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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第五章 ネリアと二人の師団長

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155.出発式

よろしくお願いします!

 遠征隊の出発式は王城前広場でおこなわれた。


 十体のドラゴンを従えた竜騎士たちと、総勢二十名ほどの魔術師たちが一斉にならんでいるのは、そうそうたるながめだ。


 朝からユーリがわたしにはりついて、かいがいしく世話をやいてくれる。錬金術師のローブを身につけていても颯爽とした王子様っぷりで、ユーリはにっこりと笑ってこちらに手を差しだす。


「ネリアにとってははじめての出発式ですし、きょうの段どりは僕がつきっきりで教えますね!」


「ありがとう……なんかユーリってば過保護だね?」


「そんなことないですよ。あ、そこ段差ありますから気をつけて」


「うん」


 見事なまでにユーリにエスコートされ、わたしはいつのまにかすいすいと壇上に移動している。


 錬金術師団は実戦部隊ではないから、出発式ではアーネスト陛下のうしろに立ち遠征部隊を見送ることになっている。


 カーター副団長とユーリがわたしのすぐ横にならび、ほかの錬金術師たちも一歩ひいた位置にならんだ。


 アーネスト陛下の斜め後ろにユーリと並んで立つと、なんだろう……ライアスもレオポルドもこちらをじっと見ているのだけど……国王陛下を見なくていいの?


 そういえばユーリも、グレンの〝呪い〟がとけてから、これがはじめての公務だ。おっきなユーリがまだめずらしいのかな?


 赤い髪で背も高くなったユーリは、特徴的な錬金術師団の白いローブを着ると、とてもめだつ。


 国全体にむけて『立太子の儀』の告知がされたばかりだから、さっきから注目の的になっているのはそのせいかもしれない。


 人数が少ないとはいえ壇上に白いローブを着た錬金術師が七人もならぶと、かなり存在感があった。





 式典の最初は慰霊碑に、過去にモリア山への遠征で命を落とした者たちへの献花からはじまる。


 いまから二十年ほどまえ、魔獣におそわれたタイミングで不幸にも落盤事故がおこり、多くの団員たちが犠牲になったらしい。


 犠牲者に花をささげ教訓とすることで、あらたな事故の防止をちかうとともに、遠征の無事をいのるのだ。


『遠征からかならず無事にもどる……という〝ゲン担ぎ〟なんだ』


『すこしでも俺のことを思いだしてもらえたら』


 そんな危険な任務とわかっていて、そういって自分の上着をわたしにたくしたライアス……彼に上着を返すとき、わたしはどんな顔をすればいいんだろう。


 上着を預かってしまったことで、とても重い約束をしてしまったような気になる。


 ねぇグレン、彼がわたしに手をのばしてくれたとして、わたしは彼の手をとってもいいのかな……わたしは自分が何者かもよくわかっていないのに。


 わたしは彼の気持ちにこたえる覚悟も準備も、まだできていないのに……。


 でもいまはとにかく、彼や遠征隊の無事をいのろう……そう思っていたときに、『レイメリア』という名前がきこえて、わたしは顔をあげた。


 式典ではちょうど、犠牲になった者たちの名をよみあげている最中だ。


「レイメリアってもしかして……」


 わたしのつぶやきを拾ったユーリが教えてくれる。


「ええ、レイメリア・アルバーン……魔術師団長の母君です。彼女は遠征中の事故により、モリア山で亡くなりました」


 レイメリアが魔獣退治に魔力のほとんどを使いきったところに落盤事故がおき、彼女はポーションを持たないまま、岩盤がふさいだ通路の奥に閉じこめられたのだという。


「そうだったの……」


 グレンもレオポルドも、毎年出発式で彼女の名前をきいていたんだ……。


「その事故があってからは、家族のいる団員を遠征からはずすようにしたのですが……そうすると過酷な遠征に、経験ゆたかなベテランの団員が参加できなくなってしまって……」


 魔導大国たるエクグラシアの国力を維持するためにミスリルの採掘は必要で、危険な遠征は毎年おこなわれるが、新人の団員や引退間近の団員たちだけでは、いざというときの踏んばりがきかない。


 そのためいまは、家族が病気だったり幼い子がいる……とか、本人が申告すれば配慮はされるが、どの団員も交代でひとしく遠征に参加しているのだとか。


 団員たちの家族も出発式には見送りにきていて、ちいさなこどもたちの姿もみえた。


「だからありがとう、ネリア。収納ポケットを作ってくれて。これで助かる命があるかもしれない。危険な遠征が避けられないなら、彼らの安全性を高めたかった……ひとりひとりが生きている人間で、家族がいるんですから」


 ポケットはユーリが収納鞄の術式をみながら思いついたことで、わたしはそんな遠征があることすら知らなかった。


「ユーリのアイディアだよ。でも間にあってよかった」


 収納ポケットは遠征の人数分、ギリギリまにあった。


 国軍全体に普及させるにはまだまだ時間がかかるけれど、遠征に出発する団員たちのぶんは、ストバル商会のスタッフたちが総出でしあげてくれた。


 ワッペンになっていてあとからとりつけられるため、ライアスやレオポルドの服にもつけられている。


 そしてそのことは式典でもふれられ、竜騎士団、魔術師団双方から錬金術師団へと謝辞がよせられた。


 ポーションひとつあれば助かる命がある。それがいつも手元にあるという安心感は、危険な山中ではなにものにもかえがたい。留守を守る家族の心配も減らすことができる……そういわれた。


