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172.仕事の合間に息抜きを(テルジオ視点)

よろしくお願いします!

 テルジオ・アルチニはあっけに取られていた。


(なんでこの二人、なかよくなってんだ?)


 どちらかといえばば母親似のユーティリスと違い、弟のカディアンはミニアーネストといってもいいぐらい、父親似だ。


 あごががっしりしており、伸ばしぎみの髪を父親とおなじく逆立てて後ろに流し、鍛えられ筋肉のついた身体はいかつく、竜騎士志望というのもうなずける。


 その彼がいま、その無骨といってもいいぐらいの剣ダコのついた手で、鮮やかな発色の刺繍糸をあれこれと手にとっては、楽しそうに品さだめをしている。


「やはりメニアラの刺繍糸の光沢はいい!兄上の礼装には金糸の刺繍をほどこし、マントにはエクグラシアの象徴たる蒼竜の刺繍がひるがえる!この色なんかどうだろう?」


「すてきですわねぇ!」


 相打ちをうつのは、カーター副団長夫人のアナだ。食事の席でユーティリスの衣装の話がでたのをきっかけに、話し合いに参加している。テルジオは知らなかったが、アナとカディアンには『可愛いものが大好き』という共通点があった。


 いま二人は親友のように心を通わせ、可愛いものの話で盛りあがり、布見本や糸を手にユーティリスの衣装を想像してはうっとりしている。


 カディアンは、アナ・カーターという聞き役のおかげで、絶好調だ。


「サッシュの色が気にいらんのだが、カーター夫人どうしたらいいだろうか」


「こちらに布見本がございますよ。タクラ近くも貿易船が着く関係で染料が手にはいりやすく、いい染めものがありますの!」


「さすがカーター夫人!立太子の儀の衣装の材料は国内各地からひろく集めなければ……メニアラ産だけではなくタクラ産のブロードも取りいれることにしよう、これなら兄上にもほめていただけるだろう!」


 仕事自体は進んでいるが……何か忘れているような気がする。


「私、楽しみでしかたありませんの!うちのメレッタったら、卒業パーティーのドレスすらいらないと言うんですのよ!こうやって一緒に生地を選んで、デザインを考えるのを楽しみにしていたというのに!」


 当のメレッタが聞いたらゲンナリしそうだが、さいわい彼女は先程あくびをかみ殺し「私、ヌーメリアたちと島のビーチに行ってくるわ」と言って、部屋をでていったあとだ。


(いいなぁ……)


 テルジオもできたらそうしたかった。マウナカイアの真っ青な空、すき通ったエメラルドグリーンの海、自分だって楽しみにしていた、『人魚のドレス』を着たヌーメリアを見たい。そこまで考えて、テルジオはようやく何を忘れていたのかを思いだした。


(よく考えたらこっちにきてから、ヌーメリアさんとまだ一言も話していない!)


 ユーティリス殿下もいない今が、絶好のチャンスじゃないか!こんな所で何をやっていたのだ!テルジオは自分を張り倒したくなった。いや待て落ちつけ、今からでも遅くない。


 そうだ、プライベートビーチだ。ちょっと息抜きに散歩しよう。そんな感じでさりげなく行ってみよう!


 目の前の二人は盛りあがって、話が終わりそうにない。


「そうか……娘がいるとそういう楽しみもあるのだな。うちは男ふたりだから、母上にはつまらない思いをさせている」


「まぁ!綺羅綺羅しい殿下方がおられるのに、つまらないことなどあるものですか!」


「そ、そうかな」


 アナは大げさなため息をついてなげいた。


「私、メレッタの部屋を模様替えしましたのよ!窓辺にはフリルのついたレースカーテンをたらして、壁紙は小花模様を散らしたそれは愛らしいもので、色調はピンクで統一しましたの!それなのにあの子ったら、『本棚と机周りは絶対にいじらないで!』ですって……はり合いがないったら」


