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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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13.団長が面白いことになっている(デニス視点)

挿絵(By みてみん)

8巻表紙。9巻の表紙はオドゥ・イグネルです。

(絵:よろづ先生)

「なぁデニス、ちょっといいか?」


 ウレグ駅を出発する準備をしていたら、レインが話しかけてきて、俺たちのまわりに遮音障壁を展開した。


「ミストレイの様子がおかしいもんだから、アマリリスの機嫌が急降下してるんだが」


 俺はミストレイを見上げたが、翼を畳んだ竜王は微動だにせず、悠然と佇んでいる。ふだんと変わりない、威風堂々たる王者の貫禄だ。


 一方レインの騎竜アマリリスは落ち着きなく、イライラしたように翼を震わせている。


「ミストレイのようすはふだんと変わりないようだが?俺のツキミツレは何も感じてないぞ?」


 俺たち竜騎士に必須のスキルとして、〝感覚共有〟というものがある。


 自分の騎竜であるドラゴンと感覚を共有するのだ。これを覚えないと竜騎士団に入団して見習いとなっても、竜騎士になることはできない。


 ドラゴンが乱れ飛ぶ激しい空中戦の最中、「スピードを落とせ」「右へ退避」などと頭で考えながら操作しているヒマはない。


 感覚共有があるおかげで、俺たち竜騎士は勘のいいドラゴンが察知した異変に、すぐ気づくことができる。


 負傷したときもお互いわかりやすいし、細かい指示をださなくとも、ドラゴンがこちらの意思を読みとり、機敏に動いてくれる。


 竜騎士とドラゴンが一心同体となって戦うために、必須のスキルとなっている。


 だがこの〝感覚共有〟というスキル、ドラゴンが持つ好悪の感情もダイレクトに竜騎士へ伝わる。


 人間は絶対食べないような、ドラゴンの好物の魔獣がおいしそうに見えてしまうことも。


 それだけでなくドラゴンが人間に抱く、『好き』『嫌い』の感覚も共有してしまうのだ。


『竜騎士の縁はドラゴンが結ぶ』と言われることがある。


 ドラゴンが嫌う女の臭いを感じとると、その竜騎士は騎乗を拒否されるだけでなく、ドラゴンの持つ『うわ、嫌だなぁ』といった感覚も、自分のものとして感じ、相手とうまくいかなくなる。


 反対に自分の騎竜が相手を気にいると、竜騎士までもがその女性を好きになってしまうことがあるのだ。


 例えばレインは竜騎士としてもベテランの妻子持ちだが、彼の馴れ初めはきヤツの騎竜アマリリスがきっかけだった。


 相手はドラゴンの餌を納入する業者の娘で、竜舎に出入りするついでに、アマリリスにオヤツをあげていたらしい。


 レイン自身は最初、何とも思わなかったらしいが、彼女がやってくるとアマリリスから『嬉しい』『美味しい』『幸せ』という感情が、伝わってきてしまう。


(あの子がくるたびに、俺まで幸せな気分になるんだが……なんで?)


 それで意識するようになり、会話をするようになっていつのまにか、性格もよくて働き者なその子のことを、レインも好きになってしまっていた。


 人と共存しているとはいえ、神経質でプライドが高いドラゴンには簡単には近づけないし、ドラゴンが竜騎士以外に懐くことは珍しい。人間には分からない相性があるのかもしれない。


「アマリリスとウチのカミさんは仲がいいからさ。最近、アマリリスが夫婦ゲンカの仲裁をしてくれるんだよ」


「ほぉ」


 それとミストレイとなんの関係が?


「ほら、男ってカミさんが何に腹立ててるか、わからない時あるだろ?ドラゴンは言葉を話さないから、具体的なことを教えてくれないけど……カミさんが感じてるらしい『感情』を、『感覚』として俺に伝えてくれるんだよ」


「それは凄いな」


 アマリリスとレインの付き合いは十年以上になる。それだけ長ければ感覚共有も磨かれるのか。俺が感心しているとレインは、ミストレイをちらりと見上げて続けた。


「そこでだ。いいか、ドラゴンは言葉をしゃべらない。あくまで俺に伝わってくる、今のアマリリスの『感覚』を、俺なりに翻訳した『ぼやき』だと思ってくれ」


 そう言ってレインが伝えてきた内容に、俺は自分の耳を疑った。


(もーっ!ミストレイ様ったら最悪!早くあの子を乗せたいからってソワソワしちゃって!『鱗も撫でてほしい』とか、なぁにが『鼻先も撫でてくれないかな、匂い思いっきり嗅きたい』よっ!あああ!『もうお腹なでて欲しい』とか思ってるぅう!強くて格好よくて憧れだったのにぃ!ミストレイ様に幻滅よ!幻っ滅っ!キィイイイイ!)


