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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第四章 職業体験とサルジアの陰謀

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100.職業体験が始まった(オドゥ視点)

一気に読者様が増えてびびってますが、よろしくお願いします。

 大切なのに、壊したい。


 隠したいのに、暴きたい。


 ふたつの相反する望みが、自分のなかでせめぎあう。


 きみはグレンのもたらした奇跡。


 きみをバラバラにして、きみを構成するものひとつひとつ……すべてを知りたい。


 けれどそれをしてしまったら、()()()()()()()を創りあげる自信が今の僕にはない。


 僕の前にはいつもグレン・ディアレスが立ちはだかる。


 でも、もうあいつはいない。


 きみの瞳に僕を映して。


 きみの唇で僕の名をよんで。


 きみを守るためなら、僕はなんだってするから。


 だってきみは僕以上に孤独だ。


 異界からたったひとり、僕のいるこの世界に堕ちてきたのだから。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 カーター副団長は木のてっぺんから救出される際に腰を痛め、研究室のソファーでうつ伏せで伸びていた。


「オドゥ・イグネル!聞いているのか!」


 彼にどやされたオドゥは、のんびりとあいづちを打つ。


「あーはいはい、聞いてますよぉ、カーター副団長。それでネリアの魔力、属性はどうでした?」


「ぐぬぬぬ……学園で検査を見守るつもりが、このザマだ。騒ぎで記録も取れなかったというし、転移魔法だって私が寝こんでいるあいだに、初等科のロビンス教諭が教えてしまった」


 ロビンス教諭はわかりやすい授業と穏やかな人柄で、生徒たちからも人気がある。


 初等科のみを教えるマイペースな教師で、学園内での地位は高くないものの、魔法陣研究の第一人者だ。


「手間が省けてよかったじゃないですか。寝ているあいだに仕事が終わってるなんて最高ですよ」


「思いっきりバカにして、笑ってやるつもりだったのに!その寝こむハメになったのだって、もともとはあの女が!あいててて……」


 オドゥは机に置かれたままの、ポーション瓶を手に取った。


「ほら、興奮しないで。ネリアにお見舞いでもらった師団長特製ポーション飲みましょうよ」


「ダメだ!研究用に残しておけ!あいててて……」


「家で寝てたほうがいいのでは?」


 副団長はピタッと動きをとめ、抱き締めていたクッションをぎゅっと握りしめる。


「……独りものの、おまえにはわからん」


「なにが?」


「夫が!予定外の休みで丸一日家にいると知った!妻の凍えるような目だ!しかも寝ていたら〝お掃除君〟が私を生ゴミ扱いして捨てようと……。妻に文句を言えば、『初期設定のときに家にいないのが悪い』と……あててて」


