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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
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105.リーダーの指名(ユーリ視点)

体は子ども(中学生程度)、頭脳は大人のユーリです。

 時を少しもどして師団長会議当日の朝、出勤してきたクオード・カーター副団長は、僕、ユーリ・ドラビスの見ている前で、ネリアにものすごい形相でうったえた。


「ネリス師団長に、パパロッチェンを飲ませたことは反省しました……なので、娘を刺客として送りこむのだけは……やめていただきたい!」


「刺客でもいやがらせでもないから!それにメレッタが持ってったの、ポーションだよね⁉……茶色だったけど」


「師団長は、あれがポーションだとでもいうつもりですかっ!」


「ちがうのっ⁉」


 そんなやりとりのあと、錬金術師団のみなで囲む朝食は平和そのもので。きょうはいつもヌーメリアに話しかけるテルジオがいないから、朝食のテーブルは静かだ。


「あぁ……なんか朝ごはんが平和……」


 ネリアはうっとりと口をもぐもぐ動かしている。彼女がおいしそうになにかを食べている姿は、小動物みたいでかわいくて、みているこっちもなんだか楽しくなる。


 けさの朝食は、ピュラルのしぼり汁を使ったオランデーズソース(と、ネリアがいってた)をかけた、エッグベネディクトというやつらしい。卵にかかったソースの塩気で味のバランスがいいうえに、腹持ちもよさそうだ。


 僕はソラにコーヒーをたのむ。


「ソラ、僕のお茶はコーヒーにかえてくれるかな?頭をスッキリさせたくてね」


「ただいまお持ちします」


 夏の日差しはまぶしいけれど、朝のうちは木かげがすずしい。コランテトラの葉が優しい風にそよぎ、早朝にソラが水まきしたなごりの雫が、足元にブルーの花を咲かせるバーデリヤの上でキラキラと光っている。


 きょうもいい一日になりそうだ。


「ごちそうさま!じゃあ支度したらでかけるから、ソラ、魔法陣描いた巻紙もってきてね!」


「かしこまりました」


 すこしして錬金術師団の特徴的な白いローブを羽織って居住区からもどってきたネリアは、ソラから巻紙を受けとると笑顔でこちらに手をふり、仮面をつけて師団長会議がおこなわれる小会議室に転移していった。


「ありがとうソラ!じゃあユーリ、がんばってね!」


「いってらっしゃい」


 ネリアを見送ってから、オドゥは眼鏡のブリッジに手をかけると、人のよさそうな笑みをうかべた。


「今日はユーリひとりなんだ?ふぅん……手伝ってあげようか?」


 僕は、コーヒーの香りを楽しみながらこたえる。


「けっこうです。一切手出し無用……というか邪魔をしないでください、オドゥ」


 学園生たちは全員が錬金術師以外を志望している。


 ネリアは彼らのうちのだれかが、錬金術師団に入団することを望んでいる。正直、使いものになりそうなのは……。


「オドゥはきのうの生徒たちをみて、だれがモノになりそうだと思いましたか?」


「そうだねぇ……僕は提出された課題を見ていないから、きのうの様子だけでグレンが錬金術師として認めるとしたらって考えると……」


 オドゥは一瞬空を見上げてから、視線をもどす。


「ーーーーかな」


「……ネリアもおなじ意見でした」


「そう?やっぱり?僕たち通じあっちゃってるよねぇ!」


「……それはちがうと思います」


 どちらにせよウブルグがぬけた穴を埋める、錬金術師が必要だ。


 ……ネリアがのぞむ結果を得るためには……。


 僕が無意識に自分の髪をかき上げると、オドゥが眼鏡の奥にある深緑の目をほそめた。


「おやぁ?弟くんを泣かすつもり?」


 面白がっているらしいオドゥをじろりとにらんでから、僕は椅子から立ちあがった。


「……僕は弟がたいせつですし、かわいがっていますよ。さて、僕も学園生たちを迎える準備をしないと」


 そう、僕は弟がたいせつだ。







 きのうの僕は、部屋のすみにひっそりと座り、提出された課題であるライガの改良案を読んでいた。まともに会話を交わしたのは、レナード・パロウぐらいだ。


 工房にはいると、六対の目が僕に集中する。


 手足が細くまだ華奢な骨格、十四、五歳の少年にしかみえず、弟のカディアンよりも頭ひとつぶん低い背……あたまのなかでは僕のことをエクグラシアの第一王子とわかっていても、みなとまどいを隠せないようだ。


