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【 5 】








「ジーク、ジークは本当にクローディアを疑っているのか?」


 自室に戻ってすぐ、俺はジークハルトにそう尋ねた。


「どうしたんですか? あの答えでは納得がいきませんでしたか?」

「いや、そう言うわけではないんだが」


 クローディアは、俺をなんとも思っていない。

 少しでも興味をもってクローディアを見ると、名実ともにただの政略結婚の婚約者だと思い知らされる。

 そのクローディアがわざわざそんなことをする意味がわからない、とは言いにくい。


「クローディア様は殿下の婚約者ですが、我々が会うのは王宮の夜会のみです。ご予定や行動については報告をもらいますが、お考えや性格、ご本人の人となりなどは全く分かりません。知りようがないので、婚約者といえども信頼はありません。それは疑うとかの問題ではないのです。消去法です」


 ジークハルトは困ったようにそう言った。

 確かにそうだ。

 俺だって今日もしクローディアと入れ替わらなければ、今もこんなにクローディアに興味を持たなかったろう。

 興味を持たなければ、きっと疑ったろう。


「うーん、じゃあ……ジークは、クローディアの噂を知っているか?」

「それはどのような噂でしょう」


 今日は良く聞き返される日だな。

 俺はユリウスたちから聞いた話を思い出す。


「クローディアが俺の婚約者っていう立場を利用して、俺に近付く女性に嫌がらせをしているとか、近付くと命がないとか」

「それなら知っています。もっとひどいのもありますよ」

「それって、俺に報告あったか?」

「いえ、報告はしていません」

「なんでだ?」


 問うと、ジークハルトは分かりやすく目をそらした。


「………殿下の、ご指示でしたので」

「あっ」

「思い出しましたか? クローディア様が婚約者に決定した時、殿下がクローディア様の事は何もしなくていいと指示されました」


 そうだ俺が聞きたくないと言ったんだ。


「そう、だったな」


 今日は、厄日だ。どんどん気分が落ち込んでいく。

 でも、ここまで聞いてしまったら、納得するまで聞いた方がいいだろう。

 気を取り直して、俺はジークハルトを見た。

 

「で、ジークはクローディアが噂のようなことをすると思うか?」

「本当に、どうしたんですか? クローディア様に興味が出ましたか?」

「いや、それは……」


 俺は、そこで言葉を飲んだ。

 クローディアが、ワインをかけられたことを伝えるべきか迷う。


「何か気になることがあるんですか?」


 何かあるなら言ってください、とジークハルトに促される。


「それが……ワインをかけられたんだ」

「はい?」

「近付いてきた女が躓いて、その女が持っていたワインがちょうどクローディアの方に飛んできた。運悪く、頭からそれをかぶった」

「それはいつですか?」

「挨拶を終えて、クローディアが俺から離れてすぐだ」


 カトリーヌのあの勝ち誇ったような笑顔を思いだす。


「本当に、すぐじゃないですか!」

「ああ、クローディアが離れてすぐ、友好的ではない令嬢たちに取り囲まれた。彼女たちが話し終わったと同時にワインが飛んできた」

「たまたま、ではなさそうですね」

「俺がかけられたから言うわけじゃないが、手慣れていたように思う。囲みの令嬢たちはすぐ立ち去ったし、あんなに人がいたのにかかったのは俺だけだった。たまたまにしては不自然だ」

「確かにタイミングが良すぎますね」


 ジークハルトが、眉を寄せる。


「クローディア様が正式に出席される夜会は王宮主催のものだけです。もし毎回そのようなことがあれば、報告があるはずなんですが………」

「ジークも知らないのか」

「んー、殿下の指示がない限り我々は動くことができませんから。殿下の警護に必要なことなら調べられますが、殿下から離れたクローディア様のことは管轄外なんです。クローディア様個人には護衛がいないはずですから、お一人でいるときにトラブルがあっても本人が申告しなければ報告は上がってきません」

「護衛がいない?」


 俺はごく自然にそう尋ねた。

 ジークハルトが困ったように顔をしかめる。


「はい。いませんよ。それも殿下が―――」

「いい、言わなくていい」


 思い出したくないことを思い出す。

 クローディアが婚約者に決まった時、婚約者への義務みたいなことをいろいろ教えられた。

 その中に護衛についてもあったような。


「クローディア様は後宮で生活されていますから、ほぼイライザ様と一緒にいらっしゃるはずです。イライザ様のそばにいる間は後宮付きの護衛が守るので、今は専属の護衛がいなくても問題はないと思いますよ」


 そんな訳ないだろう、と言いたいが、その根本の理由は俺のせいだ。


「ちなみに、もしエリックにワインがかかったら、どうなるんだ?」

「かかった理由にもよりますが、かけた原因の人物は要注意のチェックがはいるでしょうね」


 次回から視界にはいる位置には近づけませんよ、とジークハルトは笑った。









最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


不定期更新になりますが、

次話も、よろしくお願いします。

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