表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
101/560

101.こいつら、ギラッギラだ

よろしくお願いします。

「アイリはメレッタがちゃんとポーションを作れるようみてあげてくれる?カディアンたちはソラについて素材の下準備の練習……ちゃんとナイフとハサミは使えるように……あとはレナードね」


 さすがレナード・パロウ、首席の名はダテじゃない、みごとな出来のポーションだった。このまま店にだして売れそうだ。


「当然ですよ。身分だけにあぐらをかいて、努力ってものをしらないやつらとは違います」


 ふふん、とバカにしたようにカディアンたちをみやるレナードに、カディアンはともかくグラコスとニックがけしきばむ。


 うわぁ……。


 メレッタに話をきいたときは、キラッキラの青春かと思ったけどちがう。


 こいつら……ギラッギラだ。


「レナードはユーリとライガの術式について検討にはいって。ユーリ、よろしくね」


「はい、彼がいちばん術式を読みこんでいるようですからね……じゃあレナード、こちらに座って」


「……よろしくお願いします」


 レナードはユーリの顔をじっとみたあと、ユーリとおなじテーブルに座った。生徒たちの世話はユーリにまかせるとして、いまやらなければならない錬金術師団のおもな仕事は、モリア山にあるミスリル鉱山へ行われる遠征のための準備だ。


「わたしはモリア山にむかう遠征隊のために、ポーションづくりをするから。ヌーメリア、てつだってね」


「はい」


 それをアイリ・ヒルシュタッフが聞きとがめた。


「ヌーメリア・リコリスが……ただのてつだい、ですか?おてつだいなら私もします!さきほどのポーションは合格だったでしょう?ポーションづくりぐらいなら私だって……!」


「あぁ、うん……そうなんだけど。アイリは、メレッタがポーションを完成させられるようみてあげて」


 アイリは不満そうだったが、わたしがそういえば従うしかない。生徒たちとじゅうぶん距離をとり、わたしとヌーメリアは作業をはじめた。






 今回はちゃんと、予算を考えて素材をそろえた!高価な稀少素材を減らしたぶん、素材の種類や量を増やしておぎなう作戦だ。


〝地域別魔物図鑑〟で下調べをしたところ、北方のモリア山中は寒い場所のせいか、炎を吐いたり、逆に氷の攻撃をしてきたり、温度調節系の魔物が多いらしい。ゴリガデルス、マウントダボス、ガルバード等々……体の表面が硬いのも特徴だ。


 季節は夏だけど、火傷や凍傷のそなえも必要なのね……。体が硬いなら、通常の物理攻撃で倒すのはたいへんなので、身体強化や魔力回復のポーションも必須だろう。


 まずはおおきめの魔法陣を敷いて、素材の下準備だ。風の魔法陣に素材をぽんぽんほうりこみ、浮かせた素材を風で洗い、細かなゴミをとり除いていく。ゴミをとり除いたあとはこまかく術式で調節し、素材を刻んで均一な大きさにそろえていく。温度管理の術式で一定の温度を保ち、素材の質を保つことも忘れない。


 素材の下準備が終わったところで、錬金釜内部における空間の条件を設定する。


 そのあとは、ヌーメリアがわたしの指示にあわせて、タイミングよく素材をいれてくれる。この辺はなんどもやっているので、ふたりの呼吸はピッタリだ。


 素材をいれるたび、その素材固有の『力』を引きだすための魔法陣を展開し、勢いよく魔素を叩きこみ、素材そのものの『力』を奪いとってゆく。


「魔法陣の多重展開……⁉」


 だれかが息をのんだ気配がしたけれど、いまはそんなことにかまってなんていられない。いくつもの魔法陣が鮮やかに光を発し、音を奏でまわりつづける。


 錬金術師の作るポーションは、運命すらねじまげる。


 あらゆる角度から『死』に向かって落ちていく『運命』に逆らい、『生』に引き戻す。


 傷つきし者に『再生』を。


 目が見えぬ者に『光』を。


 死にゆく者に『生存』を。


 毒に侵され朽ちゆく体に『浄化』を。


 力尽きた戦士に、漲る『力』と溢れる『闘志』を。


 魔力を失いし魔術師に、高い『集中力』と澄みきった純粋な『魔素』を。


 ギャリギャリギャリギャリ……。


 素材自体が抵抗し、魔法陣同士も反発しあい、干渉しあい、耳ざわりな不協和音を発するが、あえて逆らわず、そのなかからただしい波動を選びとっていく。


 どんなに素材が抵抗しようと、どうせすべての力はわたしのものになる。


 わたしの支配下においたそれを、ヌーメリアが丁寧に混ぜあわせていくと、やがてすべての術式が違和感なくなじんで溶けあい、ひとつの波動を紡ぎだす。


 だんだんと魔法陣のかなでる音が、澄んだ音色に変わっていき……最後にぼわん、と錬金釜の中でポーション全体が光り、にごっていたポーションが徐々に透きとおっていく。そこに状態保存の術式をまとめてかけた。