 逆ならば。父ゆずりの精悍な面差しで立派な体格のカディアンが兄で、母ゆずりといわれる優しげな顔だちの華奢な体格の僕が弟ならば、自然なのに。彼らはふだん学園でカディアンと接しているぶん、僕にたいする違和感も強いのだろう。


 とはいえ、生まれたときから人の注目にさらされ続けている僕には、六人ぐらいの視線などどうってことはない。ただ、これからの僕の言動はすべて、彼らの目をとおして彼らの家にもつたわると覚悟しなくては。


「おはよう諸君。ネリス師団長からライガの改良をまかされている、ユーリ・ドラビスだ。きょう一日よろしくたのむ」


 アイリ・ヒルシュタッフが手をあげて質問した。


「あの、ネリス師団長は……?」


「きょうは師団長会議に出席するため、不在だ」


 それをきいて、なぜか彼女はホッとしたような顔をした。







「まず最初に、自分たちの考えてきた改良案をそれぞれ発表してもらう。それから、今回の職業体験のリーダーをきめる。そのあとはリーダーを中心にディスカッションをおこなっていく……魔術学園でもよくやっているやりかただ。でははじめて」


 さすがに魔術学園五年生ともなると、その発表のしかたも堂々としたものだ。


 レナード・パロウは、術式からライガが飛ぶのに必要な機構の部分をぬきだし、さらに魔力を大量に消費している部分をわりだし、その魔力をおぎなうために魔石の活用を提案していた。


 カディアンのは、ライガのスピードや機動性など、ネリアが操縦するときには魅力的にみえた部分をあえて削ることで、ライガの安全性をたかめつつ消費魔力もおさえる……という内容だった。


 アイリ・ヒルシュタッフは筐体をかるくするために素材を検討し、その種類や産地だけでなく、値段や毎年の採取量までしらべ、原価計算ができるようにしてある。これは実際に製作するときに役だつだろう。


 ニック・ミメットは竜騎士志望だけあって、風をあつかう魔法が得意なようで、飛行中のライガにうまく滑空状態をつくり、消費魔力をおさえるくふうをしていた。


 グラコス・ロゲンは術式を実行するうえでひっかかるであろう部分をぬきだし、そこの術式を改良していくよう提案していた。ただし具体的な改良案はださなかった。魔道具の駆動系のしくみがよくわかっていないようだ。


「グラコス、きみは学園の図書館にある【魔道具大全】を、きちんと読みなおしたほうがいいな」


 そういうと、グラコスの大きな背が若干ちいさくなった。


 メレッタの発表はメチャクチャだった。


『ライガの飛行プラン』と題し、『初速度から最高速度』『宙返り』『ひねりは三回』などの運動を命令する術式がつぎつぎに発表される。もっとも、それらの術式がうまく作動するかは、実際に描いてみないとわからない。


「メレッタ、きみのは曲乗りの術式ばかりだけど……」


「はい!わたしはネリス師団長みたいにライガの操縦になれていないので、ライガの動きも術式でセットできたらなって思いました!」


 レナードがいらいらした顔でツッコむ。


「『運動』の術式だけじゃ、ダメだろ!ほかの術式は考えていないのか?」


「あるわよ!体を座席に固定する『安全対策』の術式!ほらここ!眼鏡はずしてよくみなさいよ!」


「そうじゃなくて!どうやってライガを飛ばすんだよ!」


 メレッタは、けろりといった。


「私、ライガは『飛ぶもの』だとおもっているから」


「はあ⁉」


「だって私、きのうなんどもネリス師団長と一緒に飛んだもの!私の頭のなかには、ライガは自由自在に空を飛ぶイメージしかないの!」


「でも、実際にライガをすんなり飛ばすのはたいへんじゃないか!もういい、メレッタ!お前はすこし黙ってろ!」


 メレッタはまだなにかいいたそうだったが、レナードにそういわれて黙りこんだ。


 僕は立ち上がると、全員の顔をみまわす。


「それでは、今回の職業体験で、みなのまとめ役となるリーダーを指名する」


 それを聞いて、レナードが背筋をすっとのばした。カディアンもぐっと拳を握りしめる。






「リーダーは、メレッタ・カーターだ」

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