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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第六章 ネリアと人魚の王国

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166.人魚になってみました

よろしくお願いします!

 海面に顔をだしてみれば、みんなそれぞれ人魚になったようだ。アレクとメレッタが、ヒレをバシャバシャさせてはしゃいでいる。


 わたしたちのすぐそばで自分も青い人魚になったカイが、ヒレをひらめかせてジャンプし、イルカのように躍りあがった。


 水しぶきもすごいが、ダイナミックな動きに圧倒される。すごい!わたしは海面に顔をだしたカイに、ジタバタしながら近づく。くぅ……思うように進まない!


「カイ、泳ぐのってどうやるの?」


「べつに……行きたい方向に行くだけだ」


 それ、初心者にはぜんっぜんわかんない説明なんだけどなぁっ!


 カイは濡れてしずくを垂らす緑の髪をかき上げながら、あきれた声をだした。


「腕を使おうとするから、そんな干潟でサメの赤ん坊がジタバタするみたいな、不格好な変な動きになるんだ」


 えええ?だって平泳ぎは得意だったんだよぅ……サメの赤ん坊ですか、そうですか……。


「ネリア、『人魚のドレス』は魔道具ですから……ドレスにおおわれた脚とヒレの部分を使って泳ぐんです」


 ヌーメリアがすいっと近づいて教えてくれた。ヌーメリアはアレクの両手をとって、泳ぎ方を教えている。ヌーメリアに手をひいてもらいながら、アレクはバシャバシャと水面にヒレをぶつけていた。


「僕も川で泳いだことはあるけど、海ははじめてだから勝手が分かんないや。魚になるってむずかしいね」


 転移魔法といい、人魚の泳ぎかたといい、アレクと一緒にもがいているのは同じだなあ……。面倒だから、平泳ぎでよくない?美しくないかもしれないけど……。


 アナとメレッタの方は、アナがメレッタの手をひいて泳ぎかたを教えているようだ。ちらりと横目でカイを見れば、彼は腕組みをしたままこちらの様子を見ているだけだ。


 いや、べつにあんたに手を引いてもらいたいなんて思わないし、いいけどさ。脚が動かせないって、手だけでいくらがんばっても沈むんだよ!


「もががが」


 必死になって再び海面に顔をだすと、カイの容赦ない言葉が降ってきた。


「あんたは……やめといたほうがよくないか?」


 わたしもそう思うよ!


 でもさぁ!


 ここまでくるのに、門外不出の魔道具を作ってヌーメリアとウォーキングしたり、転移魔法の練習したり、長距離転移魔法陣だって何度も書きなおして……いろいろとがんばったんだよ!


「ぐぶぶぶ」


 そのとき、わたしの耳がカイの言葉をひろった。


「王都ではお偉い錬金術師でも、海ん中じゃウジナマコよりひでぇな」


 ウジナマコ……それがなんだかは分からないけれど、サメの赤ん坊より多分下なんだと思う。


 わたしはあきらめて水に沈んだ。







 思いきって水に潜ってみると、魔道具の効果なのか息苦しさもない。あらためて水の中で自分の身体を見てみれば、差しこむ太陽の光が波に揺らめいて人魚の身体にあたり、透き通ったヒレも虹色に輝いてとても綺麗だ。


(泳ぐのはあきらめて、このままナマコみたいに沈んでようかなぁ……)


 流れにまかせることにして力を抜くと、海の透明度は高く、何メートルも下の海底まで綺麗に見渡せる。青と黄色のラインが入った銀色の魚の群れが何匹も、ウロコをきらめかせて通り過ぎていった。


(息つぎのいらないシュノーケリングだと思えば、これはこれで楽しいかも)


 そうよ、わたしは今マンボウなのよ。波にまかせて漂えばいいのよ。


 マンボウ気分でしばらく漂っていたら、ふと、海底に沈むオレンジ色のヒトデが目にとまった。


 もう少し近くで見たいな……と思ったとたん、意識したわけでもないのにヒレが軽く動き、すい……と体が進んだ。


(あれ?いまのって……)


 わたしはカイの言葉を思いだした。


『行きたい方向に行くだけだ』


 ヒトデから目を離して、前方を見てみれば、海草のしげみが目に入る。


(行きたい方向に……)


 意識してヒレの先まで魔力を込めると、あっという間に海草のしげみが目の前に来て、しげみに隠れていたピンクやブルーの小魚たちが、あわてて散る。


(そうか……手は使わないんだ)


 わたしはそこから上を見上げた。海草が茂る水底から水面までは、五ムゥか七ムゥぐらいだろうか。


 ねぇ、太陽をつかめる?


