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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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101.五年生たち

ブクマ&評価ありがとうございます!

「ネリス師団長、できました」


 ラベンダー色の髪をハーフアップにしたアイリ・ヒルシュタッフが、できあがったポーションをわたしのところに持ってくる。


「見せて……うん、いいね」


 するとアイリは紅色の瞳でまっすぐに、わたしを見て訴えてきた。


「ありがとうございます。私は魔術師を目指していて、ポーションの作成はひと通りできます。私の腕に納得されたのでしたら、他のことがやりたいです」


「ほかのこと?ライガの改良以外に何か?」


「はい。できればヌーメリア・リコリスから直接、毒について学びたいです」


「毒について?まさかアイリも毒マニアなの?」


 美少女の口から飛びでた言葉に、わたしは思わずまばたきをした。


「第一王子殿下が六年前に毒を受けたとき、毒の特定から解毒までを、リコリス女史がされたとか。注意すべき毒の特徴や判別法、解毒方法など……学びたいことはたくさんあります」


「ユーリ、それ本当?」


 わたしが確認すると、彼はうなずいた。


「本当ですよ。だから王家は彼女に恩があるんです。なかなか返させてくれませんでしたけどね」


「そんなことがあったんだ……ヌーメリアにとっては、あたりまえのことをしただけだよね」


「そうですね。彼女は研究棟で平穏にすごすことを望んでいました。アイリ・ヒルシュタッフ、ネリス師団長はライガの改良を課題と決めた。職業体験の内容を逸脱することは認められない」


 ユーリは手に持っていた術式の束を机に置き、アイリを注意した。


「ユーティリス殿下ならご理解いただけるはず。カディアンのそばにいる者にも、リコリス女史が持つ知識が必要です!」


「研究棟では『ユーリ・ドラビス』でいい。その議論も含めて今すべき話じゃない。控えろ」


 ユーリの顔が硬く強張り、威嚇するような低い声がでる。けれど彼女は納得せず、さらに食い下がった。


「いいえ、ではネリス師団長にお願いします。ポーション作りでも何でもします!私にリコリス女史から学ぶ許可を!」


「アイリ・ヒルシュタッフ、あなたのいいたいことはわかった。毒に関する知識がほしいってことだね」


「そうです!」


「でも、それはあなたの気持ちだけだよね。ヌーメリアが教えたいと思うかという視点が抜けている。許可を取る相手は、わたしではなくて彼女でしょ?」


「ならば彼女にかけ合います」


 勢いづいたアイリに、ちょうど素材を持って工房に入ってきたヌーメリアは、そっけなく返事をする。


「お断りします」


「なぜですか⁉」


 素材を机に置き、〝毒の魔女〟はアイリに向き直る。


「毒の知識は諸刃の刃……人を助けもすれば殺しもする。おいそれと渡すわけにはいきません」


「学ぶ機会を与えず、知識を独占するつもりですか!」


「……いけませんか?」


 ヌーメリアは静かに返事をする。


「なっ……」


「アイリ、わたしがヌーメリアを認めているのは、毒の知識を持ちながら、誰も殺していないという点です。そしてその知識を渡すよう、彼女に強制する権利は、師団長にも王子にも……アイリにもない」


