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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第五章 ネリアと二人の師団長
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144.魔力暴走

ブクマ&評価、そして誤字報告ありがとうございます!

 レオポルドはその黄昏色の眼差しを、まっすぐにこちらにむけた。


 わたしの背にじわりといやな汗がにじむ。心臓の音がどくどくと激しくなって、おもわず呼吸が浅くなる。意識しないと、呼吸のしかたを忘れそうだ。空気がほしくて、肺から息をおもいきり吐きだした。


「……どうしてそんなことを……」


「不自然だからだ。よっぽどの僻地でもないかぎり、魔力持ちがそれと気づかれずに生きていくことはむずかしい。とくに大きな魔力を持つものは、その制御に苦しむことになる」


「……」


「お前が先天的な魔力の持ち主か……それとも後天的な魔力の持ち主か……それを考えたときに、お前のそばにグレンがいたという事実があれば、後者の可能性を考えるだろう」


「なるほど……わたしを観察してそう考えたのね」


 レオポルドは厳しい顔をして、わたしをにらみつけた。


「王都三師団はたがいに抑止力だ。錬金術師団が暴走したら、それをとめるのは魔術師団や竜騎士団だ……調べるのは当然だ。お前だって私を警戒しているのだろう?」


 そうだった……彼は油断のならない相手で……わたしは最初、彼をオドゥとおなじぐらい警戒していたのに。


「それと……お前の魔術は魔力の使いかたが力任せで、()()()()()()と感じることがある」


 彼は容赦なくわたしの『欠点』を突いてくる。


 わたしは魔力の使いかたが()()()()()()


 それはそうだ、この世界にくるまで魔力なんて使ったことないもの。


「お前は術式を紡いで、魔力を考えて使うことはできる。だから錬金術ができるのだろう……だが、呼吸をするようには自然に魔力を使えない……こんなふうに」


 レオポルドはすっと指先に炎を灯すと、ふっと息を吹きかけた。風で揺らいだかに見えた炎は、1匹の蝶に姿をかえ、ヒラヒラと飛んでいった。


「きれい……」


 そうだ。彼の魔法はいつ見ても()()()だった。


 グリンデルフィアレンを燃やした白い焔も、ライアスと訓練をしたときの氷や炎も氷晶も。


 なんとなく、グレンの錬金術をおもいだす。


 グレンの錬金術も、本人は散らかった部屋にすむボサボサ髪のお爺さんでも、その手が創りだすものは()()()だった。


 ソラも、きっと二人にかけられた〝契約〟も。彼は不器用だけれど、優しい人だった。だから、ユーリにかけられた術も変なことにはならなかった。


 グレン……あなたを信じていいよね?あなたを信じるように、目のまえの彼を信じてもいいだろうか?


 魔術師団長という重責を負いながら、得体のしれないわたしに、真摯にむきあってくれようとしている彼を。


 わたしは決意すると口を開いた。


「グレンは……わたしと〝星の魔力〟をつなげてくれたの」





「ネリア、お前がこの世界に定着できるように、〝星の魔力〟とお前をつなげた」


 グレンはまだ動けないでいたわたしに、そう語りかけた。


「お前はどんなことがあろうとも、『生きたい』と願え。少しでも『死にたい』とか、『この場所にいたくない』と思えば……この星とお前との『つながり』はかんたんに切れる」


 あのときは、すぐには……いわれた意味がよくわからなかった。


「だからネリア……お前は、どんなときでも『生きたい』と願え。この世界で生きていくために」


 そういう彼に、わたしはこう答えた。


(じゃあ……グレンがそばにいて『生きろ』っていってくれる?そうしたら頑張るよ……)





「〝星の魔力〟だと……バカな!」


 レオポルドが驚愕したように目をみはり、たちあがった。椅子がガターンと音をたてて倒れるほどのいきおいだ。


 レオポルドはまったく気にせず、顔をこわばらせたままわたしを見おろしている。


「レオポルド……アホ面とかバカとか……わたしをみくだす言葉にバリエーションつけなくてもいいから……」


「ちがう、そうじゃない。グレンが……〝星の魔力〟を人間につなげたなど……ありえない!」


 レオポルドは激しくかぶりをふった。


「それは禁術……〝死者の蘇生〟につかう術だ……!」


 こんどは、わたしが目をみひらく番だった。自分の耳がひろった彼の言葉を反芻する。


 いま、彼はなんていった?


