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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第六章 ネリアと人魚の王国

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187.海底都市でお宅訪問(オドゥ視点)

 まだ若手の錬金術師のオドゥにとって、錬金術師団から支給される研究資金はとぼしい。そのため、彼はふだんから、研究資金の節約のために、素材集めを自分でおこなっていた。


 一人でふらりと数日間でかけ、魔獣狩りもすれば、密林の貴重な薬草の採集にもいく。そうやって素材を手にいれ、あまれば業者に持ちこんで、それも研究資金にかえる。運よく稀少な素材が手にはいれば、グレン老が高額で買い取ってくれた。


 だからオドゥは国内ならば、結構いろんな場所にいっていたが、さすがに海底都市カナイニラウにきたのははじめてだった。


 グレンはカナイニラウを二度おとずれている。一度目は魔導列車の線路がマウナカイアに延びた二十五年ほど前。そして二度目はデーダス荒野に隠遁生活をはじめた四年前だ。


『そこでしか採れない素材がある……だが人間が手にいれるのはむずかしい』


 グレンはそういってオドゥにはカナイニラウへのいきかたも、素材のありかも教えてはくれなかった。


 〝ネリア〟をつくるのに必要な素材のひとつ……それを彼はここで手にいれた。ならば自分もそれを手にいれる、オドゥはそう決めていた。


 暗闇に近い海の底にひろがる、冷たい光に彩られた海底都市カナイニラウ……オドゥたちがやってきたのは、そのイメージとは正反対の場所だ。


 建物を幾重にも泡の層がとりかこみ空気を守るため泡の表面は固いが、手で触れると包みこむように体を招きいれるため通り抜けられる。


 出入りにはちょっととまどうが、泡を通り抜けるたびに空気が温かく乾いていく。そこをくぐりぬけて進むとひとびとが行き交うにぎやかな広場にでた。


「予想以上に人間がいるんだな……」


「二十五年前までは普通に交流があったわけだからな……ここは人間のためにつくられた空気がある居住区だ」


 人ごみにまぎれこむようにして進み路地をいくつかまがって、一軒のドアをたたくと顔をだした男がカイの顔をみて笑顔になった。


「カイ様! よくお戻りで。人間のご友人もようこそ!」


 オドゥたちを出迎えてくれたのは、カイの母親が王宮にいたころ仕えていた夫婦だという。


 もともと夫のワジが船乗りで人魚のエミに惚れこみ、カナイニラウに住みついた。


 船でコックをしていたワジは料理がうまく、故郷の味を思いださせる料理にレイクラは喜んだそうだ。


 居住区の壁には海水を追いだす魔法陣とともに魔石が埋めこまれており、室内は適度に乾燥していて温かい。


 浄化の魔法をかけるだけでオドゥにも心地よく過ごすことができた。ワジが運んできた飲み物に口をつけると予想に反して塩気はない。


「真水……あるんだね」


 オドゥが水を飲み干すとすぐに、ホカホカと湯気をたてる魚介のスープが運ばれてきた。


 出汁のうまみがひきだされたコクのあるスープはパンを浸して食べてもうまい。


 海のなかで穀物が収穫できるとも思えないから、パンは何か似たもので作られているのだろうか。


「このパン、ふわふわしてるけど魚の味がするような」


 味わうようにかみしめているとワジがうなずいた。


「魚のほぐし身をすり身とあわせて蒸してそれに焼き目をつけたものだ……それなりに手間はかかってる」


 海底都市でも人間が住みやすいよう工夫をしていることに感心していると、カイが料理を口に運びながらオドゥに注意した。


「しっかり食っておけよ……それとここ以外でだされたものは口をつけるな」


 それはもちろんカイのご友人ということになっているから、ちゃっかりご馳走になるのにまったく遠慮はしていないが。


「〝毒〟に気をつけろ……ってこと?」


 オドゥが慎重に聞きかえすとカイは首を横にふった。


「そうじゃねぇ……ネリアもだがお前もひさしぶりにカナイニラウにきた人間だ。餌づけしようとするヤツがきっといる」


「餌づけ?」


