165.人魚のドレス
よろしくお願いします!
マウナカイアビーチは人でにぎわっていた。
「うわぁ、すごい!」
マウナカイアはわたしが子どものころ通った海水浴場みたいなちいさなものではなく、見渡すかぎり白い砂浜のビーチがつづき、たくさんのお店が建ちならぶリゾート地だった。
あちこちにおしゃれなカフェがあるし、香ばしい焼き肉の串を売る屋台もあれば、ビーチからそのまま入れる、テラス席を備えた落ちついたレストランもある。
フルーツだけでもバリエーション豊富で、カットフルーツをそのまま売る店や、しぼりたてのフルーツジュースのスタンド、トロピカルフルーツを煮つめたシロップを凍らせ、口の中で溶けるふわふわの氷に削ったものを、カップに盛ってふるまう店もある。
土産店の店先には貝殻でできた風鈴がぶらさがっているし、船の模型も飾られている。色鮮やかな貝殻を使ったかわいいアクセサリーを売る店や、真珠や珊瑚を使った高級品をあつかう店まであって、お店をみて歩くだけでも楽しい。
女の子たちは真剣に自分たちのドレスを選んでいるが、『人魚のドレス』を売る店だけでも何軒もあるようだった。身体をしめつけない、ゆったりした作りのサマードレスのため、既製品で十分間に合うらしい。
ビーチが広いから、どの店からでもドレスに着替えてすぐに海にいけるし、海からあがれば浄化の魔法をかけるだけだから、シャワーを探す必要もない。そのまま街歩きができて便利なドレスだ。
ぬけるような青空のもと明るい日差しのなかでは、鮮やかな色彩のほうが映えるようだ。
「やーん、あちこち見たくなっちゃいます!」
メレッタがみもだえして興奮するのに、わたしも同意した。
「そうだね、まずは『人魚のドレス』を買おう!カイの店はもうちょっと先のはずだけど……」
ポーリンのくれた地図を頼りに歩いていたら、だんだん店がまばらになり、さびれた通りになってきた。
「あっ、あれじゃない?」
華やかな繁華街とちがって、そこだけ時が止まったような古びた小さな店の色褪せた看板には、かすれた文字で『カナイニラウ』と書いてある。
「カナイニラウ……?ここですか?」
「そのはずだけど……」
「おや、お客さんかい?」
そのとき中から、赤い地に大きな白い花模様の可愛らしい『人魚のドレス』を着た、カイと同じような褐色の肌をした小さなおばあさんがでてきた。
「こんな外れの小さな店にこなくても、街のほうにドレスを売る店はたくさんあるはずだけどね」
「わたし達、カイがここでお店を手伝っていると聞いてきたんですけど……」
わたしがそう言うと、おばあさんは「ああ、そういうことかい」と、ひとり納得して中に呼びかけた。
「カイ!またお客さんだよ!ようこそ、『カナイニラウ』へ……カナイニラウってのは、海の底に広がる人魚の王国をそう呼ぶんだ」
「人魚の王国……」
店の奥にいるカイを見て、メレッタが歓声をあげる。
「わぁ!カイさんてば、すごく格好いい!」
「……きたのか」
研究所では襟のひらいた半袖のマウナカイアシャツに半ズボンというラフな格好だったカイは、丈の短い金の縁飾りがついたピッタリした黒いシャツに、植物柄に染めた鮮やかなブルーの布を腰に巻いている。
接客用の民族衣装なのか鍛えられひき締まった上半身を飾るように、首にはフラクタル模様が美しい巻貝をあしらったペンダントをさげ、耳には黒真珠のついた金のピアス、腕には彼の瞳にあわせたエメラルドグリーンの鮮やかな玉と黒真珠を交互に連ねた腕輪をつけていた。
「カイ、海の王子様みたい!」
びっくりしてそういうと、カイは思いっきり顔をしかめた。
「……たとえがダセぇな」
ダサくてすみません……。
カイはいつも通り愛想はないものの、ちゃんと接客をしており、店を訪れてドレスを買う女の子たちの目がハートになっている。おばあさんは店の隅の小さな椅子に座って、ニコニコとその様子を眺めていた。
「……あんたにはこっちのほうが似合う」
カイが選んだドレスを胸にあてて、頬を染めた女の子が頼んでいる。
「ほんと?このドレスに合う髪飾りも選んでくれる?」
「……しかたねぇな、ちょっと後ろ向け」
後ろを向いた女の子の髪を、カイは大きな手で手早く束ねると、貝でできた髪飾りを差しこむ。その手つきは乱暴な言葉使いとは裏腹に、優しく丁寧なもので。
「ほら」
