【 8 】
ボールウィン王立学園は名前の通りボールウィン王国が運営する学校だ。
ある一定以上の学力があれば誰でも通うことができる。
別名「貴族院」とも呼ばれ、学習内容は語学・数学・歴史などの基礎知識と、貴族特有のマナーやダンスなどだ。
専門知識を学べる研究棟もあるので、この学院で良い成績をとれば平民や下級貴族でも出世が期待できると、真面目な生徒が多い。
俺も無事最高学年へ進級した。
クローディア、ユリウス、ヒュー、ミゲルも同じく進級し、当然のように成績優秀者が集うクラスになった。
「お久しぶりです、殿下」
始業前の教室に入ると、ユリウス、ヒュー、ミゲルが近付いてきた。
「夜会以来だな、変わりなかったか?」
「はい、おかげさまで。それであの話なのですが」
「あの話?」
ユリウスが、真剣な顔で言うので何事かと身構える。
「クローディアのことだ」
小さいが憮然とした声でヒューが言う。その様子はなんだか苛立っているようだ。
そう言えば夜会の最後にそんな話をしていたな。
「それは今じゃなきゃ駄目なのか?」
「できればクローディアが来る前に、対策を考えたいのです」
何でそんなにクローディアを目の敵にしてるんだ?
クローディアはお前たちに何かしたのか?
「皆さん、席に着いてください」
俺が答えに窮していると、教師が教室に入ってきた。
3人はため息をついて、そろって席へ戻って行った。
ふと思い出して教室を見回す。
クローディアの姿はない。カトリーヌとピンクの髪が見える。
顔は覚えていないが、俺にワインをかけたのはあのピンク色だった。
「今日から皆さんの担当になる。モーリブ・ミルンです。今日から新学期です。最終学年でもありますから、みなさん将来のためにも今まで以上に勉学に励んでください」
始業日は授業がない。
午前中全部を使ってオリエンテーションと委員会代表の選出などが行われる。
毎年の恒例行事なので、教師も生徒も慣れたものでどんどん進んでいく。
俺やあの3人は進級テストの上位から順番に割り振られ生徒会役員になることが決まっているので、進行を見ているだけだ。
自慢じゃないが俺は座学だけは意外と成績がいい。
この2年間でパーフェクトを逃したのは2回だけだ。
ぼんやりと教室を見回しながら、決まっていくメンバーを確かめる。
カトリーヌは図書委員。カトリーヌは毎年図書委員だが、本を読んでいるところは見たことがない。
あのピンクの髪は、まだ入っていないな。
なんて思っていると、
「ではこれで、今日は終了です。明日は入学式もあります。明日、お手伝いをお願いした人は時間に注意して登校してください」
午前中が終わってしまった。
教室内はほっとしたような空気になり、休み明けの挨拶の続きが始まる。
俺は自分にその目が向く前に逃げ出そうと立ち上がった。
それを待っていたように、ユリウスが俺を捕まえる。
「殿下、サロンを予約してあります。そちらへ行きましょう」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
不定期更新になりますが、
次話も、よろしくお願いします。