 わたしはアイリだけじゃなく、その場にいる全員に向けてハッキリと宣言した。


「ヌーメリアの知識は、彼女が認めた者にのみ渡される。グレン・ディアレスの知識が、わたしに渡されたように。アイリにはその資格がない」


 アイリは無言で唇をかみしめ、ヌーメリアに頭を下げた。


「もうしわけありませんでした。ヌーメリアさんに非礼をおわびします」


「……わかっていただければいいです」



 ようやく引き下がったアイリの背中をみながら、オドゥが感心したようにつぶやく。


「毒について知りたい、かぁ。しょっぱなから飛ばしてくるねぇ。僕なんかグレンの知識がほしいから、あっさり錬金術師になったけど。彼女は魔術師になりたいんだろ?」


 そうなんだよね。錬金術師にはなりたくないけど、知識だけはほしい……かぁ。


「なおさら教えられません……魔術師の女性は、自信過剰のかたが多くて……苦手です」


 ヌーメリアは顔をしかめた。なにかイヤな思い出でもあるのかな。


 でも、アイリ・ヒルシュタッフ……弟くんの婚約者候補というから、もっと甘々なふんわりした感じの子を想像したんだけど。


 で、その弟くんたちはというと、大失敗したメレッタよりはマシだけど、全体的に雑だった。


「カディアン、グラコス、ニック……あなたたちは素材の扱いが雑すぎる。ナイフやハサミに慣れてないのはしかたないけど、もっとていねいに刻んで。ソラ、あとで見てあげてくれる?」


「かしこまりました」


 体の大きいグラコス・ロゲンという少年が、その巨体を揺らしながら吠える。


「素材の下準備など助手にやらせればいいだろ!ライガをさっさと作らせろ!」


 助手がどこにいるってのよ。


「あのねぇ、今やってもらったのは学園でやった授業の復習……つまり、できてあたりまえなの!それができてないと言ってるのよ!職業体験をやりたいんだったら、きちんとできるようになりなさい!」


「だけど、ここにいるのは第二王子殿下だぞ!そのような雑用をわざわざやる必要は……」


「僕はその兄だけど?」


 イライラしたようにユーリが口をはさみ、その矛先をカディアンに向けた。


「カディアン……なぜ黙っている。側近が暴走したら、それを止めるのがおまえの役目だろう。師団長に従えない者は研究棟に必要ない。やる気がないならでていけ」


 グラコスがバカにしたように、上からユーリを見下ろす。


「それこそ従えません!あなたはただのユーリ・ドラビスだと、さっきあなた自身がそういった」


 カディアンがあわてて立ち上がった。


「グラコス、やめろ!兄上、もうしわけありません!俺はちゃんとやるから、グラコスもニックも協力してくれ!俺は今回、兄上と過ごせるのを楽しみにしていたんだ!」


 工房がシン、と静まりかえった。


 ええと、ただ素材をていねいに刻むように……という話だけで、なぜこのようなハードな展開に?


 むこうの世界でインターンとかも経験したことのないわたしには、わからないんだけど。


 職業体験って、こんななの⁉


 そのときドカン!と音がして、振り返るとメレッタの錬金釜から、また煙がモクモクとでている。


「メレッタ!また!」


 悲鳴を上げたアイリに、また顔を真っ黒にしたメレッタが言い返す。


「うまくいくかどうかなんて、やってみなきゃわからないじゃない!」


「なんで教科書通りにやらないのよ⁉」


「どうしてこのやりかたを誰もしないのかなって思ったの!失敗するのね!ようやくわかったわ!」


 メレッタは浄化魔法で自分と釜をきれいにすると、紫の瞳を輝かせて素材を選び始めた。


「つぎはマルボ草とトリモナの組み合わせを試してみるわ!」


「だから、どうして教科書通りにやらないの⁉」


「だって錬金術師になる気なんてないもの!研究棟の素材を試す機会なんてもうないわ!」


「あの、メレッタ、素材で遊ぶのはやめてね……」


 とりあえず、場の空気は変わった。

挿絵(By みてみん)

メレッタちゃん最高だぜぇー!と思う方は両ヒレを上げてください。

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― 新着の感想 ―
メレッタ女史に限った話じゃないがこの学生達、今使ってる素材が「錬金術師団」ひいては「国の物、民からの血税の一つの形」だって事を理解してるんかね?おいちゃん、ちょっと評価が下がってしまったよ...(´・…
[良い点] はーい! 自分で確かめないと気が済まない、自分で次はどうやってみるか考える、もうやってしまう! すごい最高だぜぇ!
[一言] 新卒で理想では一番欲しくて、実際来ると体力持ってく奴らだ!最高です!
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