 ポーションを瓶に封入し、破損防止の術式をほどこすのは、見物していたオドゥが暇そうだったのでまかせる。


 オドゥは錬金釜に天秤があしらわれた錬金術師団の紋章を、瓶にひとつひとつ刻みこんでいく。おおお、このペースなら、ポーションづくりはさくさくはかどりそう。


「これを、午前中にあと三セットすませるから。みなの調子はどうかな?……っと」


 生徒たちのほうをふりむくと、みんな、ぽかーんと口をあけて手がとまってるよ……ぜんぜん作業すすんでないじゃん……。ユーリもそういえば、最初のころはそんな感じだったなぁ。


 術式を刻みおえた瓶を箱にならべ、オドゥがクックックと笑いながら、眼鏡のブリッジに指をかけて位置を調整する。


「わかった?これが『錬金術師団長』だよ。学生たちの()()()とはちがうんだ」


 アイリはさっと顔を赤らめ、レナードは目をむき、カディアンたちはうつむいた。


「ネリア、錬金術師はなりてがいないんじゃない、グレンについていける者がすくなかったんだ……それに、錬金術師は秘密主義だしね」


 オドゥはそういうと、作業を再開したメレッタに声をかけた。


「メレッタ、ポーションができたら二階にいるお父さんに持っていってあげて?娘の作ったポーションなんて、副団長喜ぶだろうなぁ」


「いいですけど……ネリス師団長の錬金とくらべたら私のポーションづくりなんて、おままごとですよね……」


「いいのいいの、気持ちなんだから。娘の作ったポーションなんて、世界にひとつだけだよ!」


 オドゥはちゃっかりと、副団長に頼まれたポーションづくりを、メレッタに押しつけた。







 午前中の作業がおわったら、中庭で昼食だ。師団員たちは研究棟からでないので、中庭に移動する。学園生たちはお弁当でも、王城の食堂に食べにいくのでも、自由に過ごしていいのだけれど、カディアンがユーリと一緒に食べたがったので、みなぞろぞろと中庭にやってきた。



 いつもは昼食は軽めだけど、きょうは学生たちも加わるから、がっつりとカレーにした。



 ソラがきょうは実習を手伝っていたから、中庭で昼食の準備をしたのは、ヴェリガンとアレクだ。ほら、カレーって野菜が生煮えとかじゃなければ、そうそう失敗はしないじゃない?野菜が煮えたら、これまた用意しておいたカレールゥを溶かすだけだし。


 これなら生活能力のまるでなさそうなヴェリガンでもできるはず!野菜の下ごしらえだけはしておいたので、ヴェリガンはカレーを作り、鍋をかきまぜてくれていた。手はつかわずにぐるぐると……って錬金釜を煮つめる要領じゃん!鍋のなかでカレーが変質してなければいいけど……。


 だけど初めてカレーをみた弟くんたちには、カルチャーショックだったらしい。眉間にシワを寄せて、得体のしれないものを見る目つきで、自分たちの前におかれた皿を見つめている。


 ……サンドイッチとかハンバーガーとか、ほかのものにすればよかったかな。


「この、えらくみための悪いたべものはなんだ……」


「まるで……」


「シッ、言うな!」


「だがこんなものを、デカいスプーンひとつでたべろ……だと?」


 なんかいろいろめんどくさい……。昼のまかないに、なに芸術的もりつけを望んでるのよ。


「いやなら、王城に食べにもどれば?」


「いやだなんて言ってない!兄上が食べるんだったら俺も食べる!」


「殿下!おまちください!」


「毒味はわれわれが先にっ!」


 あぁもう、なんだかなぁ……。


 カレーを食べるために、わたしもようやく仮面をはずし、ソラに預けて正面をむくと、弟くんがびっくりした顔をして、わたしの顔をまじまじと見ていた。


 なにかわたしの顔についてる?そう思ったとき、カディアンはぽつりとつぶやいた。


「かわいい……」


 そのひとことに、ユーリの眉がぴくりとうごき、アイリの顔色がかわった。

 カディアンのそれは、男子高校生が教育実習の女子大生に見惚れるようなものだと思いますが、アイリは気が気じゃありません。

挿絵(By みてみん)

仮面とネリア、作者手描き。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN
☆☆粉雪の最新刊!NovelJam2025参加作品。8千字ほどの短編です☆☆ 『七日目の希望』 9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
[気になる点] モリア…ミスリル鉱山… ドゥリンの禍クルー!(いやまさかそんな
[一言] おもしろーい!!!! 続きが楽しみです!!
[良い点] ギラギラなグループ…… 青少年少女達とコミニュケーションを取るのは大変ですね(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