【 16 】
「ジーク、これを見てくれ」
城に戻ってすぐ、俺はクローディアから受け取った手紙を、すでにしかめっ面のジークハルトに渡した。
「これは?」
「キャシーがクローディアを呼び出すために使った手紙だ」
「……殿下が使っている用紙と同じものですね。キャシー嬢がお持ちだったのですか?」
ジークハルトは暫く紙を眺めたあと、そう眉をひそめる。
「あぁ、そうらしい」
「一体どこでこれを手に入れたのでしょう。銀の縁取りも印も……これは本物と同じですが……通し番号がありませんね」
「通し番号?」
「はい、用紙と縁取り、箔押しが特注なのはご存知ですね」
それは知っている。俺専用の色に装飾縁、印が押されてる。公務でも私信でもそれ以外は使えない。
「他に納品後魔術省で王家所有の魔法を施し、その後こちらで偽造防止のため透かしの通し番号を入れます。使用後は送信簿に相手先を入れ、証明印を魔法で添付します」
「それはまた、とてつもなく面倒な事を」
「そうですね。とても面倒です。ですが私たちはそれをやるのが仕事です。やっているからこそ、何かあった時役立つんですよ。この紙一枚で戦争が起ることだってあるんですから、王家の名がつく物はすべて管理する必要があるんです」
言いながら手紙を封筒にしまう。
「通し番号がありませんし、殿下の証明印はこちらでも確認できます。ですが王家所有魔法はこちらでは無理です。明日にでも魔術省に確認させます」
「それで何が分かるんだ?」
「……用紙の納品は一年に一度、魔法省が受け取り保管しています。必要枚数を指定すれば、所有魔法を施しこちらの物品庫に送られます。ですから所有魔法がなく、在庫枚数の残が合っていれば、王宮内での紛失でない事が分かります」
呆れたような目で見るけど、俺にそんなことを期待するのは間違いだぞ。
「もしあれば?」
「魔法省内の紛失です。なければ、納品前ですが……どちらにしても、とてつもなく大事になるでしょう」
真剣な目がすごく怖い。
あのピンク頭、なんてことしてくれるんだ。
「キャシーに、入手先を聞いてみたほうがいいだろうか?」
「それはお待ちください。こちらで調べてみます……魔法省の調査が終われば、ある程度用紙を持ちだせる人間を絞れますから」
「分かった、それはジークに任せる」
「それから、ついでにお友達も調べさせていただきます」
「ミゲル達のことか?」
「殿下が隠していらっしゃるようでしたから、黙っていましたが、最近彼らもおかしな動きをしていると報告が来ています」
確かにあいつらはおかしい。だけれど。すぐに頼むとは言いたくない。幼馴染を疑うような事はしたくない。
「要職の御子息たちですが、殿下に害を与えるようなら黙ってはおけません」
ジークハルトの目は俺の答えを待っていない。これは決定後の報告た。
「分かった。頼む」
仕方なく頷けば、かしこまりましたと頭を下げた。そして、ついでのように、
「クローディア様は、キャシー嬢の話を何とおっしゃっていましたか?」
と、尋ねてきた。俺は肩をすくめる。
「理解できない話の後、俺と婚約を解消しろ、と言ったそうだ」
「婚約を解消、ですか?」
ジークハルトが目を瞠る。
「それはまた大胆な申し出ですね」
俺もそう思う。そんなことクローディアに言ってどうなる事でもないのに。
「あぁ。クローディアは、それは出来ないと応えたそうだ」
「そうですか……そうでしょうね」
俺とジークハルトは何とも言えない顔でため息をついた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
不定期更新になりますが、
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