表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
10/560

10.ウレグ駅での検問

ブクマ&評価ありがとうございます!

誤字報告&イイねも感謝です!

挿絵(By みてみん)

竜騎士団長ライアス、錬金術師ネリア、竜王ミストレイ

 魔導列車の中からわたしとメロディは、車窓に張りついてドラゴンに見入っていた。


「ドラゴン、大きいですねぇ」


 わたしが感心して声をあげると、向かいに座るメロディもうなずく。


「そうねぇ、成竜だと大人の背丈の三倍ぐらいあるわ」


 魔導列車がウレグ駅のホームに滑り込むと、張りついていた二体のドラゴン達は列車から離れ、上空でゆっくりと旋回を始める。


 ウレグ駅はエルリカに比べても大きな駅で、王都シャングリラから北西のサルカス、南西のカレンデュラに向かう際の経由地になっている。


 赤レンガを積み上げた駅舎は、計算して設置された白い窓枠のデザインが美しく、駅前の広場も活気があるようだ。


 上空を舞う白竜とは別のドラゴンが三体、広場を占拠するように翼を閉じて待機していた。白竜が二体、そしてひときわ大きな蒼竜が一体……建物と比べても、その大きさがよくわかる。


「あれ、ミストレイじゃないかしら!」


「ミストレイ?」


「竜騎士団の団長の騎竜よ!ほら、あのひときわ大きいの!」


 メロディが指さしたのは駅で待機するドラゴンたちのなかでも、いちばん大きな堂々とした風格の、青みがかった光沢のある鱗が美しい蒼竜だった。


 頭には角のような突起がふたつあり、大きく広がる翼に鋭いカギ爪があるワイバーン型。瞳は金色で、大地を踏みしめる二本の脚は太くたくましい。





 ドラゴンを夢中で観察していると、車両の前方でドアが開き、立派な体格の竜騎士がふたり乗りこんできた。先頭にいた緑髪の竜騎士が、さわやかな笑顔であいさつをする。


「お急ぎのところ、お時間を頂いて申し訳ありません。ご協力感謝します」


 そのまま前から順に乗客に話しかけ、手元の紙に何か書きつけていく。後ろに立つ金髪の竜騎士は何もせず、全体を監視するように目を光らせていた。


「お名前は?」「どちらから?」「失礼ですがどういったお仕事を?」といったやり取りが聞こえる。声は徐々に近くなり彼らはついに、わたしたちのところまでやってきた。


「お名前は?」


 済ました顔でメロディが応じる。


「メロディ・オブライエン、王都で魔道具店を経営してます。サルカスに仕入れに行った帰りですわ」


 緑髪の竜騎士はうなずいてサラサラとペンを動かし、次にさわやかな笑みをこちらに向けた。うわぁ、カッコいい。


「あなたは?」


「ネリア・ネリス、錬金術師です」


「!」


 笑みを浮かべていた相手の目が見開かれ、そのまま背後にいる金髪の騎士を振り返る。うわぁ、こっちも美形だなぁ。


「……ネリア・ネリス?」


 金髪の竜騎士が初めて言葉を発し、わたしをじっと見つめてきた。整った顔立ちはキリリとして、瞳は夏の青空みたいに濃く抜けるような蒼玉で、少しくせのある明るい金髪が額にかかる。彼は確認するように聞いてきた。


「エルリカから?」


「はい」


 グレン以外の男の人と、こんな風に会話するのも初めてだなぁ……あれ?わたしエルリカって言ったっけな?……とぼんやり考えていると、彼はもうひとつ聞いてきた。


「イルミエンツの伝言は受けとったか?」


 イルミエンツ?と一瞬考えて、あぁ!と思いだす。


「あなたが魔術師団長のレオポルド・アルバーンさん?」


 でも全然、魔術師っぽくない……。


「ちがうわよネリィ、彼は……」


 向かいに座っていたメロディがあわてて否定し、金髪の騎士も困ったように苦笑して首を横に振る。


「いや違う、私は竜騎士団長、ライアス・ゴールディホーン。魔術師団長レオポルド・アルバーンに頼まれ、あなたを迎えにきた」


「わたしを?」


 それを聞いたメロディが目を丸くした。彼女はわたしと彼を交互に見て何か聞きたそうだけれど、わたしにも何が何だかわからない。


 ライアスと名乗った竜騎士団長は、そのまま真っ直ぐにわたしを見つめてくる。


「あの?」


 あまりにじっと見られるため、とまどって見返すと、まばゆい金髪の竜騎士団長はふっとその表情を和らげた。


「ああ、失礼した。声は聞いたが本当に女性なのだな。こんなに可愛らしい方だとは思わなくて」


 そのとたん固唾を飲んで様子を見守っていた、まわりの乗客……主に女性たちから黄色い悲鳴が上がる。


 真顔!真顔で言わないで!お願いだから!美形が言うともの凄い破壊力だから!


「王城まで我らがお送りしよう。荷物をこちらに」


 団長がそう言うと、緑髪の竜騎士が心得たように手を差しだしてきた。そう言われても帆布製の肩掛け鞄だけで、わたしにはたいした荷物はない。……というか王城まで送るって……。


「もしかして」


 ひとつの可能性に気づいたわたしは、ハッとして顔をあげる。


「何か?」


 さわやかに首をかしげて促す騎士団長に、わたしは恐る恐るたずねた。


「わたしのために検問を?」


 ドラゴンで魔導列車に並走したり、ウレグ駅の駅前広場を占拠したのは、すべてわたしのために?まさかと思ったけれど、相手は軽くうなずいた。


「そうだ。『三日後』という返答から、もし魔導列車を使うなら今日ウレグを通るのではと、レオポルドといっしょに当たりをつけたが、正解だったな」


 いや、それ全然確実じゃないよ。馬車だったり、ただ片づけに三日かかるだけの近所の人かもしれないじゃん。


 それで列車を止めて出発を遅らせるとか、他の乗客にとっては大迷惑なんじゃ……いや、そっちが勝手にやったことで、わたしのせいじゃないけどっ!


「一緒に来てくれないか。あなたが降りねば列車が出発できない」


 わたしがぼうぜんとして動かないものだから、ライアスは重ねて促す。にこやかだけれど嫌とは言えない雰囲気に、わたしはあきらめて立ち上がった。


「メロディさん、お先に失礼します。ご一緒できて楽しかったです」


「えっ?ああ、こちらこそ!お店にもぜひ来てね!」


 興味津々といった表情のメロディに軽く手を振り、わたしは竜騎士たちに促されるまま、魔導列車を降りた。ホームにいた人々の視線がいっせいに注がれ、わたしは一瞬身がすくむ。


 そしてウレグ駅のホームには、黒縁眼鏡をかけた白いローブの男が待ち構えていた。

挿絵(By みてみん)

魔術師の杖3巻

(絵:よろづ先生)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆☆MAGKAN様にてコミカライズ準備中!続報をお待ちください☆☆
WEBコミックMAGKAN
作者にマシュマロを送る
9巻公式サイト
『魔術師の杖⑨ネリアと夜の精霊』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天

☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
シリーズ公式サイト

☆☆作詞チャレンジ(YouTubeで聴けます)☆☆
↓「旅立ち」↓
旅立ち
↓「走りだす心」↓
走りだす心
↓「ブルーベルの咲く森で」↓
ブルーベルの咲く森で

↓「恋心」↓
恋心

↓「Teardrop」↓
Teardrop
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