外伝P2-05-08 貴子の目覚め
これは、本編「パラセル - 俺が異次元娘の身元引受人になった件」2-05-08 記憶 の貴子視点です
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パラセル - 俺が異次元娘の身元引受人になった件
2-05-08 記憶
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気が付いたら、誰かと一緒にどこかに連れられていた。
気が付いたら、服を着せられていた。 ということは私は裸だったのかなぁ?
気が付いたら、大勢の人たちが周りにいた。
眠たくはないけど、頭がぼんやりしていて、何だかよくわからない。
なんか、どうでもいい。
ああ、このままでいたい。
でも、なぜかわからないが、目の前にあるものが、自分が知っている物だと思ったの。
そして、それはなぜか私の物だとわかったの。
そしてそして、今それが、誰かに取られてしまうと思ったら、思わず飛びついてしまっていた。
「シー! シー!」
私はそれがシーと呼ぶ私のとても大事なものだと、なぜかわかっていた。
だから、それを取り上げようとする人から守ったの。
何か答えて欲しいよう。
独りぼっちはもうやだよー。 シー! シー!
すると、なんか変な声が聞こえた後、会いたかったシーが目の前に現れた。
その白い小さな犬が ”シー” だと、私はすぐに判った。
なんかさっきまでずっと一緒だったような、ずいぶん久しぶりなような、変な感じだった。
そしてシーは、私にやさしく話しかけてきた。
『無事にお目覚めされた事を確認しました。
どこか体に変調はありませんか? たかこ』
それは、いつも聞いていたシーの声だった。
ああ、懐かしい。 少し涙が出ちゃった。
たかこって.... なんのことだっけ?
ああ、私、シーに『たかこ』って呼ばれてたっけ。
でも、たかこって何だっけ?
たかこ、たかこ、貴子。
ああ、私の名前だ。 私、貴子だ。
どうして、こんな大事な事忘れちゃっていたんだろう。
あれ、私のシーが誰かと話している。
頭の中で聞こえているこの声は何だろう。
なんか難しいことを話しているみたい。
なんか、かのうたかこって聞こえる。
なんだっけ、それ? どこかで聞いた事がある。 なぜか懐かしい。
んー。かのうたかこ、かのうたかこ、加納貴子。
あ、思い出した。
それも私の名前だ!
いやだ、私なにしてるんだろう。
何も覚えていないけど...
しばらくすると、シーが小さな姿から大きな白い犬になった。
あぁ、思い出した。
これが本当のシーよ。 そうよ、間違いない。
あぁ、会いたかったよぉ。
「シー」
私はシーの首に飛びついて、思いっきり抱きしめた。
そういえば、ここってどこだろう?
「ここはどこや?」
シーに聞いてみようと、思わずつぶやいた。
すると、シーの隣にいた男の人が話かけてくる。
「あなたの名前を言えますか?」
さっき思い出した名前を、声に出して言ってみる。
「加納… 貴子。ここはどこや?」
すると、その男に人が問いかけてくる。
「俺がわかりますか?」
そういわれたので、じっと見てみはしたが分からない。
初めて見る人と思う人だけど、どこか優しそうな感じの兄さんで、私を知っているのだろうか?
「はて、あんたさんはどなたさん?」
私が聞くと、兄さんは難しい事を言ってきた。
「あなたは10年くらい眠っていたのです。 俺は慎二。 あなたの孫の加納慎二です」
まごのしんじとか言っている。
それって、どういう意味だ。
よくわからない。
まごのってなんだっけ?
まごの、まご、孫って、えっ私の孫かい?
そういや小さいのがいたなぁ。
そういや、それが慎二っていったっけな。
すると、この兄さんが信二だって言っているのか。
どういう事なのかなぁ。
あと、私はずっと寝てたのか? 10年くらい。
んーー? それって、どういうこと?
あぁ、面倒だなぁ。 このまま寝ていた方がいいな……
しかし、だんだん頭がはっきりしてきて、急にいろんな事が解り始めた。
えっ、私どうしたんだろう。
私10年間も、ずっと寝てたってことなのね。
で、この兄さんが信二って言っているのは...
あ、なんか思い出してきた。
そう私、里にいたんだっけ。
なのに、どうしてこんなところにいるのだろうか?
10年も寝てたってことは、病院にでも入院してたのかなぁ?
すると、この兄さんが言っていることは本当なのか!
「本当に慎二なのかい? うちの慎二はまだ小さな子供じゃが?」
そう言うと、誰かが大きな鏡を持ってきた。
鏡に映った姿を見ると、自分の姿が映っていなかった。
10年も寝ていたら、すごい婆さんの姿を想像してしまった。 そんな姿なんぞ見たくないなぁ。
しかし、目の前の鏡には、なぜか幼い娘だけが映っている。
手を動かしてみても、顔を触ってみても、体を触ってみても、鏡の幼女が今の自分であることを示していた。
あせって、あたふたしていると、兄さんが話しかけてくる。
「シー は、わかりますよね」
シーを見るが、シーはしっかりとそこにいる。
「うむ」
さらに兄さんは話しかけてくる。
兄さんの話によると、私は里で倒れたらしい。
そして10年ぐらいかかって、シーによって若返りをさせられたと言っているが、そんなことできるのかい?
私の体が変わっているということは、なんと、本当に若返ったという事か。
「すると、おまえさんは本当に慎二なのかい?」
兄さんは頷いた。
その後私のことや子供や孫のことなど、昔のことをいろいろ聞かれたが、最初ぼんやりとして、判らないことばかりであったが、質問された内容の事を考えていると、なぜか質問の情景が頭に浮かんできて、そしてその答えが自然と出てきた。
やり取りの最中に、どこか聞き覚えがある声がしたので、後ろを振り返ると、いつも世話になっていた神社の宮司がそこにいた。
「おや、宮司さんじゃないですか。
いつもお世話いただきありがとうございます。
あんたは変わんないですね」
「ワシも宮司はすでに婿殿に引き継いでおり、今では引退した名誉職の名誉宮司となっている。
今じゃ、単なるじいさんだよ」
いくら孫だとは言われても、兄さんはさっき初めて会った知らない人間だ。
本当に自分が知っている人間を見つけられて、私は初めてほっとした。
知った人を見て、このあたりからいろいろな記憶が急に繋がりだした。
もう一度周囲を見渡してみると、年を取ってはいるが、確かに昔の面影をもった顔がちらほら見つけられた。
そして、この場所が里を下りた神社だと気が付いた。
その人たちを見たことで、確かに10年という歳月が過ぎたことが感じられた。
周りの人がシーにいろいろと聞いているようなので、思い出したことをきっかけとして、私は少し記憶の整理をしようと、それにつながる事を思い出す作業を一人で始めていた。
その後シーから聞いた話では、やはり私は体が完全に死んでしまう、ほんの一歩手前でシーに助けてもらったらしい。
その時、私が薬草を売った使っていなかったお金?と、周りの貴薬草を生み出す力を、すべて使い切ってしまったと謝られた。
元々私が何かあったらシーは自由にしていいよと言ってあったので、私の為の行動であり、そんなものはどうでもいい。
薬草を売ったお金と言うのは、あのパラスって訳の解らない数字の事のようだ。
そんな事よりも、私も子供に生まれ変わるなんて思ってもいなかったので、そちらの方に驚いている。
まだ実感はないが、またシーとの新な生活が始まるのかぁ...