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王子様はギャフンと言う  作者: 水瀬


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21/24

【 20 】






 俺にヒューが掴みかかろうとしたところで、キャシーが


「あたしが悪いんです。あたしがクローディア様に謝ります。だからもう喧嘩しないでくださいっ!」


 と、俺たちの間に割り込んで、明らかにわざと俺の方によろめいた。

 受け止めるつもりはなかったが、予想外のことに避けきれずキャシーが俺に触れた。

 その瞬間、その触れられた場所から嫌な感覚がぶわりと体を駆け巡り、俺は思わず身を引いた。


「きゃあっ」

「キャシー!!」


 転がりそうになったキャシーをヒューが慌てて支える。


「殿下っ!! キャシー嬢が怪我をしたらどうするんですかっ!」


 叫んだのはユリウスだったが、ヒューとミゲルも非難の目を俺に向けていた。

 人が転びそうになっているのに助けない、確かに人としてどうかとは思うが、今は少しも悪いとは思わなかった。

 どの口がそれを言うかと睨み返す。

 とたんに三人の目が泳いだ。


「待ってください。あたしは大丈夫です。あたしが転んだから……」


 ヒューの腕の中から、キャシーがよろよろと復帰してきた。


「キャシー、君は悪くありません」

「それより、どこか痛めたんじゃないのか?」

「そうだよ、さっき転んだばかりなんだから、無理しないで」


 三人がそれぞれの声をかけると、キャシーは弱々しい笑顔を浮かべた。


「あたしは大丈夫です。でもあたしのために争うのは止めてください」

「……君がそう言うのなら」


 三人はお互いの顔を見合わせてから、肩を落とした。

 戦意喪失、ってところか。

 キャシーはほっとしたような表情でこちらを見ると、思い切り頭を下げた。

 

「殿下、お騒がせして申し訳ありませんでした。あたしが転んだばかりに、クローディア様にもご迷惑をおかけしました。重ねてお詫びします」

「キャシー! 君が頭を下げる必要などありません」

「いいえ、あたしが悪いんです。だからあたしが謝るのは当然です」


 キャシーは言いながら三人の腕に触れ、頭を振った。

 ヒューが、ミゲルが、ユリウスが唇を噛んで厳しい顔になる。

 忌々しげに俺を見て、キャシーと同じように頭を下げた。


「殿下、申し訳ありませんでした」


 謝るのは俺にじゃない、クローディアにだろう、と口を開きかけたところでクローディアに袖を引かれた。


「殿下、私は大丈夫です」


 小さな声で告げられれば、当事者じゃない俺は引くしかない。

 俺はため息をつきながら、キャシーたちへ視線を戻した。


「キャシー嬢、ヒュー、ミゲル、ユリウス。今日のところは、君たちの勘違いと言うことでいいな?」

「はい」


 キャシーは明るく、残りの三人はしぶしぶ頷いた。

 ヒューは特に納得がいかない顔をしている。


 ヒューはクローディア以外の犯人はいないと思っているんだろう。

 昔から頭が固いと思っていたが、いつの間にか全部筋肉に変わってしまったのかもしれない。


 けれどもこれだけは自信を持って言える。

 クローディアは、キャシーにも俺にも興味はない。だから、嫌がらせなんて絶対にしない。


 分かってもらえるか分からないが、ゆっくり話す必要があるだろう。

 面倒くさいそう思いながら、俺は三人に向かって言った。


「ヒュー、ミゲル、ユリウス。話があるから生徒会室に来てくれ」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


不定期更新になりますが、

次話も、よろしくお願いします。

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