 掃除魔道具として人気の〝お掃除君〟は、初期設定で片づいた部屋の状態を覚えさせる必要がある。設定時になかったものは、ゴミとして片づけられてしまうのだ。


 マニュアルを読んで、あとから〝お掃除君〟に副団長のデータを追加すればいいのだけれど、あいにくカーター夫人はペットのウポポを散歩させていた。


 そしてゴミの分別もする、賢い〝高機能タイプお掃除君〟は手際よく、副団長を仕分けしたという。


「家でゴロゴロしている夫は、生ゴミとでも言いたいのか……」


「副団長見てると結婚に夢持てないよねぇ。僕、一生独身でいいや」


 オドゥのつぶやきは、嘆く副団長の神経を逆なでしたらしい。


「オドゥ、おまえがポーションを作れ!」


「ええええ」


「さっさといってこい!」


「作ってきますから、下手に動かずおとなしくしててくださいよ?」


 ようやくカーター副団長の愚痴から解放されたオドゥは、一階にある工房へとやってきた。


「うわっ!メレッタ!その素材はこっち!」


「えっ?もう入れちゃった!」


 工房の雰囲気はいつもと違い、魔術学園生たちがワイワイと錬金釜を囲んで、それぞれ素材を運んで量って刻み、魔法陣を展開しては釜をかき混ぜていた。


「へー、魔術学園で習う錬金術ってこんな感じなんだぁ……」


 ネリアはネリアで、学園のテキストにパラパラと目を通している。


「にぎやかだねぇ」


「あらオドゥ、どうしたの?」


「副団長、腰がまだ痛いんだって……ポーションがほしいみたい」


「えっ!お見舞いのポーション、効かなかったの?」


「ええと……いや、師団長のポーションはもったいなくて飲めないんだってさ。それより、なにしてんの?」


「魔術学園の子たちの錬金を、見せてもらってたの!」


 ネリアとオドゥのうしろでドカン!と音がする。振り向くと錬金釜から煙がモクモクとでていて、アイリ・ヒルシュタッフの悲鳴があがる。


「メレッタ!だから言ったのに!」


 メレッタと呼ばれた少女は、顔を真っ黒にして言い返す。


「うまくいくかどうかなんて、やってみなきゃわからないじゃない!」


 眼鏡をかけたオドゥは中肉中背で、これといって特徴もない。彼は注目されることもなく、ネリアの隣で学園生たちを観察した。


(ふぅん……六名中四名が第二王子派か。これ、ユーリには厳しいメンバーだねぇ)


 第二王子のカディアンといっしょにいる、グラコス・ロゲンにニック・ミメットは、どちらも第二王子の側近狙いだろう。


 ヒルシュタッフ宰相の娘アイリは、幼いころからカディアンの婚約者候補として名が挙がっている。


(中立なのはカーター副団長の娘メレッタと、パロウ魔道具の御曹司レナードだけか……)


 当のユーリは涼しい顔をして、生徒たちが提出したライガの改良案を眺めている。


 王太子にカディアンを推す第二王子派にとって、生身の第一王子に接するのは初めてだ。


 十四歳のユーティリス王子がグレンと契約して、その成長が止まったとき、彼のそばを離れた貴族は、魔術学園に入学したばかりの弟、カディアンを支持した。


 将来、カディアンが立太子すれば、そのまま彼らの娘や息子が側近となる。


 それに対してユーリには、親しい学友と呼べる者がいない。


 学園に入学してすぐ、サルジアからやってきた留学生と親しくなった彼は、事件に巻きこまれてしばらく療養生活を送った。


 もともと大人びた少年であり、級友たちと悪ふざけをするより、補佐官のテルジオと会話するほうが多かったという。


(ネリアがあらわれてから、年相応の顔をするようになったけど……)


 研究棟にやってきたときの彼は、もっと生意気で冷めたガキだった。けれど母親譲りの優しげな顔立ちに反し、その性格は竜王をねじ伏せた祖先バルザム譲りの苛烈さだ。


 黙っていい子にしていれば、王位が転がりこんでくる立場でありながら、なおグレンに契約を求めた。


(そんなかわいくないところが、かわいいんだよなぁ)


 生まれたときから、その一挙手一投足を見られてきた生活ゆえだろう。ユーリは用心深い。


 その感覚にはオドゥも舌を巻く。なにしろ、印象操作の眼鏡をかけている彼を、初対面で警戒したのはユーリとネリアぐらいだ。


 今回の職業体験で何が起こるか。まだ学生だと侮らないほうがいい。オドゥもユーリも魔術学園にいたときから、すでに将来に向けて動きだしていた。


 そしてネリアはまったく無意識に、その動きを加速させている。


(しばらく退屈しないですみそうだ……)


 錬金術師オドゥは眼鏡のブリッジに手をかけ、ずれを直すと人のよさそうな笑みを浮かべた。

挿絵(By みてみん)

錬金術師オドゥ・イグネル(画:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
詐欺師眼鏡、ネリアさんの核が異世界出身だと見抜いてやがる…。 と言うか「異界」の概念を理解しているとか、視座が違うな…。 孤独とか言えない秘密の理解者とか、お相手としてはなかなか高ポイントだが…。 …
なんつーか、出だしが、クラスか学年に一人位居そうな、アオハル時期に書いたノートを実家の何処ぞかに封印して、どう処分しようか焦る元厨二病患者が量産しそうな内容文。
オドゥ、誰か思い出すと思ったら...「ス〇イヤーズ」の「それは秘密です(cv石田彰)」が口癖の糸目神官のにーちゃんだ( ̄▽ ̄;)
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