いっしょに買い物をする女の子たちが黄色い悲鳴をあげ、髪飾りをつけてもらった子は目を潤ませていた。
「ねぇカイ、王都に戻る前にまた会いにきてもいい?」
「ああ、またな」
女の子たちを送りだしひと息つくと、カイはわたしたちのほうに向き直った。
「あんたたちも『人魚のドレス』が欲しいんだったな……レイクラ、みつくろってくれ」
レイクラ、と呼ばれたおばあさんがゆっくりと立ち上がり、カイは青い布を手に取ると、アレクに声をかけた。
「坊主、腰布の巻きかたを教えてやる。きちんと巻かないと外れるからな」
「ヌーメリア、僕教えてもらってくるね!」
「まだ水には入らないでね」
「うん!」
カイはアレクを連れてさっさと店をでていき、レイクラは店の奥の棚から色鮮やかなドレスを選びだした。
「この店にあるドレスは、みんなあたしとカイが作ったものだよ」
「彼もドレスを作るの?」
意外に思ってそう聞くと、レイクラはころころと笑った。
「ドレス作りはもともと人魚の男のたしなみさね……なんたって自分の『花嫁』に着せるために縫うんだ」
「そういえば、花嫁衣裳って聞きました」
「そう、衣装の仕上げに自分の鱗を縫いつける…そうして愛する人間の娘を人魚にかえ、はるかかなた、海の底にある自分達の王国『カナイニラウ』に連れていくのさ」
レイクラは歌うように言いながら、ドレスをひろげる。
「わぁ、すてき!」
「ロマンチックねぇ」
メレッタとアナがひろげられたドレスを手にうっとりする横で、レイクラはニコニコ笑う。
「娘にドレスを着てもらうためには、まずはそのドレスを気にいってもらわなきゃね……だから、ドレスはどれも女がちょいと袖を通したくなるような、素敵なものなんだよ」
ヌーメリアは濃い青にピンクと白の花が描かれたドレスを選び、アナとメレッタは、自分たちの瞳の色に合わせた紫の生地に、それぞれ違う柄のドレスを選んだ。
わたしはレイクラが勧めてきたドレスの、生地のエメラルドグリーンが鮮やかで気にいり、それにした。だって、アリエルっぽいもん!そのまま着替えて店をでると、外で待っていたアレクが、青い腰布ひとつの格好でポーズをきめる。
「ネリア、どう?」
「アレク、格好いいよ!」
「ネリア、このあとどうします?」
ヌーメリアが話しかけてくる。
「そうだね、やっぱ目の前にひろがる海が気になるよね」
そう、海が呼んでいる。アレクもうずうずしているようだ。
「僕、海いきたい!」
腕を組んでその様子を眺めていたカイが、聞いてくる。
「人魚のドレスを着るのは初めてか?」
「うん」
「しかたねぇな……ちょっといってくる」
カイが声をかけると、レイクラが店先にでてきた。
「あぁ、いっておいで。かわいい子だものね」
「……そんなんじゃねぇよ。王都から研究所にきてるお偉いさんだ。それに人間は心変わりするからダメだ」
それを聞いたレイクラは、少し悲しそうな顔をした。
島では波打ち際で遊んだし、研究所の近くの潮だまりでも海にさわったけれど、海にはいるのははじめてだ。
「ひゃっ、冷たい」
恐る恐る『人魚のドレス』を着たまま水にはいるけれど、とくに何も起こらない。ええと……?
「はじめてだとちょっとコツがいるかもな」
ドレスはどんどん濡れていき、布が足にまとわりついた……と思うと、突然立っていられなくなった。
「えっ⁉きゃああ!」
バッシャーン!
バランスを崩して派手な水しぶきを上げて倒れたわたしは、あわててもがくけれど脚が全然思うように動かない。
よくよく見るとドレスの布が脚全体をおおっており、すそは水の中で揺らめく綺麗なヒレに変わり……。
わたしは人魚になっていた。
よろづ先生から頂いた4巻発売記念イラストとメッセージですm(_)m
「ネリアちゃんのイキイキとした表情を表現できるようにがんばりました!
海の青さで熱い夏を少しでも涼しく感じていただければ幸いです。
今後も『魔術師の杖』の世界観が膨らむようなイラストをお届けしたいと思いますので応援をよろしくお願いします!」
画:よろづ先生
なお出版社からお借りしている画像は表紙絵と広告バナー画像のみで。
なろう版挿絵の各キャラクターや発売記念イラストは、よろづ先生が好意で描いてくださったものを、ご本人に転載の許可を得て使わせていただいてます。
よろづ先生への応援メッセージは目次や本文下に並んだ表紙絵から跳べる公式サイトへぜひお寄せくださいm(_)m









