14.ミストレイの背に乗って
【竜騎士たち】
総勢二十名ほど。物語に出てくるライアス以外の竜騎士は五人です。
コミカライズで初めてキャラクターデザインされる彼らを、私もよろづ先生も楽しみにしています。
デニス・エンブレム……緑髪の前竜騎士団長。現在は副官。妻子持ち。
レイン……紺色の髪。アマリリスに乗るベテラン竜騎士。妻子持ち。
ヤーン……茶髪。くだけた性格。ライアスよりふたつ年上。
アベル……水色の髪。ヤーンのツッコミ役。シュッとしたイケメン。ライアスよりふたつ年上。
ベンジャミン……新人竜騎士(そのうち出てきます)
コミカライズ決定お祝いイラスト(絵:よろづ先生)
『ドラゴンは飛翔に風の魔力を用いる、だから大きな巨体でも自由自在に大空を駆けることができる』
デーダス荒野の一軒家、暖炉の前でわたしはクッションを抱えてグレンの話を聞き、彼は安楽椅子を揺らしながらそんな話をしてくれた。
それからわたしはガタガタと、デーダスのあばら家を揺らす風の音に耳を澄ませた。
竜王がその翼を大きく広げると、力強い羽ばたきひとつで魔素を帯びた風が巻き起こり、広場の周りで見物していた人たちは慌てて、自分の帽子や服を押さえていた。
あっ、風圧で屋台ひっくり返ってる。大丈夫かな?
ミストレイの背から地上に向かって手を振ると、みんなも歓声をあげて手を振り返してくれた。
ドラゴン大人気だね、そうだね圧巻だよね……まさしく大空の覇者。もしもあっちの世界でブルーインパルスが空を飛んでいたら、わたしだって歓声をあげるもの。きっとそれぐらいの感動。
浮かび上がったミストレイたち三体に、上空の二体も合流して竜王を中心に左右に展開する。
「空を飛んでいた白竜は、魔導列車についてきたドラゴンですよね」
ライアスが教えてくれた。
「ああ。どちらも俺よりふたつ年上の、竜騎士が騎乗している。茶髪のヤーンが乗るのがクレマチス、水色の髪をしたアベルが乗るのがリンデリカだ」
紺色の髪をしたベテラン竜騎士のレインが乗るアマリリスと、ヤーンのクレマチスがミストレイの上を飛び、緑髪の副官デニスが乗るツキミツレと、アベルのリンデルカが下を飛んだ。
ドラゴンたちがきちんと隊列を組み、大空を飛翔するさまは圧巻で……うわぁ、わたし本当に護衛されているんだ。
わたしとライアスが乗るミストレイを中心に、ドラゴンたちはぐんぐんと空を上っていく。
見下ろせば人々がどんどん小さくなり、赤レンガ作りのウレグ駅の周りに広がる街並みは、まるで模型を見ているみたい。それすらあっという間に、後方の点になった。
わたしがさっきまで乗っていた魔導列車も、見えたと思ったらあっさりと追い越してしまう。速い。スピードは速いけれど、ドラゴンが持つ風の守護のおかげで、感じる風圧は心地いいそよ風が髪を揺らす程度。
眼下には民家がぽつりぽつりと点在する、田園地帯が広がっている。ウレグ郊外の田園地帯を抜けて、マール川を渡ればすぐに王都シャングリラだ。
わたしが読んだ本に、王都は高い城壁に囲まれた巨大な都市だと書いてあった。マール川の支流が王都に流れこみ、船を使った輸送も盛んらしい。
(魔導列車からの王都も見てみたかったな……)
ドラゴンの背に乗れるなんて貴重な体験だけれど、魔導列車を降りてしまったのがちょっとだけ残念。車窓からみる王都はすごい迫力だろうと、楽しみにしていたから。
高度を上げたドラゴンの背から、遠くの山並みがキレイに見える。雲が落とす影がゆっくりと田園を移動していく。
「苦しくはないか?」
景色に夢中になっていたら、ライアスの少しかすれた声が頭の上から降ってきた。
彼の吐息が髪を揺らし……うわぁ……意識すると距離が、距離が近すぎる。背中が胸板にあたる。うん、びくともせず抜群の安定感だね。
「だいじょうぶ、空をだれかと一緒に飛ぶのって楽しいです!ミストレイの乗り心地も最高だし!」
ホント、楽しい。ミストレイの背中は広くてゆったりしている。
それに飛行も安定していて、もしかしたらすごく気を遣って飛んでくれているんじゃないかな。
ライガに乗るのと違って、ひとりじゃない。一緒にこの素晴らしい景色をともに見てくれる人がいる。
(同じ体験を共有できる相手がいるって、いいな……)
いつかライガに乗って、ドラゴンと一緒に空を飛んでみたい。ミストレイと追いかけっこしたら楽しそうだけど……飛んでくれるかな?
気になってライアスを振り返ると、目が合ったライアスはとろりと微笑んだ。
「楽しんでくれてよかった」
(うわぁ、まぶしい。至近距離のイケメンの笑顔がまぶしすぎるよ!)
急に心臓がドキドキして、わたしは慌てて顔を戻す。赤くなった顔が見られませんように。
「ありがとうございます、ライアスさん」
「ライアスでいい、団長同士なのだし。俺も『ネリア』と呼ばせてもらっても?」
「はい、ライアス」
わたしとライアスは再び目を合わせて、ほほえみ合った。
竜騎士たちはミストレイに追尾して飛びながら、こんなやり取りをしていた。
『こちらレイン。さっきから団長の百面相が面白くてしかたない』
『こちらヤーン。おい、どうなってる?あの団長が甘々なとろけるような笑みを見せるとか!あり得ないだろ!』
『こちらアベル。遮音障壁なんか展開しちゃって、何話してんだかねぇ』
『こちらデニス。おかげで俺たちがこうやって会話できているんだ。団長に聴こえてたら間違いなく殺されるぞ』
『こちらレイン。今度は見つめ合っちゃってるよ!あっ!彼女赤くなった!』
『こちらヤーン。脈ありか⁉︎脈ありなのか⁉︎』
『こちらアベル。俺は今猛烈に感動している!団長にもついに春が!』
『こちらレイン、ちょっ、アマリリス!落ち着けって!』
『こちらデニス。お前ら全っ員!落ち着け‼︎今は任務中だ‼︎』
『『『これが落ち着けるかよっ!』』』
『…………』
登場人物紹介・キャラクター詳細設定等。
書籍やコミカライズでも使用したキャラクターシート、設定を元にしています。
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