103.師団長会議で打ちあわせ
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おっしゃあ!座標バッチリ!
小会議室に転移魔法で跳んだわたしは、狙いどおりの場所に跳べておもわずガッツポーズをした。
「ネリス師団長?なんだその舞は」
「舞ではありません!決めポーズです!」
「きめ……?」
けげんな顔でたずねてきたアーネスト陛下に説明したが、さらに分からないという顔をされた。
あれ?この説明でつたわらない?……と考えて、はたと気づいた!
エクグラシアに戦隊ヒーローって……いなかったよ!
ライアス・ゴールドとか、レオポルド・シルバーとかどうかな?そうすると、ヒーローポジションはユーリ・レッドで決まりだ!
……なんだか、ギラギラしているというか、綺羅綺羅しすぎる。やっぱり戦隊ヒーローはクレヨン的配色のほうがいいかもしれない。
「ネリア、ウブルグのために『海洋生物研究所』への長距離転移魔法陣をあらたに敷くそうだな」
ライアスはにこにこしているが、遠征をひかえて訓練の激しさが増しているせいか、顔の輪郭がシャープになっている。
「……お前は、転移陣を使ってもさわがしいな」
人の顔をみれば文句をいうレオポルドも、相変わらずだ。
先日、『塔』に跳んだときはすごく静かだったし、そのあと状況確認に研究棟を訪れたのは、レオポルドではなく、メイナード・バルマ魔術師団副団長と、団長補佐のマリス女史だった。
レオポルドは具合でも悪いんじゃないか……と心配したけれど、ちがった。
わたしは、どうやらエクグラシアの誇る魔術師団の本拠地、『塔』の魔法結界を転移により一瞬で破壊してしまったらしい。
らしい、というのも……全然、わたしは気づかなかった!そういえば魔法結界があるってまえに聞いたよね……なんで転移できたんだろうね?
そうきくと、バルマ副団長は青い顔をしたまま、説明してくれた。
それは、転移魔法陣を構成する古代文様のオヴァル『すべてをこえて』に魔力を流し、エレスで実行してしまったために、おこった事故らしい。え?それだれでもやってるよね?……はぁ、わたしがやったからですか、そうですか……。
「すわ、テロか⁉……と、全身の毛が総毛立ちましたが……そうですか、うちのアルバーン師団長に会いにきただけ、ですか……」
すとーんと、表情が抜けおちてしまったかのような顔で、バルマ副団長がつぶやく。先日みせた愛想のよさはどこかに忘れてしまったらしい。
「ええとですね、転移魔法が使えるようになった喜びをですね、だれかと分かちあいたくて……」
「たまたま、うちのアルバーン師団長の顔が思いうかんだと……」
「まぁ、そういうことになりますね……それと、ライガで窓から飛びこむなと、なんども注意されていたので」
バルマ副団長はがくっと、肩を落とした、
「……ライガのほうが、まだマシでした……」
古代文様というのは日常生活に深く根ざしていて、おまもりの意匠などにもひろく使われており、単純化した図式のため、魔力に反応しやすいとのこと。
『塔』の魔法結界は、魔力による干渉をふせぐためのものだから、魔法攻撃をふせぐだけでなく魔術による転移もはじくことができる。転移できるのは、あらかじめ登録された魔術師など、関係者だけだ。
そして突然の転移に、魔法結界は仕事をしようとしたらしい。わたしの転移をはばもうとして、単純に力負けした。
わたしは甲子園の砂をすくう高校球児たちを思いだす。頑張ったんだな、魔法結界……そして力つきた……。わたしが魔法結界にたいし、敗者にあたたかいエールを送る気分でしんみりしていると、顔色が青から白に変わったバルマ副団長が教えてくれた。
「魔法結界を再構築するのに、『塔』の魔術師たち全員で、作業が夜中までかかります。アルバーン師団長も現在、その対応におわれています」
はい?
魔法結界を再構築するのに、『塔』の魔術師たち全員で、作業が夜中まで……?
バルマ副団長も、マリス女史も、冗談をいう雰囲気ではない。
……。
……うわぁあああ!