 カイはニヤリとわらうとオドゥに教えた。


「食べものを異性に与えるのはここでは〝求愛行動〟だ。いいか、人魚の女から下手に食べものを受けとったりしたら……海からでられなくなるぞ」


 冗談かと思ったがカイは真面目にいっているようだ。オドゥは味わっている料理をしっかり咀嚼することにきめた。


 ここをでたら最後、食事をとる機会などないかもしれない。


「ユーリはこなくて正解かもね」


「お、情報がやってきたようだな」


 カイがそういうとまもなく入り口からドタバタと音がして、いきおいよく若い男が転がりこんできた。


 人魚の体から脚をだして歩こうとしたものの、うまく歩けずもんどり打って転がったらしい。


「ああもう、脚ってのは不便だなぁ!なんで左右べつべつに動かさないといけないんだよ!」


「ワジとエミの息子で俺のダチだ。ナジ、たまにはちゃんと脚をださねぇとなまるぞ」


 ナジと呼ばれた青年は顔をあげてカイをみるなり、目を白黒させると叫び声をあげた。


「カイ⁉ いま王宮じゃニセの海王妃があらわれたって大騒ぎになっててさ……カイの姿をみかけたって情報もあって大混乱なんだけど……そうか、はは、カイが家に……って父さん! こういうことはすぐに知らせてくれよ!」


 ワジは腕組みをしたまま仏頂面で応えた。


「客人はまずもてなすのが礼儀だ。ナジ、きちんとお客様にごあいさつしろ!」


「お客様って……おわっ⁉ ににに人間⁉」


 そこでようやくナジはオドゥの存在に気づいた。ナジはまじまじと人のよさそうな笑みを浮かべるオドゥを見つめた。


「すごいぞカナイニラウに人間なんて……グレンがきて以来じゃないか?」





「ナジ、ネリアはどうしてる?海王妃のドレスを着た娘がたどりついたろう」


「ああ、あの可愛い子?あの子はいま〝海の魔女の牢獄〟にいるよ」


 ナジの答えに、カイは顔をしかめた。


「何だって?あのリリエラとかいう、二百年も牢につながれている魔女がいる場所か?なんでそんなだれも行かねぇところに……」


「だれも行かないからだよ!海王妃じゃないなら、あの子はフリーだろうって大騒ぎでさ!さっきみんなで差しいれをしたんだ。気の早いヤツはドレスを作るために布の調達をするってはりきってる」


「なんだそれ」


 ナジの話では海王妃のドレスを着た人間の娘を保護して、王宮に連れ帰ったところ、海王は「海王妃ではない!」と激怒した。ところがそれを聞いた若い人魚たちは、一斉に色めきたったらしい。


「だって、カナイニラウに人間の可愛い女の子がくるなんて、ひさしぶりだよ?自分の作ったメシを食ってもらいたいじゃないか!しかも本当においしそうに喜んで食べてくれてさ!」


 カイはそれを聞いて、納得したらしい。


「まぁあいつ、俺が作ったメシも無邪気に食ってたしな」


「なんだって?カイのメシを食ったのか?じゃああの子はカイの……」


 また叫び声をあげたナジを、カイはうるさそうにさえぎった。


「ちげぇよ」


「あのさぁ、話についていけないんだけど?」


 意味不明なやり取りにオドゥが首をかしげると、カイが説明した。


「さっきもいったろ?人魚族の習性っつーか、雌が自分の用意したメシを食ってくれるっていうのは、それだけで雄にとってはドキッとするもんなんだよ」


「へぇ~カイもドキッてしちゃったり?」


 オドゥのツッコミに、カイはニヤリとした。


「俺ぁマウナカイアでの暮らしが長ぇからな……それでもメシを食われたら悪い気はしねぇよ。あいつ、すげぇうまそうに食うし」


「あ~それはわかる」


「だろ?」


「牢にいれたのはぬけがけ防止っつーか、苦肉の策だけどよ。カイ、陸ってあんなに可愛い子が、あんなに喜んでメシを食ってくれるもんなのか⁉」


 ネリアの出現で、一気に陸への夢をふくらませているナジに、カイは冷静に水をさした。


「あ~そこは勘違いすんな。陸にいる女がみなそうだと思うなよ?あんなに喜んで人からもらったもん、警戒もせずバクバク食うヤツそういねぇから」


 無事だろうとは思っていたが……ネリアの様子を聞いたオドゥは苦笑した。


「やれやれ、グレンの世話のしかたが間違ってたのかなぁ……」

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