 裏方の錬金術師団らしい仕事が、ようやくできたのかな。


 すこしづつだけど錬金術師の仕事を通して、わたしはこのエクグラシアという国と、いまいるこの世界を理解しはじめている。





 転移にそなえ、長い銀の髪をなびかせた魔術師が、大きな魔法陣の中央にすすむ。


 レオポルド・アルバーン……彼は魔導国家エクグラシアの、強さの象徴でもある。そして竜王とともにあるライアスは、決して揺るがない鉄壁の守りだ。


 王城前広場は、それ自体が巨大な転移魔法陣になっており、軍の大規模な移動時に使われるというのも、はじめてしった。


「レオポルドがひとりでやるの?」


 すぐ横にいたカーター副団長が教えてくれた。


「もともとは塔の魔術師が数人がかりでおこなっていましたが、師団長就任後はじめての出発式で、彼一人で作動させてみせ、みなの度肝をぬきましてな。それからです」


 レオポルドが黒いローブから杖を取りだした。


 魔法陣を作動させるための魔力を練りはじめる。彼の集中力が高まるにしたがって、あふれる魔力が杖を中心に光となって渦を巻く。


「あれがレオポルドの杖……」


「魔術師団長の杖は、グレン・ディアレスの作ですからな、まさしく国宝級の逸品でしょう」


「グレンの……?」


「ですな。アルバーン師団長がはじめてのぞんだ出発式で、グレンが彼と口論したときにそういっておりました」


 ウブルグもその場にいて、騒ぎを目撃したらしい。


「ほむ……グレンが『お前にその杖をあたえるのではなかった』と激昂して険悪な雰囲気になってのぅ、アーネスト陛下があわてて仲裁しておった」


「そんなことが……」


 なんだ……彼はグレンが作った杖をもっているんだ。じゃあ、わたしが杖を作る必要なんてなかった。


 目線を横にずらせば、ミストレイにまたがったライアスがこちらを見ていた。


 わたしと目が合うと彼は片手をあげて敬礼をしてきたので、わたしも軽くうなずく。


 ライアスはべつの方向にも顔をむけた。彼の視線の先を追うと、金の髪をした背の高い男性たちがいた。あれがライアスの家族だろうか。


 わたし……この世界の人たちと、どう関わっていけばいいの?


 だれかを愛するということは、この世界で生きることを受けいれるということだ。


『ネリア、生きたいと願え』


 生きたいよ、グレン。わたしだって生きていたい。


 わたしは……この世界でだれかを愛することができるだろうか。





 去年なら、ここにいたのはグレンだった。


『わしに家族はいない』


 彼は毎年どんな思いで、レイメリアが亡くなったというモリア山に出発するレオポルドを見送っていたのだろう。


 この世界にきたばかりのころ、何度も魔力暴走をおこしたわたしを、はげまして普通の生活ができるようになるまで見守ってくれた彼は……気難しいけれど冷酷な人ではなかった。


 彼はどうして、息子に背をむけたんだろう。


 彼はどうして、わたしを助けたんだろう。


 レオポルドが王城前広場に敷いてある長距離転移魔法陣に、いっきに魔素を流しこんだ。


 魔法陣全体がまばゆく光り、十体のドラゴンを従えた竜騎士たちと、総勢二十名ほどの魔術師たちがいっせいに長距離転移し姿を消した。


 魔術師団長らしいあざやかな転移に、広場全体から歓声があがった。





 出発式がおわると、オドゥがユーリに声をかけた。


「なんかずいぶんと、イチャイチャとみせつけていたじゃん」


 広場中の注目をあつめていた赤い髪の青年は、すずしい顔で返事をする。


「彼女が出発式に参加するのははじめてですし、僕がエスコートをつとめるのは当然でしょう」


「……まぁ、あれだけ王子様が独占欲丸出しではりついていたら、さすがにみな勘づくよね」


 青年は整えていた赤い髪をかきあげて形をくずすと、カーター副団長と話すネリアをみやった。


「ライアスと親しいのはただの〝ネリィ〟だ。立太子の儀のあとの夜会に、彼女をひっぱりだしますよ」


 夜会にネリア・ネリスをひっぱりだし、王太子のパートナーとして周知させる……問題は、ネリアが了承するかだ。オドゥはそんなユーリの様子をおもしろそうに眺める。


「ふうん……ライアスがだまっているかな」


 ユーリの赤い瞳が好戦的にきらめいた。秋に立太子の儀を終えれば、正式に王位継承者となる。彼の周囲もこれから騒がしくなるだろう。


「彼にだって負けるつもりはないです」


「はいはい、ユーリは負けずぎらいだねぇ」





 ユーリの〝呪い〟がとけた日、ライガの後部座席に座り、操縦するネリアと笑顔で会話をおえたとき、ミストレイにまたがったライアス・ゴールディホーンが、目を丸くしてこちらを見ているのが目にはいった。


(ようやく僕をみたな……)


 彼女には、ハッタリもごまかしも効かない。ありのままの自分で勝負するしかない。


(ライアス・ゴールディホーン……貴様にだってゆずりはしない!)


 そう、勝負はこれからだ。

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