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168.これは断じてデートではない

よろしくお願いします!

 オドゥが探してくれたレストランは、ビーチからそのまま入れるテラス席があるもので、肉や魚介を、炎の魔石がセットされた網で、焼きながら食べるというものだった。


 飲みものを注文したあとは、皿に豪快に盛られた食材を、自分たちで思い思いに網の上に並べていく。


 網の上でパカッと口を開けた貝に、醤油のようなタレを垂らすと、香ばしい匂いがたち昇る。


 レイバートの店で食べた、洗練されたタクラ料理もおいしかったけれど、海の幸にはもっとシンプルな味わいかたもある。泳いだあとの身体には、塩分も温かい料理もうれしい。


「おいしー!」


 焼きたてのアツアツを夢中で頬張っていると、目の前のユーリがじっとわたしを見ていることに気がついた。


「あっ、ユーリごめん!それで何の話だっけ?」


 ちゃんと聞くよ!イカ焼きを食べながらだけど!


「もういいです……ネリアの幸せそうな顔見てたら、なんだか問いつめるのもバカらしくなって……」


 顔をそむけて口元を押さえるユーリの肩が震えている。どうやら、笑いをこらえているようだ。


 えっ?わたし、そんなまぬけな顔してた?……してたかも。でも美味しいもの食べる時に、顔なんて作れないよね!


「ユーリは食べないの?」


 イカ焼きとかそのまんまの形だし……彼の弟くんたちも職業体験でカレーにどんびきしていたなぁ。もしかしてイカ焼きも、彼の目にはゲテモノに見えているんだろうか。


 肉の串なら、ユーリもあまり抵抗なく食べられるかも……そう思って盛り皿の上を物色していたら、ユーリも網からわたしと同じ、イカ焼きの串を手に取った。


「いえ……そうですね、あまり焼くだけ……とかは食べたことはありませんが。いまはこれでごまかされてあげますよ」


 くすりと笑うと、ユーリは勢いよくイカ焼きをかみちぎった。







 テルジオ・アルチニは、もしもユーティリスが帰ってきたら、ひとこと文句を言ってやろうと待ちかまえていた。しかしネリアたちとともに戻ってきた彼の顔を見たとたん、回れ右をしたくなった。


「テルジオ」


「はい⁉」


 ユーティリスから話しかけられた自分の、返事をする声が思わず裏返る。


 なんだろう、何かしたろうか。いや、カディアンと一緒になって決めた『立太子の儀』の衣装は、本人が不在なのをいいことに、やたらに綺羅綺羅しい衣装になったのだが。


 それについては、まだ彼は知らないはずだ。なのに、なんでこんなに凄味が増しているのだ⁉機嫌が悪いのともちょっと違う彼の雰囲気に、テルジオは内心冷や汗をかきつつ首をかしげた。


「きょうは黙ってでかけて済まなかったね……変わりはなかったか?」


「はい、とくに何も……『立太子の儀』の衣装はカディアン殿下に手伝っていただいて、決めることができましたし……」


 静かに淡々とたずねるユーティリスに、念のためしれっと事後報告を済ませても、彼から思ったような反応はなかった。


(あれ?もっといやがるかと思ったのに)


「それはよかった。あしたもでかけるから、ひき続きよろしく頼む」


 それだけ言うと、ユーティリスは部屋にひき上げていった。


(何があったんだ?)


 本当はどこに行くのか、とかきょうは何をしていたのか、とか聞きたいことはいろいろとあった。だがこういう時のユーティリスは、貝のように口を閉ざすことを、テルジオは長年のつき合いで知っていた。


