【 19 】
パリンッ、という音に、俺は“俺”に戻る覚悟をした。
一瞬視界が真っ暗になり、すぐに不安そうなクローディアの顔が見えた。
「クローディア、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます、殿下」
クローディアが弱々しく頷く。
力が抜けた腕に力を込めて、ずり落ちそうになったクローディアを支え直して立たせると、ヒューたちに目を向けた。
「……お前たちの言い分は分かった」
「殿下、ではっ!」
俺の言葉に、男三人が揃って嬉しそうな表情をこちらに向ける。
「だが、私が上から見ていたのとは少し違うようだ」
「上?」
俺が視線を生徒会室のある窓に向けると、三人も上へと顔をむけ目を瞠った。
おいおい、ここが生徒会室から丸見えだって気付いてなかったのかよ。
「キャシー嬢、君はクローディアに転ばされたのではなく、そこの石に躓いて転んだんだろう?」
呆れながらも気を取り直してそうキャシーを見れば、ユリウスの後ろで逃げ場を求めるようにきょろきょろとしていた。
俺はそんな彼女を見据えて、続ける。
「上から見ていたが、君が躓いた場所とクローディアのいた場所とはずいぶん距離があった。私からは、クローディアが君を転ばすのは難しい、と思うが……本当はどうだったのか教えてほしい。キャシー嬢、本当に、クローディアが君を転ばしたのか?」
「あ、あの、あたし……あたしは……その」
そう口ごもったキャシーの答えを、俺だけじゃなく、ヒューたちも待っていた。
一息、二息、十まで待ったが、キャシーは“そうだ”とも“いいえ”とも言わず、そのままぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「キャシー嬢?」
声もなく泣くキャシーに、ユリウスとミゲルが急におろおろしだし、ヒューは俺を睨んだ。
「殿下、殿下はクローディアの味方なんだな。キャシー嬢はこんなにも追い詰められているのに、少しも寄りそう気が無い! 殿下にはクローディアがキャシー嬢を転ばしたように見えなかったかもしれないが、俺からはそう見えた!! もし、そうじゃなかったら、そう思った俺が悪い。キャシー嬢を責めるのは間違いだっ! 殿下こそ、キャシー嬢に謝るべきだ」
は? どうしてそうなる。
「何を謝るんだ? ただ真実を聞いただけで、もし誤解ならヒューがクローディアに謝れば済む話だろう」
「誤解? 今までどれだけキャシーが嫌な思いをしてると思ってるの?」
キャシーを慰めていたミゲルが参戦してきた。
ヒューはともかく、ミゲルには絶対謝らせたい。クローディアに怪我をさせてる。
「今までの話と、今日の話とどんな関係がある? 今日のことは今日のことだ。ミゲル、お前だってクローディアに怪我をさせているんだ。お前こそ謝らなければならないんじゃないか?」
「それは、クローディアがっ!!」
「何でもかんでもクローディアのせいに……」
「待ってください。あたしのために喧嘩しないでくださいっ!! 私が、皆さんに誤解させるようなことをしたのが悪いんですっ!!」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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