101.五年生たち
ブクマ&評価ありがとうございます!
「ネリス師団長、できました」
ラベンダー色の髪をハーフアップにしたアイリ・ヒルシュタッフが、できあがったポーションをわたしのところに持ってくる。
「見せて……うん、いいね」
するとアイリは紅色の瞳でまっすぐに、わたしを見て訴えてきた。
「ありがとうございます。私は魔術師を目指していて、ポーションの作成はひと通りできます。私の腕に納得されたのでしたら、他のことがやりたいです」
「ほかのこと?ライガの改良以外に何か?」
「はい。できればヌーメリア・リコリスから直接、毒について学びたいです」
「毒について?まさかアイリも毒マニアなの?」
美少女の口から飛びでた言葉に、わたしは思わずまばたきをした。
「第一王子殿下が六年前に毒を受けたとき、毒の特定から解毒までを、リコリス女史がされたとか。注意すべき毒の特徴や判別法、解毒方法など……学びたいことはたくさんあります」
「ユーリ、それ本当?」
わたしが確認すると、彼はうなずいた。
「本当ですよ。だから王家は彼女に恩があるんです。なかなか返させてくれませんでしたけどね」
「そんなことがあったんだ……ヌーメリアにとっては、あたりまえのことをしただけだよね」
「そうですね。彼女は研究棟で平穏にすごすことを望んでいました。アイリ・ヒルシュタッフ、ネリス師団長はライガの改良を課題と決めた。職業体験の内容を逸脱することは認められない」
ユーリは手に持っていた術式の束を机に置き、アイリを注意した。
「ユーティリス殿下ならご理解いただけるはず。カディアンのそばにいる者にも、リコリス女史が持つ知識が必要です!」
「研究棟では『ユーリ・ドラビス』でいい。その議論も含めて今すべき話じゃない。控えろ」
ユーリの顔が硬く強張り、威嚇するような低い声がでる。けれど彼女は納得せず、さらに食い下がった。
「いいえ、ではネリス師団長にお願いします。ポーション作りでも何でもします!私にリコリス女史から学ぶ許可を!」
「アイリ・ヒルシュタッフ、あなたのいいたいことはわかった。毒に関する知識がほしいってことだね」
「そうです!」
「でも、それはあなたの気持ちだけだよね。ヌーメリアが教えたいと思うかという視点が抜けている。許可を取る相手は、わたしではなくて彼女でしょ?」
「ならば彼女にかけ合います」
勢いづいたアイリに、ちょうど素材を持って工房に入ってきたヌーメリアは、そっけなく返事をする。
「お断りします」
「なぜですか⁉」
素材を机に置き、〝毒の魔女〟はアイリに向き直る。
「毒の知識は諸刃の刃……人を助けもすれば殺しもする。おいそれと渡すわけにはいきません」
「学ぶ機会を与えず、知識を独占するつもりですか!」
「……いけませんか?」
ヌーメリアは静かに返事をする。
「なっ……」
「アイリ、わたしがヌーメリアを認めているのは、毒の知識を持ちながら、誰も殺していないという点です。そしてその知識を渡すよう、彼女に強制する権利は、師団長にも王子にも……アイリにもない」
わたしはアイリだけじゃなく、その場にいる全員に向けてハッキリと宣言した。
「ヌーメリアの知識は、彼女が認めた者にのみ渡される。グレン・ディアレスの知識が、わたしに渡されたように。アイリにはその資格がない」
アイリは無言で唇をかみしめ、ヌーメリアに頭を下げた。
「もうしわけありませんでした。ヌーメリアさんに非礼をおわびします」
「……わかっていただければいいです」
ようやく引き下がったアイリの背中をみながら、オドゥが感心したようにつぶやく。
「毒について知りたい、かぁ。しょっぱなから飛ばしてくるねぇ。僕なんかグレンの知識がほしいから、あっさり錬金術師になったけど。彼女は魔術師になりたいんだろ?」
そうなんだよね。錬金術師にはなりたくないけど、知識だけはほしい……かぁ。
「なおさら教えられません……魔術師の女性は、自信過剰のかたが多くて……苦手です」
ヌーメリアは顔をしかめた。なにかイヤな思い出でもあるのかな。
でも、アイリ・ヒルシュタッフ……弟くんの婚約者候補というから、もっと甘々なふんわりした感じの子を想像したんだけど。
で、その弟くんたちはというと、大失敗したメレッタよりはマシだけど、全体的に雑だった。
「カディアン、グラコス、ニック……あなたたちは素材の扱いが雑すぎる。ナイフやハサミに慣れてないのはしかたないけど、もっとていねいに刻んで。ソラ、あとで見てあげてくれる?」
「かしこまりました」
体の大きいグラコス・ロゲンという少年が、その巨体を揺らしながら吠える。
「素材の下準備など助手にやらせればいいだろ!ライガをさっさと作らせろ!」
助手がどこにいるってのよ。
「あのねぇ、今やってもらったのは学園でやった授業の復習……つまり、できてあたりまえなの!それができてないと言ってるのよ!職業体験をやりたいんだったら、きちんとできるようになりなさい!」
「だけど、ここにいるのは第二王子殿下だぞ!そのような雑用をわざわざやる必要は……」
「僕はその兄だけど?」
イライラしたようにユーリが口をはさみ、その矛先をカディアンに向けた。
「カディアン……なぜ黙っている。側近が暴走したら、それを止めるのがおまえの役目だろう。師団長に従えない者は研究棟に必要ない。やる気がないならでていけ」
グラコスがバカにしたように、上からユーリを見下ろす。
「それこそ従えません!あなたはただのユーリ・ドラビスだと、さっきあなた自身がそういった」
カディアンがあわてて立ち上がった。
「グラコス、やめろ!兄上、もうしわけありません!俺はちゃんとやるから、グラコスもニックも協力してくれ!俺は今回、兄上と過ごせるのを楽しみにしていたんだ!」
工房がシン、と静まりかえった。
ええと、ただ素材をていねいに刻むように……という話だけで、なぜこのようなハードな展開に?
むこうの世界でインターンとかも経験したことのないわたしには、わからないんだけど。
職業体験って、こんななの⁉
そのときドカン!と音がして、振り返るとメレッタの錬金釜から、また煙がモクモクとでている。
「メレッタ!また!」
悲鳴を上げたアイリに、また顔を真っ黒にしたメレッタが言い返す。
「うまくいくかどうかなんて、やってみなきゃわからないじゃない!」
「なんで教科書通りにやらないのよ⁉」
「どうしてこのやりかたを誰もしないのかなって思ったの!失敗するのね!ようやくわかったわ!」
メレッタは浄化魔法で自分と釜をきれいにすると、紫の瞳を輝かせて素材を選び始めた。
「つぎはマルボ草とトリモナの組み合わせを試してみるわ!」
「だから、どうして教科書通りにやらないの⁉」
「だって錬金術師になる気なんてないもの!研究棟の素材を試す機会なんてもうないわ!」
「あの、メレッタ、素材で遊ぶのはやめてね……」
とりあえず、場の空気は変わった。