 彼にとって大事なことは、彼は決して語らない。側近の自分としては、推しはかるしかない。


 なのでテルジオは、何があったのかをネリアにたずねた。ネリアは自分のあごに人差し指をあてながら、一日を振り返る。


「ええと……わたしたちは『人魚のドレス』を買いに行って、そのまま海で泳いで」


「はい」


「それから、オドゥとユーリが合流して……みんなでビーチのレストランでおひるご飯を食べたよ」


「それで?」


 やはりオドゥが彼を連れだしたのか……だがオドゥにたずねても、けむに巻かれるのはわかり切っている。テルジオはひき続き、ネリアの話を聞くことにした。


「それで……って、それだけだよ」


「それだけなんですか?」


「うん。ユーリはイカ焼き初めて食べたって言ってた」


 だめだ。彼の凄味が増した原因が、何も分からない。


「それで……あすはどちらに行かれるので?」


「海に行って珊瑚礁を見るつもりだけど……」


 マウナカイアビーチに来て、海に行って珊瑚礁を見るのは当たり前だろう……テルジオはそう思った。


 それでなんでユーティリスが、決闘でもしに行くような雰囲気になるのか、テルジオにはさっぱり分からなかった。







「じゃあネリア、デートがんばってきてねぇ」


 翌朝、そう言ってオドゥはわたし達を送りだしたけれど。


 これは断じてデートではない!こんな形のデートは望んでいない!


 カイが店にある髪飾りのひとつを手に取ると、わたしに向かって甘く微笑む。昨日と態度が全然ちがーう!


「ネリア……髪飾りもつけたらどうだ?これなんか似合うだろ」


「安っぽくて壊れやすそうですね……貝殻じゃなくて真珠を使ったものはないんですか」


 カイがすすめる髪飾りにユーリが難癖をつけると、カイはおもしろそうにニヤリと笑う。


「それは俺がネリアに、真珠をふんだんに使った『花嫁』向けの装身具を贈ってもいいってことか?」


「ネリアなら瞳に合わせてペリドットを使ったものがいいですよ!エルリカに行けば買えますよね?」


 さっきからやたらとわたしにかまうカイと、それにかみつくユーリ……イケメン二人にはさまれて、わたしのライフゲージはどんどん削られていくような気がする!


 きみたち、わたしをダシにして、なんだかんだで楽しく会話してんじゃないの⁉


 表向きはにこやかに会話する青年たちを横目に、わたしは店番をするレイクラに挨拶をした。わたしにとっては神経を削られるユーリたちのやり取りも、レイクラには見ていて微笑ましいものらしい。


 レイクラはニコニコしながら、真っ赤なハーブティを淹れると、わたしにもそれをすすめ、お茶を飲みはじめた。


 お茶はマウナカイアでよく見られる赤い花を、煮出して作るものらしい。ひとさじの砂糖を入れてかき混ぜると、優しい甘みと香りが口の中に広がった。


「人魚のドレスの柄って花柄も多いけれど、古代文様を使ったものも多いですよね」


「古代文様……?この模様のことかい?」


 わたしがお茶を飲みながら、すぐそばにあったドレスの模様について彼女に話しかけると、レイクラは首をかしげて答えた。


「はい、わたしの手元にある『古代文様集』にも同じものがのっていて」


 古代文様について説明すると、レイクラは不思議そうな顔でそれを聞き、シワの寄った小さな手で、ドレスの模様をなでた。


「そう……この模様は『カナイニラウ』から伝わったものだよ……それを古代文様というのは、はじめて知ったね」


「『カナイニラウ』……人魚の王国でしたっけ?」


 伝説にしか過ぎない……そう言われている人魚たちと、その王国。けれど、マウナカイアの生活の中には、伝説と言われながらも、その影響が色濃く残っているようだ。レイクラがうなずく。


「『カナイニラウ』は海の精霊にまもられた王国だ……この模様は精霊に願いごとをするための言葉みたいなものなんだよ」


「精霊に願いごとをするための言葉……?」


「そう、精霊たちに願いごとをする時には、これらの模様を刻むんだよ……ドレスに模様をつける時もあれば、砂浜に刻んで祈りを捧げることもある」


 生活の中に根ざしているらしい古代文様の使われかたに、わたしは興味をひかれた。


「『カナイニラウ』の歴史は古いんですか?」


 古い王国なら、そこで使われた文様が『古代文様』と呼ばれても不思議ではないわけで。


「おい、そろそろでかけるぞ」


 わたしが考え込みはじめたところで、カイが声をかけてきた。カイは皮の鞄を肩から斜めにかけ、ユーリもすでに着替えて、赤い腰巻ひとつになっている。


 レイクラの話をもう少し聞きたかったんだけどな……。残念そうな顔をしたわたしを見て、ハーブティを飲んでいたレイクラが目を細めた。


「またおいで。カイがいない時は店も混まないから、模様について教えてあげよう」

ありがとうございました!

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