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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第六章 ネリアと人魚の王国

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158.海洋生物研究所

今年最後の投稿になります。

巣ごもりに備えて『カタン』、『ポイズン』、『パッチワーク』の3種のボードゲームを買いました。

『カタン』は面白いし、『ポイズン』と『パッチワーク』はジャケ買いですが、可愛らしくて楽しいゲームです。オススメですよ。

「ネリアさん、出発しましょう!『海洋生物研究所』へ!」


 テルジオの声かけにうなずき、わたしは師団長室の長距離転移魔法陣に魔素を流しこむ。イメージとしては、フタをちょっとずらすだけ……それだけでじゅうぶんだ。魔法陣がまばゆく光り、次の瞬間にはまわりの空気の温度と湿度が変化したのがわかった。


 ザザーン……。


 波の音と潮のかおり……設定した座標にくるいはなく、ぶじ『海洋生物研究所』へ到着したにちがいない。マウナカイアでは悪目立ちする仮面は封印だ。リゾートを楽しむのだ!


「ようこそ、エクグラシアの誇る『海洋生物研究所』へ!……といっても所員は所長の私ポーリン・リヴェと助手のカイ・ストロームの二名だけですが」


 にこやかにわたしたちを出迎えたのは、オレンジ色の髪をたばね、日に焼けた笑顔がまぶしいリヴェ所長だ。


 カイ・ストロームは褐色の肌にあざやかなエメラルドグリーンの瞳をもつ青年だった。


 長めの明るい緑の髪は後ろでざっくり結び、左に垂らした前髪をいくつもの束にわけ編みこんでいて、なかなかオシャレさんだ。


 研究所の助手というよりも、ボードを持ってビーチを歩くほうが似合いそうだ。


「錬金術師団長のネリア・ネリスです。ウブルグ・ラビルがお世話になります」


 そのままそれぞれに挨拶をかわし、ウブルグの荷物を彼の部屋に運びこむ。海洋生物研究所は、もともとは大きな灯台だったらしく、所員のふたりは灯台守も兼ねているらしい。


「歓迎しますよ、ウブルグ。私のことは『ポーリン』でかまいません。研究所のほうはともかく、灯台守の仕事は毎日休むわけにもいかなくて。人数の増員は大歓迎です!」


「ほむ⁉︎」


 がっしと力強くポーリンがウブルグと握手し、彼は自動的に、『灯台守その三』になることが決定した。


「しかしみなさんこんなに大勢でおみえになるとは……どうです?みなさんも灯台守になりませんか?あははは」


 豪快に笑うポーリンに、うずうずしていたわたしは聞いてみる。


「海を見に行ってもいいですか?」


「どうぞどうぞ!カイ、ネリス師団長を案内してさしあげて!」






 人は空にあこがれるのと同じくらい、海にもあこがれるんじゃないだろうか。


 このひろい海原にこぎだして、まだみぬ果てしない世界に行ってみたい。


 みんながウブルグの研究室の片づけを手伝っているあいだ、助手のカイはわたしを、灯台の足元の岩場に案内してくれた。くいいるように海をみつめるわたしの横顔にむかって、不思議そうにカイがたずねる。