 わたしもカイみたいに飛べる?


 わたしは魚の身体に変わってしまった、自分の脚を見下ろす。意識して魔素を足先に集中させるようにすると、透き通ったヒレが虹色に煌めいた。


 やってみよう。


 上へ。


 もっと上へ。


 水面を突き抜けて、太陽がつかめるぐらい高く。


 水が温かくなった……と思った次の瞬間、急に水の抵抗がなくなり、熱い日差しが肌を焼く。


 ああそっか……空気って水に比べれば密度が薄いんだ。


 見下ろせばみんなの顔が、カイさえも驚いた顔でわたしを見上げていた。


 そしてそのまま吸い込まれるように、また水の世界に戻った。







 これ……すごく楽しい!


 どこまでも行ける。魚のスピードで泳げるなんて、信じられない!


 水の中の景色に夢中になり、魚と追いかけっこしながら泳いでいたら、突然腕をつかまれた。


 みるとカイがわたしの腕をつかんでいて、上を指差しどんどん上昇していく。どうやら海面にでろということらしい。


 ふたりそろって海面に顔をだしてみれば、カイははじめて見る笑顔で、楽しそうに話しかけてきた。


「あんたすごいな!はじめてでこんなに泳げるなんて!魔力も結構あるだろ?」


「うん、魔力はそれなりに。すごいね、本当に人魚になった気分!」


 間近で見るカイの瞳は、綺麗なエメラルドグリーンで、今潜っていた海そのままの色をしていた。


「でも飛ばし過ぎだ、一旦みんなの所に戻ろう」


「あ……」


 ふりかえれば、みんなの姿が遠くのほうに小さく見える。調子に乗ってかなり沖の方まできていた。


「こんなに進むんだ……」


 カイが捕まえてくれなかったら、みんなとはぐれてしまうところだった。


「本物の人魚なら、もっと速いぞ。でもそうだな……これだけ泳げるんなら、後でもっと景色のいい場所に連れて行ってやる。熱帯魚が集まる珊瑚の綺麗なしげみがあるんだ」


「本当に?ありがとう!」


 いやっほー!これで人魚生活、満喫できそうだよ!


「だけど、絶対にひとりで沖へ行くな。あんたみたいなのは、すぐさらわれちまう」


「わたしみたいなのって?」


 首をかしげてたずねると、カイはぶっきらぼうに答えた。


「……魔力があって、ほかの雄の匂いがしない雌は、人魚が『花嫁』に欲しがる」


 は?


「それ、人魚は本当にいるってこと?」


 それに『ほかの雄の臭いがしない』って何⁉


 そんなのわかるの⁉


「……」


 質問に返事はなく、カイは無言でヒレをひらめかせると、わたしの前を泳ぎだした。







 みんなのそばまで戻ると、ヌーメリアが慌てて近寄ってきた。


「ネリア!『人魚のドレス』を着ていればおぼれることはないけれど……沈んだまま浮かんでこないから心配しましたよ!」


「ほんとですよ!突然水から飛び上がったと思ったら、今度は猛スピードでサメみたいに泳いでっちゃうんだもの!」


「ごめん……」


 メレッタにまでしかられ、謝るしかない。


「ほら、足がつく場所に連れて行ってやるから、俺につかまってドレスから魔力を抜け。ゆっくりとだ」


 今度はカイも肩を貸し、わたしの腰を支えてくれた。


 ヒレの先まで行き渡っていた魔素を、ゆっくりと体の内側に戻していくように意識すると、ドレスのすそが体から離れ、自分の脚が見えた。


「脚だ……」


 変な感覚に戸惑い、思わず足の指をむにむに動かしてみる。左右の脚がべつべつに動くのは当たり前なのに、変な感じ。わたしに肩を貸し腰を支えたまま、カイはおかしそうに笑った。


「あんた、順応性が高いんだな。人魚の身体にすんなりなじんでるじゃないか」


「そうかも……」







 その様子を浜辺で見ていたふたりの青年のうち、茶髪に黒縁眼鏡をかけた青年が、こげ茶色の髪に深緑の瞳をした青年に話しかける。


「オドゥ……なぜ()があそこに?」


「えぇ誰?僕、いま眼鏡かけてないから、よく見えないなぁ」


 ユーリはズレそうになる眼鏡のブリッジを指で押さえながら、隣に立つ青年にふたたび話しかけた。


「この眼鏡、伊達ですよね……裸眼でもちゃんと見えてますよね?オドゥ、答えて下さい」

ありがとうございました!

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