「え?今のは……?」


 思わず確認すると、レインは渋い顔で念を押す。


「だから俺に伝わってくる、アマリリスがミストレイに幻滅している『感覚』だ」


 俺はミストレイを見上げたが、翼を畳んだ竜王は微動だにせず、悠然と佇んでいる。ふだんと変わりない、威風堂々たる王者の貫禄だ。


「え?嘘だろ?」


 あの誇り高いうえに気難しいミストレイが?


 竜騎士団でも最強と認められた者にしか騎乗を許さない、『竜王』と呼ばれる蒼竜が?


 早くあの子を乗せたい?


 鱗撫でてほしい?


 鼻先とか腹とか撫で……?


 俺自身、ライアスの前に団長を務めたときは手を焼いたものだ。そのミストレイが……。


「は、腹っ!腹だとっ⁉︎あり得ないっ!」


 俺が全力で否定すると、遮音障壁を展開しているにも関わらず、レインはさらに声を潜めた。


「俺だって信じられん。だがアマリリスを信じるなら、ミストレイはネリア嬢をものすごく気にいっている」


 俺は思わず自分の騎竜であるツキミツレを見た。ツキミツレはミストレイと違い、のんびりのほほんとした性格で、俺にはその感覚が伝わってくる。


 え?なにその(しょうがないよねぇ)みたいな感覚。(生温かい目で見守ろうぜぇ)って……えっ?そうなの?


「で、俺が気にしているのは、ミストレイの感情が団長にどこまで伝わっているかなんだが」


 レインが困ったように、俺に相談してくる。


「団長に?いまのところ団長はふだん通りだが……」


 むしろさっきはオドゥ・イグネルとかいう、錬金術師のほうがグイグイいっていた。


 なにしろドラゴンと竜騎士は、必ずしも同じ相手を気にいるわけじゃない。


 選んだ女とドラゴンのソリが合わなければ、騎竜を取り替えたり、騎士団を抜けるヤツだっている。


 さすがに竜王を取り替えるわけにはいかないから、団長はそのままミストレイに乗り続けるだろうが。


 ライアスは昨年二十二歳で竜王戦を制し、団長に就任したとたん、その見目麗しさから物凄くモテだした。何しろ顔が良い、しかも性格も生真面目で温厚だ。竜騎士団最強でなければ団長にはなれないから、その強さも申し分ない。


 騎士団長に就任したては、彼目当ての令嬢たちが騎士団の訓練場にまで、わんさか押しかけたため、ブチ切れたミストレイが〝竜の咆哮〟で彼女らを気絶させる事件もあったぐらいだ。


 それほどモテるのに浮かれるどころか、生真面目なライアスは竜騎士団の職務を第一に考え、令嬢たちにも丁寧に対応していた。


 舞踏会でも礼儀正しく穏やかな笑みを浮かべ、彼女たちのお相手をきっちり一曲ずつ務める。


 決して深入りはしないが、その誠実さが逆に好評なようで、舞踏会終了までダンス相手には事欠かないほど、令嬢たちは列をなしていた。





「まぁ、一応報告したからな」


 そう言ってレインが遮音障壁を消したので、俺は出発の準備をするために、団長たちのところへ向かう。


 小柄なネリア嬢は夢中になって、ドラゴンたちに見入っている。それどころかミストレイの鼻まで撫でて、俺は彼女が竜王の鼻息に吹き飛ばされないか心配になったが……ミストレイは怒りもせず、おとなしくしていた。


 団長までも不思議そうな顔をして、自分の鼻をさわっている。ドラゴンに人がさわると、そのサイズ感の違いからか、竜騎士には小人がまとわりついているように感じる。


 まぁ、ちょっと面白い感覚なんだ。


 その後ミストレイに乗る際に、何を間違えたのかネリア嬢は爽やかな笑顔でハッキリ言った。


「じゃあ、ライアスさんには抱いてほしいです」


 言ってから慌てている彼女に、素知らぬフリで大人の対応をしようとしたのだが。


 団長がみるみる耳まで真っ赤になっていく。


(これは)


(間違いなく伝わってるな)


 俺とレインは無言で視線を交わし、たがいに確信した。


 うちの団長が面白いことになっている……と。


感覚共有は「実際に生身の人間がドラゴンに乗って、例えば300メートル上空を飛ぶとか、けっこう大変なんじゃ……」と考えているうちに思いつきました。

副団長のデニス・エンブレムは前任の団長です。

「肩の荷が下りた」と補佐役を楽しんでます。

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