「それは……照れくさいのではないか?俺だったら絶対にうれしいと思うし」


「カディアン殿下はお優しいのですね!」


 終わらない。本当に、終わらない。


 そしてユーティリスの衣装は、どんどんきらびやかになっていく……。







 ユーティリス自身は飾りの少ないシンプルな物が好みだから、「任せる」とは言われたものの、これ以上派手になるとテルジオが彼から叱られそうな気がする。


 テルジオは声をはりあげた。


「殿下、カーター夫人、少し休憩にいたしましょう!」


「あらまぁ、ホント!楽しくて時間を忘れてしまったわ!」


「本当だな!ところでカーター夫人、メレッタの部屋のレースのカーテンというのは、サルカス産のものか?」


「ええ、よくお分かりですわね!」


「やはりそうか!サルカス産のレースの細工は素晴らしいよな!兄上の衣装にも取りいれられないかな……」


「それでしたらこの……」


 そしてユーティリスの衣装は、どんどんきらびやかになっていく……。


 テルジオはあきらめた。


 なんだかヤバいレベルで派手になりそうな気がする……だが不在にしているユーティリスが悪いのだ。衣装を着るのは一度だけなので、ユーティリスも文句はいわず着るだろう。


 テルジオは文句をいわれるかもしれないが、一度だけだ、うんきっと。悪いのは選んだカディアンとカーター夫人だ、うんそうしよう。


 もうほうっておこう……テルジオはささっとお茶と軽食の手配をして部屋をぬけだした。







(さりげなくだ、さりげなく散歩している感じをだすんだ)


 別にやましいことなんかない、ないったらない。自分はただ潮風にあたりにきただけだ……そう、あくまで散歩だ。


 今日はユーティリスとネリアが「サンゴ礁をみにいく」と言ってともにでかけたので、ほかのみんなはこの島のプライベートビーチでのんびりと過ごすらしい。


 ユーティリスたちには海洋研究所の助手のカイ・ストロームという男が同行しているので、何か間違いがあるとも思えないが。


(間違いがあっても困るが、何の進展もないのもなぁ……)


 ドレスを作るのにひと月では足らない。本当はユーティリスの衣装と一緒に、ネリアのドレスもさっさと発注したいぐらいだ。


(モリア山の遠征後に告知をするとして……実際に儀が行われるのは秋か……)


 そのときは全国で祝賀ムードが華やかに盛り上がるだろう。ようやく公の場に姿をみせるようになったユーティリスの人気は急上昇中だし、彼が錬金術師団の白いローブを着ているおかげで、『錬金術師団』にも注目が集まりつつある。


(ネリアさんは夜会への出席を承知するだろうか)


 あの二人はテルジオから見ても仲がいい。それはどちらかといえば人に対しては辛辣なユーティリスが、ネリアのことは素直に認めて慕っているせいもあるし、ネリアの気さくな人柄のおかげもあるのだろう。だがふたりに男女の雰囲気があるかというと、どうも違うような気がする。







 そんなことをつらつらと考えているうちに、ビーチへ着いた。だが肝心のヌーメリアの姿は見当たらない。メレッタとアレクが波打ち際で遊び、そのようすをオドゥがのんびり眺めている。


「あれぇ?テルジオ先輩どうしたの?」


「いやべつに……散歩だよ」


 オドゥの問いかけをとぼけてかわしたら、アレクと遊んでいたメレッタが立ち上がり、テルジオにビシッと指を突きつけた。


「ふふん、テルジオさん、私にはわかっているわよ!」


「えっ⁉」


 ヌーメリアを探しにきたって、バレた⁉


「母たちのおしゃべりにうんざりして、抜けだしてきたんでしょ!」


 あ、そっちね。


「そう!ちょっと外の空気を吸おうかな~なんて」


「だいじょうぶ!わたしにまかせて!いくわね!」


 ……いくわね?


 テルジオは知らないが、メレッタの『だいじょうぶ』は全然だいじょうぶじゃない。


 ザッバーン!


 疑問に思うまもなく、頭上に転送魔法陣が出現し、テルジオは頭から海水をかぶった。


「うわっ!何すんです!」


 びしょ濡れになったテルジオに、メレッタは可愛らしくウィンクした。


「テルジオさんもビーチで遊びたかったんでしょ?これですぐに戻らなくて済むわ!」


 は?


「これ、私が小さい頃よく使った作戦なの!」


「これ作戦なの?」


 アレクが聞くと、メレッタは得意気に答えた。


「そう!母が服が濡れるとか時間がないとかで、水遊びを阻止しようとする時に使うの!水遊びがしたかったら、さっさと濡れてしまうのよ!濡れたら遊ぶしかないものね!」


 違う!水遊びがしたかったわけでは……!そうテルジオが叫ぶ前に、オドゥが人のよさそうな笑みを浮かべ、魔法陣を展開した。


「いいねぇ……学園時代を思いだすなぁ、せっかくだし大勢で遊ぼうか」


「わーい!」


「はっ⁉ちょっ!オド……ガボッ!」


 その日、王家所有の静かなプライベートビーチには、多数の転送魔法陣が出現し、バシャンバシャンと大量の海水が降ったという。

魔法が使えるとしたら……修行なんかより、まず遊ぶよね。

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