 禁術!?


 シシャノソセイ……なにそれ……グレンは何をしたの!?


「ネリア……お前は……」


 レオポルドが信じられないものを見るような目つきで、わたしを見ている。


「お前は……まさか……」


 ちがう!


 やめて、そんな目で見ないで!


「……じゃあなに? わたしが〝死者〟だ、とでもいいたいの?」


 いい返した自分の声はふるえていた。気がついたときにはグレンがわたしのそばにいた。でも事故の記憶自体はうろおぼえで……。


 どうして?


 こっちの世界にきたとき、わたし、生きてた? それとも……。


「ネリア、お前がこの世界に定着できるように、星の魔力とお前をつなげた」


 それって……どういう意味だった?


「お前はどんなことがあろうとも、『生きたい』と願え」


 どうして、それを願わなきゃならない?


「この星とお前とのつながりはかんたんに切れる」


 つながりが切れたら、どうなる?


 やめて、知りたくない!


「……おいっ、しっかりしろ!」


 だれかのあわてたような声がすぐそばで聞こえたけれど、もうそのときには遅かった。


 わたしの体のなかで魔力があばれだす。魔素の流れがせきとめることのできない濁流となり、いまにも体を内側から破ろうとしている。


(もういやだ……こんなところ、いたくない! )


「ネリア、きみに移りゆく王都の季節をみせるのが楽しみだ」


(ごめんなさい、ごめんなさい……ライアス! )


「お前はどんなことがあろうとも、『生きたい』と願え」


(グレン……それはどうして? )


 グレンに聞きたい。グレンに会いたい。けれど彼はもう……絶望とともに、わたしの視界が緑色に染まった。





 この世界にたどりついたとき、バス事故に巻きこまれたわたしの体は、いろいろなものを失っていた。


 わたしの瞳はペリドットという黄緑の石から作られている……と、グレンはいった。デーダス荒野のちかくで採れる、その土地の魔力に親和性のたかい石だそうだ。


 そのため、わたしの瞳が視えるようになったばかりのころ、世界はペリドットを通した光で緑色に色づいていた。


 ふだんは視神経がひろった情報を脳内で映像化するさいに、もうひとつ術式を挟むことで、ふつうの色に変換して視えているのだけど……。


 わたしの体はいま魔力暴走を起こしかけていて、その術式がうまく働かない。瞳がひろう緑色の映像が、脳内にそのまま流れこむ。よくない兆候だ。暴走を……とめなければ。グレンはどこ?


 いつも魔力暴走を起こしたときは、グレンがとめてくれていたのに。わたしのそばにいて「生きろ」といってくれていたのに。


 ああ、でももう何もかもがどうでもいい……だって、グレンはもういないんだもの。


 力を失ったわたしの体はその場でくずれおち、それをだれかの腕が抱きあげる。

挿絵(By みてみん)

「ソラ、ネリアが倒れた!」


 わたしを抱きあげる、この人はだれ?


「魔力暴走を起こしかけている! 居住区でやすませる!」


「魔力暴走……!? でもなんの変化も……」


 女性の声が頭にひびく……たしかヌー……だれだっけ?


「全部、体の内側にむかっている。このままでは体がもたない……魔力暴走の薬なら魔術師団の師団長室に常備してある。私が取ってくる!」


「どうしてこんなことに!? レオポルド、お前なにした!」


「オドゥ、あとだ! とにかく薬を飲ませるのが先だ!」


「いそいでください!」


 緑色に染まる視界……わんわんとひびく声……油断すると、なにもない暗い宇宙の底へ吸いこまれそう……静かなところにいきたい、こんなところにもういたくない……もっと静かなところへ……。


「薬を……飲めっ!」


 せっかく静かになったのに、すぐそばでだれかの怒鳴り声がする。うるさいなぁ……もう、放っておいて!


 わたしはだれかの腕をふりはらった。静かにして……そっとしておいて!


 そうすればわたしはここではない、どこかに行ける。もっと静かなところへ……。


「このっ……!」


 わたしの唇はなにかに塞がれ、薬がのどの奥に注ぎこまれた。それと同時にわたしのなかで暴れる魔力を抑えこむように、抱きしめるようにしてなにか大きな魔力に包みこまれる。


 こくり、とわたしの喉が動き……薬を飲みくだした。そのまま全身の力がぬけていき、わたしは意識を失った。

ありがとうございました!

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