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王子様はギャフンと言う  作者: 水瀬


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18/24

【 17 】

 





 それは夏休みまであと数日、そんな暑い日だった。




 パリンッ




 そう、音がした。







「いい加減にしろっ!」


 怒鳴り声にゆっくりと瞼を持ち上げれば、ヒューの真っ赤な顔が目の前にあった。

 近すぎる距離に驚いてよろめくように数歩後ずさると、その背後に無表情のミゲルと、怯えた様子のキャシーを支えるユリウスの姿が見えた。


 何があったのかは、生徒会室から見ていたからよく知っている。


 もうずいぶん暑くなったと言うのに、キャシーたちはいつものように中庭のベンチで笑っていた。

 そこに、クローディアが通りかかった。

 彼らとの距離はかなりあると言うのに、急にキャシーが立ち上がって、クローディアの前まで走ってきて思い切り転んだ。

 当然、クローディアはキャシーに手を伸ばした。

 助け起こそうとしてのことだろう。

 けれども、慌てて追いかけてきたヒューが、その手を払った。


 そこで、あの音が聞こえて――――入れ替わった。





「何故こんな酷いことが出来るんだっ!!」


 ヒューはかなり頭に血が上っているようだ。俺が下がった分、詰め寄って声も大きくなる。


 酷いことって、キャシーが転んだことか?

 どこからどう見ても、クローディアは悪くないだろ。キャシーがわざわざここまで走って来て、勝手に躓いて転んだんだ。

 どこが酷い?

 意味が分からなくて眉をひそめると、ヒューの目がさらに釣り上がり、距離を詰められた。


「キャシー嬢があんたに何かしたか? 何故キャシー嬢を目の敵にするんだっ!!」


 顔にツバがかかりそうな勢いにまた数歩後ずされば、今度はミゲルが睨みつけながら近付いてきた。


「クローディア、キャシー嬢を転ばせたくせに、謝りもせずに逃げるつもりっ!?」


 逃げるも何も、ヒューに詰め寄られたらお前でも怯むだろ。こいつはガタイだけはいいんだから。

 それに、クローディアが転ばせたんじゃない、キャシーが勝手に転んだんだっ!


 そう言い返したかったが、とりあえず我慢する。

 反論するにも、もう少しこいつらの言い分を聞きてからの方がいいだろう。


 だって、今の自分はクローディアではないのだから。


 俺が何も言い返さないからか、ミゲルはこの間聞いた嫌がらせとやらをあげつらう。


「クローディアは一体何がしたいの? 教科書を破ったり、文房具を隠したり、ダンスレッスン用のドレスを汚したり……この間はわざわざ呼び出したんだって?」


 クローディアが呼び出した? キャシーが呼び出したの間違いだろう。

 それも俺専用の便箋を手に入れてまで。


「呼び出してキャシー嬢に一体何するつもりだったの? 殿下に近付くなって脅すつもりだった?」


 こいつは一体何を言っているんだ?

 クローディアがそんなことするわけないだろう? 時間も無いし、そもそも俺に興味が無いのに、俺に近付く女なんてもっと興味ないだろう。


「キャシー嬢はずっと怖がってる。今度は何されるかって」


 責める口調なのに得意顔なのがすごく気味悪くて眉を寄せれば、それが気にくわなかったのかミゲルが俺の二の腕を掴んだ。


 ―――おいっ! 勝手にクローディアに触るなっ!


 かっとなって、思い切りその手を払おうとしたが、クローディアは相変わらず非力だった。

 俺たちの中でも力の弱いミゲルの手さえ払えないばかりか、自分の方がその力に振り回されてよろけた。

 ミゲルの手が腕に食いこみ、強い痛みが走る。


「いっ!」


 思わずそう声をあげると、ミゲルの手から力が抜けてバランスが崩れた。

 今度は転ぶのかと身構える。


 が、体が傾く前に強い力で支えられた。

 そして、頭の上から聞きなれた≪俺≫の声がした。


「何をしているんだ?」






最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


不定期更新になりますが、

次話も、よろしくお願いします,

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新待っていました。 王子とクローディアがまた入れ替わりましたね。 次回がとても気になります! [一言] 二人がお互いの事をどう思っているのか気になります!
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