたユーリの左腕にとまった。


「僕の魔力だけど……口にあうかな?」


 ユーリの差しだしたクッキーをついばむと、ルルゥは「カァ」とひと声鳴いて、空に飛びたった。すかさずユーリがライガに飛びのりあとを追う。白竜のアマリリスもそのうしろに続いた。


 ルルゥはどこにいくかわかっているかのように、迷いなくまっすぐに飛ぶ。もう少しスピードを落として欲しいが、あまりゆっくりでも、レイクラやロビンス先生を乗せているアマリリスが、うしろを飛びにくいだろう。


 ユーリは歯を食いしばって、前方のルルゥを見すえる。体が成長してより多くの魔力を、安定して使えるようになった。だからユーリのライガは、職業体験で学園生たちがメレッタのためにつくったものより、ネリアのライガにちかい。けれどそのぶん操作がむずかしい。


(気を抜けば、そのまま海に落ちる!)


 ルルゥが前を飛んでくれて、そのあとをただ飛ぶだけだ。ユーリは集中してなんとかまっすぐな飛行ができた。高価な素材を使ったぶん、魔素を流したときの反応もいい。


(これ……空中を機敏に飛びまわるのに、ネリアは何回墜落したんだ⁉)


 海のうえを飛ぶため、墜落しても最悪命は助かるだろうと思っていたが、カディアンが着地の術式を手直ししてくれたため、職業体験のときとおなじく静かに着地できるはずだ。あとは着地のための、砂浜を見つけられさえすれば……。


「前方に砂浜が見えます」


 アマリリスを操る竜騎士レインからエンツがとどく。ドラゴンの瞳がとらえた遠くの陸地を、〝感覚共有〟でレインが感じとったらしい。


「座標もちかいな。そこをめざそう!」


 カァアアア!


 ルルゥが鋭い叫び声をあげる。前方の海面が泡立ち、そこに光る転移陣が一気に展開すると、一人の人魚が飛びだしてきた。ルルゥが一目散に飛んでいく。


 砂地に近づくと人魚は人に姿をかえ、よろめくように砂浜に這いあがる。それをみてユーリも急降下した。


 こげ茶色の髪をしたオドゥ・イグネルが全身から水をしたたらせ、疲れきった表情でルルゥを見あげる。オドゥはユーリにもすぐに気づき目をまるくした。


 ユーリはオドゥのすぐそばにやや乱暴に着地した。白い砂がはじきとび、ライガが砂にめりこむ。メレッタやカディアンがみたら「せっかくの着地の術式が!」と怒られそうだ。


 カイがネリアと自分を連れてきた砂浜……おそらくそこだと思われるが、潮が満ちれば海に沈み波に洗われるこの場所が、そうだといえる確証は何もない。なにしろみわたすかぎり空と海しか存在せず、目印になるようなものは何ひとつない。


 けれどきのう姿を消したはずのオドゥがそこにあらわれた。ユーリは駆けより、まぶしげに彼をみあげる男に声をかけた。


「迎えにきましたよ、オドゥ」


「やぁ、ユーリ……一日ぶり?タイミングぴったりだね」


「……ひとりで戻ってきたんですか?」


 腹の底からひくい声がでる。顔をみたとたん、声をきいたとたん、ほっとすると同時に激しい怒りの感情が湧いてきた。


 彼は最初からすべてわかっていて、行動をおこしたのだ。ユーリだけでなくネリアまで利用して。けわしい表情でつめよるユーリを手で制して、オドゥは力なく笑った。


「ちょっと待って、ユーリ。いいたいことはわかるけどさぁ、すぐにくるよ……海王も……きっとネリアもね」


 いうなりオドゥは力尽きたように砂浜に倒れこみ、砂に埋もれるように目をつぶった。


「オドゥ⁉何をしてたんです?オドゥ!」


「海王を……起こした……爆撃具を使って……」


「え?」


 オドゥがボソボソとしゃべった言葉を、ユーリが聞き返そうとしたちょうどそのとき、上空を旋回するドラゴンに乗るレインから緊迫した声でエンツが届いた。


「おいっ、おかしい!魔法陣が消えない!海面が盛りあがっていくぞ!」


 ギャオオオオオオ!


 上空で、アマリリスが警戒するように叫び声をあげる。


 ユーリはあわてて倒れていたオドゥをひき起こすと、ライガに乗せ砂浜から飛びたった。


 水面が盛りあがり流れ落ちる海水が、さきほどまでユーリたちがいた砂地を襲う。もしもそのまま砂浜にいたら、水に飲みこまれてしまっただろう。


 そして、水のなかからあらわれた巨大な影に、ユーリは自分の目を疑った。


「これは……シードラゴン?」


 銀色に光る鱗、長くのびた首、力強いヒレ……ドラゴンをしのぐ巨体を太陽の光に煌めかせて、シードラゴンが怒りの咆哮をあげる。ライガに乗せられたオドゥが、ぐったりしたまま告げる。


「あれこそが〝海王〟の本体だ。先祖返りを起こした姿らしい……爆撃具でむりやり起こしたら、それはもう滅茶苦茶怒られちゃってさぁ、追いかけられちゃって必死に転移陣さがして逃げこんだ……」


「ちょっ、オドゥ!しっかりしてください!ぐにゃんぐにゃんじゃないですか!」


 オドゥがいまにも力を失い、ライガからずり落ちそうになるのを必死でとめる。こんな調子じゃ、自分まで落ちてしまう!


 オドゥを支えるのに必死で、海を見る余裕がない。必死に体勢をたもつユーリの耳に、レインからエンツがふたたび届いた。


「何か……何か海のなかから……くる!」





 ついておいでリリエラ。


 わたしはひたすらまっすぐにうえをめざす。三重防壁に護られ海王妃のドレスを着ているとはいえ、わたしの体力は限界に近かった。けれど体のなかから魔力はいくらでもあふれくる。


 光のなかへ!


 わたしは海から飛びだすと同時に、腕輪からライガを展開する。ドレスから魔素を抜き、脚をだしてライガにまたがると、叩きつけるようにライガの駆動系に魔素を流しこみ、上空に駆けあがる。


「ネリア⁉」


 オドゥを支えたまま見慣れぬライガにまたがり、こちらを驚いたように見つめるユーリの姿が一瞬目にはいる。わたしのすぐあとを追うように、リリエラの巨体が海面を割るように飛びだした。


 瞬時にわたしはライガを反転させ、防壁の範囲をライガまでひろげると、海面にむかって加速し一気に急降下して、躍りあがったリリエラの額と思われる場所に!


 ライガごと頭突きをかました!

自分のライガに戦闘機なみの金額をつぎ込むユーリ……さすが王子様。

あと、ネリアの頭突きがどうしても書きたくて。

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