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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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15.少し打ち解けたかな

挿絵(By みてみん)

ライアス・ミストレイ・ネリア

(絵:よろづ先生)

 ドラゴンでの二人乗りに最初は緊張したけれど、王都の話や錬金術の話をぽつぽつとしていたら、ライアスとも次第に打ち解けてきた。


「わたしが王都に行くのはグレンの死を確認して、錬金術師団長室の扉をあけるためなの」


 グレンからもらった護符は、それぞれが鍵にもなっている。ひとつはデーダスの地下にある工房の鍵だけれど、もうひとつはグレンが師団長を務めていた錬金術師団の本拠地、王城の研究棟にある師団長室を開ける鍵だ。


 グレンはわたしに全ての権限を譲ったから、研究棟で働く錬金術師たちは、困っていると思う。


(本当に突然だったものね……)


 彼の死期が近いと言っても、予定ではまだ一緒にいられるはずだった。グレンは王都の用事を済ませたら、いったんデーダスに戻り、ひと月後の〝竜王神事〟に合わせて、わたしを王都に連れて来てくれると言っていた。


『ネリア、お前が独り立ちできるよう、王都の住まいを整えておいてやろう』


 師団長室には小さな居住区がついていて、王都にいる時のグレンはそこで暮らしていると教えてくれた。わたしもそこに住まわせてくれて、その間にわたしは今後の身の振り方を考えるはずだった。


 彼の最期を看取ったら、わたしはそこをでて王都でひとり暮らしをはじめるつもりで……。


「では錬金術師団長に就任する気はないと?」


 そうライアスに聞かれて、わたしはう~ん、と考える。


「わたしが師団長って無理があると思う」


 魔術学園も出ていない、出自のはっきりしないわたしが、錬金術師団で師団長として認められるのはきっと難しい。グレンみたいに何か優れた功績を残したわけでもない。


 戸籍のように個人を証明するものもないし、わたしはこっちの人たちからすれば、突然現れた得体が知れない人間だ。


(実は異世界から来たんです、なんて言いたくないし……さっさと師団長室の鍵を開けてしまおう)


 魔術師団長のレオポルド・アルバーンに呼ばれ、竜騎士たちが迎えに来たから王城には行く。グレンには世話になったのだから、後片づけぐらいはやるつもりだった。


「そうか…… 俺はネリアが師団長に就任してもいいと思うが」


「デーダスの家は最初すごく散かってたの。師団長室もそうなんじゃないかな。だから後片づけをして、それを終えたら王都で錬金術師をやってみたいの。無理そうなら魔道具師を目指すつもり」


 グレンがいなくなった今、辺境の家でひとり暮らすのは寂しすぎる。


 彼から錬金術を学んだのはたったの二年間だけど、転移前のわたしは高校で必死に化学を勉強していた。科学雑誌を読むのも好きで、こちらに転移して魔素の扱いを覚えてからは、自分で思い通りに作れる錬金術にのめりこんだ。


(グレンは研究一筋だったし、錬金術ぐらいしかやることがなかったせいもあるけど……)


 彼の指導を受けたおかげで素材の精錬ぐらいなら、何とかやっていけるレベルだと思う。


 もしも王都で認められなかったら、メロディさんに頼んでお店に魔道具を置かせてもらい、魔道具師の資格をちゃんと取ってもいいかもしれない。


 グレンの遺品整理が終わったら師団長室を明け渡し、わたしは王都のどこかで暮らせればいい。わたしはこの時そんなふうに、簡単に考えていた。


「今後については王都に着いてから相談しよう。俺やレオポルドも力になれると思う」


「ありがとう、ライアス!」


 わたしはほっとして息を吐いた。彼はいい人そうだし、王都に味方が増えるのは心強い。


「ミストレイにはネリアの周りを流れている魔力が、光る鱗のように見えているらしい」


「鱗?」


 そう言えばわたしは自分の魔力をぴったりと身体に沿わせている。強すぎる魔力は圧になることもあって、近くの人に不快感や恐怖を与えたりするから。


 それがミストレイには、わたしの全身が鱗に覆われているように見えるのだという。


「ネリアのことを光り輝く鱗に覆われた、綺麗な雌体だと。あなたを乗せて飛べることを凄く喜んでいる」


「本当?わたしもミストレイに乗せてもらって光栄だよ!ありがとう!」


 わたしは手を伸ばして、ミストレイの青みがかった鱗を撫でた。冷たいかと思った鱗はほのかな温かみもあり、硬いけれどすべすべして触り心地がいい。


 ギュオオオゥ!


「っ!……ミストレイっ!興奮するなっ!」


 ライアスが焦ったように叫び、それから消え入りそうな声でわたしに向かってささやいた。


「その、あまり……触らないでもらえるか?」


「え?あっ、ごめんなさい」


 慌てて鱗から手を離すと、ミストレイが「ギャウ!」と不満そうな叫び声をあげる。


「頼む……我慢してくれ、ミストレイ……頼むから」


 ライアスがうなるように呟いたけど、その表情は前に座っているわたしには見えなかった。


「ごめんねミストレイ、勝手に触っちゃって」


 ミストレイは「ギュウウゥ」と鳴いて、その声はそれほど怒っているようにも聞こえなかったので、わたしはほっとした。





 竜騎士たちはミストレイに追尾して飛びながら、盛りあがっていた。


『こちらデニス。異常はないか?』


『こちらレイン。ちょっ!彼女ミストレイを撫でてる!団長が真っ赤になって止めてる!』


『こちらアベル。うわ、それはヤバい。団長の顔が見たい!クソ、なんで下なんだ』


『こちらヤーン。真っ赤になっちゃってもじもじしてる団長、かわいいな』


『こちらアベル。団長は元からかわいいぞっ!』


『こちらレイン。同感!十七歳で竜騎士団に入団した時から見守ってきたが、ほんとかわいかったよなっ!』


『こちらヤーン。だよなっ!頬を赤く染めて真剣に訓練する姿がもうかわいくてっ!』


『こちらアベル。今ではミストレイにも認められる強さだもんなぁ……ハァ……大きくなったなぁ』


『こちらデニス。お前ら……周囲にも注意を向けろ!!』


『おう!みんな!俺たちで団長の春を死守するぜ!』


『『『おおう!』』』


『……違う!……違うがもういい……』


 副官のデニスは天を仰いで、あきらめた顔で呟いた。


ミストレイと感覚を共有しているので、ライアスにとってはちっこいネリアが背中をさすさすしてる感じ。

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