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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第四章 職業体験とサルジアの陰謀
100/560

100.魔術学園の五年生達

ブクマ&評価ありがとうございます!

「ネリス師団長、できました」


 アイリ・ヒルシュタッフがわたしのところに、できあがったばかりのポーションを持ってきた。教科書通りのいいできだ。


「みせて……うん、いいね」


 アイリ・ヒルシュタッフはラベンダー色の髪をハーフアップにした、紅色の瞳をもった美少女だった。立ち居振る舞いにも品があり、正直、カディアンにはもったいないと思う。彼女は、わたしのほうをまっすぐに見て、うったえてきた。


「ありがとうございます……私は魔術師志望で、ポーションの作成はひととおりできます。私の腕に納得されたのでしたら、ほかのことがやりたいのですが」


「ほかのこと?ライガの改良以外になにかやりたいの?」


「はい……できればヌーメリア・リコリスから直接、『毒』について学びたいのです」


「『毒』について?」


 美少女の口から「『毒』について学びたい」などという言葉がでるのが意外で、わたしはおもわず聞きかえす。


「そうです!代表的な『毒』の特徴、その見分けかた、体内にはいってしまった場合の対処法……とにかく、学びたいことがたくさんあるのです」


「ええっと、それってあなたにとって必要な知識なの?」


「ユーティリス第一王子殿下が六年前に毒をうけたとき、毒の特定から解毒までをヌーメリア・リコリスがおこなったのは有名です。その際、テルジオ・アルチニは彼女に直接指導を受けたとか」


「ユーリ、それほんとう?」


 わたしがユーリに確認すると、彼はうなずいた。知らなかった……そんなことがあったんだ……。


「ほんとうですよ、だから王家はヌーメリアに恩があるんです。なかなか、返させてくれませんでしたけどね」


 そうだね。ヌーメリアはきっとあたりまえのことをしただけで、彼女は研究棟でただ平穏にすごすことを望んでいたのだから。


 ユーリが手に持っていた術式の束を机におくと、アイリにむきなおった。


「だがアイリ・ヒルシュタッフ、君の望みは職業体験の内容を逸脱している。ネリス師団長は、ライガの改良を課題ときめたはずだ」


「おことばをかえすようですが、ユーティリス第一王子殿下!カディアン第二王子殿下が卒業し成人するあかつきには、そのそばにいる者にも、テルジオ・アルチニが得たのと同様な知識が必要かと存じます」


「……研究棟ではユーリ・ドラビスでいい。その議論もふくめて、いますべき話じゃない……ひかえろ」


「……あなた様がただのユーリでいい、とおっしゃるならなおさら!ではネリス師団長にお願いします。ポーション作りでもなんでもします!私にヌーメリア・リコリスから学ぶ許可を!」


「……アイリ・ヒルシュタッフ、あなたのいいたいことはわかった。『毒』に関する知識がほしいってことだね」


「そうです!」


「でも、それはあなたの気持ちだけ……ヌーメリア・リコリスがあなたに教えたいと思うか……という視点がぬけている。許可をとる相手は、ユーリでもわたしでもなく、ヌーメリアでしょ?」


「ならば、彼女にかけあえばいいのですね!」


 アイリ・ヒルシュタッフはいきおいづいたが、ちょうどそのとき素材を持ったアレクやソラと一緒に、ヌーメリアが工房にはいってきた。話がきこえていたらしい彼女の返事は、そっけないものだった。


「おことわりします」


「なぜですか⁉」


 ヌーメリアは素材を机の上におくと、アイリ・ヒルシュタッフにむきなおった。


「『毒』の知識は諸刃の刃……ひとを助けもすれば、殺しもする……おいそれと渡すわけにはいきません」


「まなぶ機会をあたえず、知識を独占するおつもりですか!」


 つめよるアイリに、ヌーメリアは困ったように眉をひそめる。わたしはアイリを制していった。


「アイリ、わたしは、ヌーメリアが『毒』のエキスパートでありながら、それを用いてだれも殺すことはなかった……という事実により、彼女を認めています。そしてその知識を渡すよう、彼女に強制する権利は、師団長にも王子にも……アイリにもない」


 アイリだけじゃなくその場にいる全員に聞こえるように、ハッキリと宣言した。


「ヌーメリアの知識は、彼女がみとめた者にのみ渡される。グレン・ディアレスの知識が、わたしに渡されたように。あなたはその知識をえる資格があると、ヌーメリアに認められていない」