「海ははじめてか?」


「はじめてじゃないけれど……ここにくるのははじめて……」


 懐かしい潮の香り……地球の海とそんなに組成は変わらないんだろうか。


 わたしは手を海水にひたし、それからその手をなめてみる。


「……しょっぱい」


「あたりまえだろ」


 自分でも思いもしなかった涙が、急にあふれてポロポロとこぼれ、隣にいたカイがギョッとしたような声をだした。


「どうした!泣くほどからかったか?」


「わからない。わからないけど……なつかしい感じがする」


「なつかしい……」


『母なる海』というぐらいだ……この世界の生命の起源も、海にあるのだろうか。涙がとまり、ようやく立ちあがったわたしに手を貸しながら、カイがたずねる。


「なあ、あんた……本当に人間?」


「えっ?うん、そうだと思うけど……」


 返事はなんだか、自信のないものになってしまった。けれど、カイという青年が考えていたのは、まったくべつのことだったらしい。


「このへんには人魚伝説があるから……あんた海をなつかしがっているし、もしかして……」


「わたしが人魚かも……って?それはぜったいにないよ!」


 なにその人魚伝説……めっちゃ気になるよ!カイにくわしく聞きたいけれど、むこうはさらに食いさがった。


「そうか……忘れてるだけってことはないか?」


「そんなことないよ」


「ネリア!」


 そんな会話をしているところに呼びかけられて上を見ると、ユーリやアレクが灯台からわたしをみおろし、手をふっている。


「絶景ですよ!ネリアも上がってきませんか?」


「本当?いま行くね!カイ、連れてきてくれてありがとう!」


 そのまま腕輪からライガを展開し、浮かび上がってユーリの側まで飛んでいく。カイがおどろきに目をみひらく。


「空を飛んだ……⁉︎」


 柵からさしだされたユーリの手をとり、展望室に降りてライガをたたむ。岩場でぼうぜんとしたままのカイに手をふると、みんなといっしょに灯台の見学をした。


 灯台には炎と風の魔石が使われていて、太陽や風の力をたくわえて、夜になると光るようにできているらしい。


「この辺は岩礁がおおいので、座礁防止のための灯台なんだそうです」


「魔導ランプの灯りって、にじむようにひろがるけれど、まっすぐ進まないよねぇ……遠くからも見えるの?」


「それはだいじょうぶです。魔導船も灯台の位置を感知する魔道具を積んでいますから……たまに人魚が灯台をまねて船を惑わすこともあるらしいですが」


 音波標識みたいなものかな……っていうか、ここでも『人魚』ということばが当たり前に使われている。


「人魚!カイもこのあたりに人魚伝説があるって言ってた……人魚っているの?」


 わたしはびっくりした。けれど精霊もいる異世界なら、人魚がいたって不思議じゃないのかも。


「ネリアは生命の起源が海にある事は知っていますか?人間と精霊の境がまだ曖昧だったころの話ですけどね……海の精霊を愛し、海に留まることを選んだ者が人魚になった……という伝説があります」


「へえええ!もしかして海洋生物研究所って人魚を研究しているの?」


 わたしの質問には、ポーリンが豪快に笑いながら答えた。


「あはは、師団長はロマンチストだね!あとで水槽を見てみるといい、ふつうに海洋生物を研究しているよ!本当は船も欲しいけれど、予算がね……」







 そのまま研究内容についてポーリン所長と話をしていると、テルジオが声をかけてきた。


「とりあえず、ラビルさんの荷物は研究室に収まったので、今日はもうみなさん宿泊施設に移動しませんか?日没後は船の航行は危険なので」


「船で移動するの?」


 首をかしげて聞き返したわたしに、テルジオが説明してくれる。


「一度行ってしまえば、後は転移で自由に行き来できると思いますが……急な話だったので、ひとまず王家所有の島にご案内させていただきます」


 ……島⁉︎王家所有の島⁉︎おもわずユーリのほうを見ると、彼も苦笑した。


「僕も手配はテルジオにまかせたので、くわしくは知りません」


「僕達、海辺の宿とかでいいんだけど……」


 オドゥが眼鏡のブリッジに手をかけてそういうと、テルジオは渋面のまま答えた。


「安全対策を考えたら、島の方が確実なんだよ!プライバシーも守られますし……」


「……だってさ、ネリアもそれでいい?」


「あっ、うん……何も考えていなかったから助かるよ……そういえば十一名もの団体だものね」


 ウブルグは早速研究所の自分の部屋で寝られるとして、やっぱりいきなり無計画にでかけるのはまずかった……と反省する。泊まる場所のことなんてまったく考えていなかったけど、カーター夫人やメレッタやアレクもいるのだから、ちゃんとしたところに泊まりたい。


「だいじょうぶだよ、僕がいくらでも抜けだしかたは知っているし、ちゃんと楽しめるよ」


「オドゥ……殿下は海辺での静養にいらしたのだ!島を抜けだすなど、言語道断だからな!」


 テルジオに聞きとがめられたオドゥは、軽く肩をすくめる。


「うーん、ネリアにきちんと静養するよう命じてもらえば、ユーリも聞くしかないんじゃない?」


「えっ……それは……」


 ユーリが不本意そうな声をだしたが、テルジオはずいっとわたしにせまってきた。


「お願いします!ネリアさん、バシッと殿下に命じてください!」


 それはもちろん、わたしだってそう思う。ユーリは人に弱みをなかなか見せないけれど、ここで無理をさせるわけにはいかない。


「もちろんだよ!ユーリ、島でしっかり静養すること!いい?」


「……はい」


 ユーリは恨めしそうな顔でオドゥを見たけれど、オドゥは「これで、テルジオ先輩も安心だね!」と、人のよさそうな笑みを浮かべただけだった。


 テルジオはホッとしたような顔であちこちに『エンツ』を飛ばし、やがて迎えにきた船に乗って、わたし達一行はウブルグひとりを研究所に残し、王家所有の島に向かう。


 トビウオのような魚の群れが船と競走するように海を飛び、アレクとメレッタが歓声をあげる。明るい色の海に、ここが南国なんだと感じた。

挿絵(By みてみん)

ネリアをヒロインぽく描いてみました。作者の手描きです。

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― 新着の感想 ―
[一言] カイから見て人魚に見えるって事は、地に足がついてないんだろうな グレンの心配がわかるよ 王都へ行けば この世に繋ぎ止める錨が見つかる可能性があったのと同時に、傷ついて儚くなる可能性も秘めて…
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