【 20 】
俺にヒューが掴みかかろうとしたところで、キャシーが
「あたしが悪いんです。あたしがクローディア様に謝ります。だからもう喧嘩しないでくださいっ!」
と、俺たちの間に割り込んで、明らかにわざと俺の方によろめいた。
受け止めるつもりはなかったが、予想外のことに避けきれずキャシーが俺に触れた。
その瞬間、その触れられた場所から嫌な感覚がぶわりと体を駆け巡り、俺は思わず身を引いた。
「きゃあっ」
「キャシー!!」
転がりそうになったキャシーをヒューが慌てて支える。
「殿下っ!! キャシー嬢が怪我をしたらどうするんですかっ!」
叫んだのはユリウスだったが、ヒューとミゲルも非難の目を俺に向けていた。
人が転びそうになっているのに助けない、確かに人としてどうかとは思うが、今は少しも悪いとは思わなかった。
どの口がそれを言うかと睨み返す。
とたんに三人の目が泳いだ。
「待ってください。あたしは大丈夫です。あたしが転んだから……」
ヒューの腕の中から、キャシーがよろよろと復帰してきた。
「キャシー、君は悪くありません」
「それより、どこか痛めたんじゃないのか?」
「そうだよ、さっき転んだばかりなんだから、無理しないで」
三人がそれぞれの声をかけると、キャシーは弱々しい笑顔を浮かべた。
「あたしは大丈夫です。でもあたしのために争うのは止めてください」
「……君がそう言うのなら」
三人はお互いの顔を見合わせてから、肩を落とした。
戦意喪失、ってところか。
キャシーはほっとしたような表情でこちらを見ると、思い切り頭を下げた。
「殿下、お騒がせして申し訳ありませんでした。あたしが転んだばかりに、クローディア様にもご迷惑をおかけしました。重ねてお詫びします」
「キャシー! 君が頭を下げる必要などありません」
「いいえ、あたしが悪いんです。だからあたしが謝るのは当然です」
キャシーは言いながら三人の腕に触れ、頭を振った。
ヒューが、ミゲルが、ユリウスが唇を噛んで厳しい顔になる。
忌々しげに俺を見て、キャシーと同じように頭を下げた。
「殿下、申し訳ありませんでした」
謝るのは俺にじゃない、クローディアにだろう、と口を開きかけたところでクローディアに袖を引かれた。
「殿下、私は大丈夫です」
小さな声で告げられれば、当事者じゃない俺は引くしかない。
俺はため息をつきながら、キャシーたちへ視線を戻した。
「キャシー嬢、ヒュー、ミゲル、ユリウス。今日のところは、君たちの勘違いと言うことでいいな?」
「はい」
キャシーは明るく、残りの三人はしぶしぶ頷いた。
ヒューは特に納得がいかない顔をしている。
ヒューはクローディア以外の犯人はいないと思っているんだろう。
昔から頭が固いと思っていたが、いつの間にか全部筋肉に変わってしまったのかもしれない。
けれどもこれだけは自信を持って言える。
クローディアは、キャシーにも俺にも興味はない。だから、嫌がらせなんて絶対にしない。
分かってもらえるか分からないが、ゆっくり話す必要があるだろう。
面倒くさいそう思いながら、俺は三人に向かって言った。
「ヒュー、ミゲル、ユリウス。話があるから生徒会室に来てくれ」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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