 アイリは無言で唇をかみしめると、ヌーメリアに頭を下げた。


「……もうしわけありませんでした。ヌーメリアさんにも非礼をおわびします」


「……わかっていただければいいです」



 ようやくひきさがったアイリの背中をみながら、オドゥが感心したようにつぶやく。


「『毒』について知りたい、なんて……しょっぱなから飛ばしてくるねぇ。僕なんか、グレンの知識がほしいから、あっさり錬金術師になっちゃったけど……彼女、魔術師になりたいんだろ?」


 そうなんだよね……錬金術師にはなりたくないけど、知識だけはほしい……かぁ。


「なおさら教えられません……魔術師の女性は、自信過剰のかたが多くて……にがてです」


 ヌーメリアは顔をしかめた。なにかイヤな思い出でもあるのかな。でも、アイリ・ヒルシュタッフかぁ……弟くんの婚約者候補というから、もっと甘々なふんわりした感じの子を想像したんだけど。


 で、その弟くんたちはというと、大失敗したメレッタよりはマシだが、なんとか形になっているというていどだ。


「カディアン、グラコス、ニック……あなたたちは素材のあつかいが雑すぎる。ナイフやハサミの使いかたに慣れてないのはしかたないけど、もっとていねいに刻んで。ソラ、あとで見てあげてくれる?」


「かしこまりました」


 グラコス・ロゲンという、ひときわ体の大きい少年が、その巨体を揺らしながら吠えた。


「素材の下準備など助手にやらせればいいだろ!われわれにライガをさっさと作らせろ!」


 助手がどこにいるってのよ。


「あのねぇ、いまやってもらったのは学園での授業の復習……つまり、できてあたりまえのことなの!それができてないといってるのよ!錬金術師の職業体験をやりたいんだったら、きちんとできるようになりなさい!」


「だけど、ここにいるのは第二王子殿下だぞ!そのような雑用をわざわざやる必要は……」


「僕はその兄だけど?」


 ユーリが口をはさみ、その矛先をカディアンにむけた。


「カディアン……お前なぜ黙っている。そばのものが暴走したらそれをいさめるのがお前の役目だろう……研究棟で師団長に従えないものは必要ない。やる気がないならでていけ」


 グラコスがバカにしたように上からユーリを見下ろした。


「それこそ従えません!あなたはただのユーリ・ドラビス……さきほどあなた自身がそういった」


 カディアンがあわてて立ち上がった。


「グラコス、やめろ!兄上、もうしわけありません!俺はちゃんとやるから、グラコスもニックも協力してくれ!俺は今回、兄上と過ごせることを楽しみにしていたんだ!」


 工房が、しん……と静まりかえった。





 ええと、ただ素材をていねいに刻むように……という話だけで、なぜこのようなハードモードな展開に……?


 むこうの世界でインターンとかも経験したことのないわたしには、わからないんだけど。


 職業体験って、こんななの⁉


 そのときドカン!と音がして、ふりかえるとメレッタの錬金釜からまた煙が上がり、アイリが悲鳴をあげる。


「メレッタ!また!」


「うまくいくかどうかなんて、やってみなきゃわからないじゃない!」


「なんで教科書通りにやらないのよ⁉」


「どうしてこのやりかたをだれもしないんだろう……って思ったからよ!失敗するのね!ようやくわかったわ!」


 メレッタは浄化魔法で自分と釜をきれいにすると、目を輝かせながら素材を選びはじめた。


「つぎはマルボ草とトリモナの組みあわせを試してみるわ!」


「だから、どうして教科書通りにやらないの⁉」


「だって錬金術師になる気なんてないもの!研究棟にくる機会なんてもうないわ!せっかくだからいろいろ試したいじゃない!」


 あの、メレッタ、素材で遊ぶのはやめてね……。


 とりあえず、場の空気はかわった。

メレッタちゃん最高だぜぇー!と思う方は両ヒレを上げてください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] はーい! 自分で確かめないと気が済まない、自分で次はどうやってみるか考える、もうやってしまう! すごい最高だぜぇ!
[一言] 新卒で理想では一番欲しくて、実際来ると体力持ってく奴らだ!最高です!
[一言] \( *´ω`* )/ サイコーだぜ
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