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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

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17.感覚共有(ライアス視点)

挿絵(By みてみん)

ネリア・ネリス

(絵:よろづ先生)

 ライアス・ゴールディホーンが、最初にネリア・ネリスを見た感想は、『小さくて可愛いな』だった。


 いつも竜騎士団のゴツい連中とすごす彼にとって、たいていの女性は『小さくて可愛い』のだが。


「ネリア・ネリス、錬金術師です」


 そう名乗った彼女に、検問をしていたデニスが戸惑ったように彼を振り返る。


 ネリア・ネリスは女性らしいと伝えていたが、王都にいる錬金術師たちとだいぶ印象が違っていた。


 街にいそうなふつうの娘で、小柄な体に生成りのチュニックを着てベルトで締め、こげ茶色のズボンを履き、ショートブーツを合わせている。


 活発そうな感じはしたけれど、錬金術師っぽくはない。


「……ネリア・ネリス?」


 ついまじまじと見つめると、彼女も黄緑の瞳でまっすぐに俺を見返す。


「エルリカから?」


「はい」


 それだけでは確証を持てず、ライアスはもうひとつたずねた。


「イルミエンツの伝言は受け取ったか?」


 彼女は小首をかしげて一瞬考えてから、「あぁ!」と声をあげた。


「あなたが魔術師団長のレオポルド・アルバーンさん?」


 まちがいない、彼女だ。


「いや違う、私は竜騎士団長、ライアス・ゴールディホーン。魔術師団長レオポルド・アルバーンに頼まれ、あなたを迎えにきた」


「わたしを?」


 少しかしこまって自己紹介をしながら、ライアスは彼女を観察した。年は彼よりも下にみえ、ふわふわとした赤茶の髪をサイドで結んでいて、小さな顔に瞳は深みのある黄緑で、ほほはふっくらと柔らかく、健康的な印象を与える。


「あの?」


 けげんな顔をされて、自分がしばらく彼女に見入っていたことに気づく。


「ああ、失礼した……声は聞いていたが、本当に女性なのだな。こんなにかわいらしいかたとは思わなくて」


 目を丸くした彼女に、ライアスは「やっぱり小さくてかわいいな」と思った。


 魔導列車から降りた彼女に、オドゥ・イグネルが近づいてきて、ライアスはあっけにとられた。


(オドゥって、こんな奴だったのか⁉︎)


 優しいほほえみを浮かべて、親しげに彼女に呼びかけ、その手をとると素早く口づけを落とした。それらすべてが流れるように自然な仕草だ。


(オドゥ、すごいな。初対面の相手によくそこまで……)


 彼女はビクッと身を震わせて後ずさり、そばにいた俺も感心しつつ若干引いた。


 けれどこういった立ち居振る舞いのほうが、令嬢たちには受けるのかもしれない。


(あいつ、いつのまに眼鏡を?)


 オドゥと言葉を交わしたネリアに、警戒するような表情が浮かぶ。


 カーター副団長の命令を遂行しつつ、わざわざ彼女に接触し忠告もする。敵対するつもりはないらしいが、この状況で王都を離れるの不自然だ。


(こいつなりの考えがなにかあるのか……)


 グレンから次の錬金術師団長に指名されたネリア・ネリス。


 錬金術師団の研究棟は王城に建つ本城の裏手に建ち、王族が住む奥宮よりもさらに奥まったところにある。


 その排他的な雰囲気は王城でも独特だ。しかも師団長は絶対的な権限を持つ。


(俺でさえも苦労しているのに、彼女に務まるのか?)


 そんな疑問を感じるまもなく、魔導列車の発車時刻となった。彼女と話し終えたオドゥが伝達の魔道具を空に放ち、眼鏡のブリッジに指をかけ、俺を挑発するように見すえた。


「守れるでしょ?守りなよ。ライアスは竜騎士なんだから当然できるよね?」


 ――むろん、お前に言われるまでもない。


 ネリア・ネリスを無事に王城まで送り届けるために、わざわざ竜騎士団をだしたのだ。


 上空の竜騎士たちとエンツで連絡を取り、出発の準備をしていたら、ミストレイが彼女に見入っている。


 強い魔力を持つ者はふつう、それを隠したりしない。はっきりわかるように魔力を帯び、場合によってはそれで周囲を威圧する。


 彼女は体表スレスレを膜のようにぴっちり覆い、魔力を漏らさないようにしていた。魔力はほとんど表にでていない。彼女がふつうっぽく見えるのはそのせいだろう。


 ミストレイの目からすると、『全身を光る鱗(魔力)で覆われていてきれい』となるらしい。


 すると竜王と感覚共有しているライアスにも、なぜか彼女がやたらにキラキラして見える。


 落ち着かない気分でいると、彼女の匂いが鼻腔いっぱいに拡がった。


 むせこみそうになってミストレイを見れば、なんと鼻をなでられて喜んでいる!


(匂いを嗅ぐのを今すぐやめろ!俺まで彼女の髪に鼻を突っこんで匂いを嗅ぎ、喜んでいるような気になるだろうが!)


 だが、それはまだ序の口だった。


 騎乗するのに感覚共有を切るわけにもいかず、ライアスはありえない体験をすることとなった。


 彼女がミストレイをなでた瞬間、彼の背筋にゾワゾワとした感覚が走り抜け、全身が歓びに満たされる。


 前後不覚に陥りそうになった彼は、慌ててネリアを止めたが、ミストレイが不満そうに「もっとなでろ」と叫んでいる。


 なでてほしがる竜王を必死になだめていると、ネリアはミストレイの機嫌を損ねたと誤解し、あわてて彼に謝ってくる。


 機嫌を損ねるどころか逆だともいえず、ライアスはうなるように竜王に言い聞かせた。


「頼む……我慢してくれ、ミストレイ……頼むから」


(俺まで仰向けに寝っ転がって、腹をなでてもらいたくなるだろうが!今は職務中だ!)


 ライアスは歯を食いしばって、前方に意識を集中させようとした。ともかくミストレイの浮かれた意識を、ネリアから引き離すのに必死になる。


(くっ!これも俺がミストレイの竜騎士としては未熟なせいか?)


 ミストレイの背でひとり悶絶していた彼を、部下たちがそれぞれのドラゴンから、生温かい目で見守っていたとは、知る由もなかった。

『魔術師の杖』というタイトル。

「とりあえずつけて後で変えよう」

と思ったまま、結局使い続けています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流れ着きました…!! 感覚共有、恐るべし…!!笑 飽きることなく楽しませてくれる話の進め方! 見習わなくては…!! 書籍の方も購入したいと思います…!!
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