……やっちまったああああ‼︎
そのあと蒼白な顔をしたバルマ副団長に、いかに魔法結界が重要なはたらきをしているか、日々のメンテナンスにもどれだけ魔術師たちが労力と魔力をさいているか、しずかな声でえんえんと長時間かけて説明された。
「まことにもうしわけございません……」
正直、レオポルドに怒鳴られるよりキツかった……。
「いいですかネリス師団長!うちのアルバーン師団長にお会いになりたいときは、たとえ本人が断っても私が予定を調整いたしますので!『エンツ』をおねがいしますっ!」
マリス女史にはそう詰めよられ、なかば強制的に『エンツ』先の交換もさせられた。それからマリス女史は、毎日のようにエンツをくれるようになった。
「本日の師団長は眉間のシワが深いです。接近、ご注意ねがいます」
「本日の師団長は比較的こころおだやかなようです。交渉事にはむいた日でしょう」
いわばレオポルド版『気象情報』だ。これには、ほんとうに助かっている。
わたしは『用心深さ』をおぼえた!
そう、なるべく『塔』に近寄らず、『レオポルド注意報』を警戒し機嫌をそこねないようにふるまえば、わたしも『塔』の魔術師たちも、平穏な日々を過ごせる。
結果としてわたしは、対レオポルド対策を熟知しているマリス女史と、協力関係を築くことに成功した!『塔』の魔法結界を壊してしまったのはもうしわけなかったけれど、魔術師団とのやりとりは師団長のレオポルドを介してやるよりも、格段にやりやすくなった。
そうしてしばらく、マリス女史越しに『エンツ』を介したやりとりを続けながら、レオポルドと交渉した結果。
今日は師団長会議のついでに、『海洋生物研究所』への魔法陣を紙に描いたものを、みてもらえることになっている。
グレンが敷いた師団長室の居住区からデーダスまでの固定移動魔法陣を参考に、わたしが必死に考えたものだ。
こうやって事前に内容をつめておけば、レオポルドに『研究棟』まできてもらうのは、魔法陣を実際に敷くときだけですむし、いそがしい彼にもそれほど負担にならないだろう。
かなり大きな魔法陣のため、もちこんだ紙もそれなりの大きさだ。レオポルドはわたしの持っている巻紙に目をやった。
「持ってきたか……まずは、お前が考えた術式をみせてみろ」
「ええと、グレンがデーダスの家との行き来に使っていた魔法陣を参考にしたんだけど……」
わたしは描いた魔法陣を、小会議室の机にひろげた。いわば固定魔法陣の設計図のようなものだ。アーネスト陛下やライアスものぞきこむ。レオポルドは紙に目をおとすと、魔法陣を指でなぞりながら眉をよせた。
「これは……」
「どうかな?ふつうの転移魔法陣とあまりに形がちがうんで、自信がないんだけど……」
きっとダメだしされるんだろうな……。レオポルドはけわしい顔のまま、無言で魔法陣を見つめている。長い銀色のまつ毛が黄昏色の瞳に影をつくり、その眉間によせられたシワは深い。
「お前……これを、『転移魔法陣』だと思っていたのか?」
「うん。……って、そうじゃないの?」
「俺も仕事柄、長距離移動の魔法陣を使うことはあるが……ずいぶん形がちがうぞ?」
ライアスが首をひねっている。そうなの?アーネスト陛下も難しい顔をしている。
「ずいぶんと、制限のおおい魔法陣だな。この形はおそらく……そうだろう?レオポルド」
グレンが王都の師団長室とデーダス荒野の家との行き来に使っていた魔法陣。転移魔法陣じゃなかったら、なんだというのだ。レオポルドはいった。
「これは……転移の機能ももたせてはいるが、転移陣というよりむしろ……ゴブリン金庫の魔法陣にちかい」
「ゴブリン金庫?二番街にあるとかいう?……それって、どんなの?」
「……中のものを封じ、なおかつ勝手に持ちだされないように、はいる者をきびしく制限する、『封印』の魔法陣だ……お前、もしかして封印されてたのか?」
「なんでよっ!」
「いや、お前ならありうるだろう!」
「真面目にいってんの⁉ひとをなんだと思ってるの!」
そして、レオポルドは大真面目だった。わたしがなにしたっていうの!
それはもう、いろいろやらかしてます。
ネリアは、レオポルドがマリス女史から「いいですか?対・ネリアさん対策については私が万全を期しますが、最終防衛線は師団長、あなたですからね!」と、念を押されている事を知らない。












