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王子様はギャフンと言う  作者: 水瀬


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15/24

【 14 】








 学園生活は忙しい。

 授業と生徒会、昨年とほぼ同じ日程のはずなのに、会長と言う役職は思ったよりもやることが多かった。

 昨年までは上級生がいて、その指示に従っていればよかったが、今年はその指示を自分が出し、その責任を負うことになると思うと流石に慎重になる。

 せめて昨年と同じくらい出来ていればいいが、先輩たちのことを思い出すと足元にも及んでいない……気がする。

 そして一番の問題は、ユリウス、ミゲル、ヒューが最近キャシーにかかりきりで、生徒会の仕事をおざなりにすることだ。

 おかげで、生徒会長としての仕事のほかに、去年まで一緒にやってきたことを今年は一人でやっている。

 もちろん他の役員にも仕事は振っているが、新人も多いし、俺の教え方が悪いのかなかなかうまく回っていかない。

 こう言うのはいつもユリウスがやってくれていたのに。


「頼り過ぎていたのかな……」


 ため息をついて生徒会室の窓から中庭を見下ろすと、大きな木の下のベンチにキャシーを中心に笑っているユリウスたちを見つけた。

 生徒会室からわざわざ見える位置で、あんな事をしているなんて。


「あいつら、一体何考えているんだ?」


 キャシーとのお茶会に何度誘われてもよい返事をしないでいたら、彼らは生徒会をさぼるようになっていた。

 一応毎日声をかけるようにはしているが、二言目にはキャシーと言うので、だんだんと距離が出来ている。

 子供の頃から一緒にいたのに、まるで知らない者を見ているようだ。

 いずれ、自分と共に兄を補佐する予定の仲間なのに、このままではきっと一緒にいられなくなるのではないだろうか。


 ……そんな気がする。










「殿下、今日はクローディアが登校しています」


 登校してすぐだった。

 俺が座るより先に、ユリウスが近付いてきて、挨拶もなしにそう言った。


「あぁ、そのようだな」


 教室の後方、自席に座り教科書に目を落としているクローディアの姿を視界にとらえて頷く。


「それがどうかしたのか?」


 クローディアだってこの学園の生徒だ。登校するのは当たり前だ。来てない方がおかしいのだ。


「殿下、キャシーが嫌がらせを受けています」

「嫌がらせ?」

「はい。教科書を破られたり、文房具を隠されたりと、些細なことですが……」


 なんだ、その子供じみた嫌がらせは。


「……教師には伝えたのか?」

「いえ、まだ言っていません」

「何をやっているんだ? そう言ったことは小さなうちに対処するのが肝心だろう? いつもお前もそう言っているじゃないか」


 もし学園内で大なり小なりそんなことがあるなら、それは学園の警備や管理体制に問題があると言うことだ。

 そして、学生であっても犯罪まがいの事とする生徒がいるならば、それは早めに正されなければならない。

 だが、俺の言葉に、ユリウスは顔をしかめる。


「何だ? 何か言えない理由でもあるのか?」

「いえ。そうではありませんが……キャシーが大事にしたくないと言っています」


 また、キャシーか。


「エスカレートする前に対処したほうがいいだろう。キャシーがどう言おうと、早く教師に伝えたほうがいい」

「ですが……」

「何だ……何が言いたい?」

「それは、殿下だって分かっているでしょう?」


 いや、さっぱり分からない。


「一体何なんだ。はっきり言ってくれ」

「クローディアですよ」


 俺が問うと、ユリウスは小さな声ででそう言って、ちらりとクローディアの方へ視線を動かす。


「……クローディアがやっていると言いたいのか?」

「そうではありませんが、もしそうなら……」


 言い方が気に入らない。

 こいつらは、最初からクローディアだと思っているんだろう。


「なら、なおさら、学園に報告しよう。私から教師に伝えておく」


 なんだか面倒くさくなりそうなので、俺はそう言って椅子に座る。

 教科書を出して、暗にもう終わりだとアピールするが、ユリウスはその教科書を押さえた。


「殿下、キャシーの気持ちも考えてください。もし大事になれば、今よりひどい嫌がらせになるかもしれないんですよ!」


 怒鳴りつけるように言われて、俺は眉を寄せた。

 不敬、とは言わないが、友人としてもこの態度はどうだろう?

 何より、こんなユリウスを見たことがない。

 だが、言っていることは一理ある。

 告げ口は、嫌がらせをかえって煽ることもあるだろう。


「……なるべく極秘に調査してもらうよう言っておく」

「殿下! 私が言っているのは……」

「もうこの話は終わりだ。お前たちがずっとついているんだから、十分注意してやればいい。それと、本人にも持ち物や身の回りに気をつけるよう言ってくれ」

「分かりました。私たちはキャシーの側にいます。なら、殿下はクローディアを見張っていてください」


 吐き捨てるようにユリウスは言って、俺に背を向け心配そうにこちらを見ているキャシーとミゲル、ヒューの方へと向かって行った。

 俺は周囲を見回した。教室内は始業前のざめわきで、誰も俺たちに注意していなかったようだ。

 何故かほっとして息を吐くと同時に、ちょうどチャイムが鳴った。









 お昼休み、ユリウスたちの視線が痛い。

 俺は彼らを見ないようにしてクローディアへと近付いた。


「クローディア」

「お久しぶりです、殿下」


 声をかけるとクローディアは立ち上がって頭を下げた。


「よければ一緒にランチをどうだろう?」


 クローディアの予定は知っているが、なるべく自然にそう誘ってみる。

 クローディアの目が大きく見開く。まぁ、そうなるのもしょうがない。


「申し訳ありません、お昼は学長のお話を聞くことになっていますので……」


 どんなに自然に誘っても、不自然だよな。


「あぁ、それは知っている。できれば私も一緒に聴講したいのだが。どうだろう?」

「……私の一存では……」

「そうだな、では一緒に学長室まで行って学長にお願いしてみよう」

「はぁ」


 クローディアは何とも言えない顔で頷いた。


「そう言えば、私からの手紙は受け取ってもらえたろうか?」


 クローディアをエスコートしながら尋ねる。

 ジークとの約束通り、お茶会のお誘いをしておいたのだ。


「はい、受け取りました。今は少し忙しいので、夏休みが始まってからでも構いませんか?」

「あぁ、私はいつでも構わない。連絡をくれたら合わせよう」

「ありがとうございます」

「あと、何か食べ物で好きなものがあるなら教えてもらいたい。せっかくだからクローディアの好きな物を」


 俺がそう言うと、クローディアはふわりと笑った。

 作り笑いではない、本当に楽しそうな笑顔だ。


「この間のお菓子もとてもおいしかったので、次回も殿下が選ばれるお菓子を楽しみにしていますわ。私も殿下がお好きなものを知りたいと思いますから」


 教室の向こうで、ユリウスたち―――――だけじゃない。殆どの生徒が驚いた顔をしていて、俺はかなり気分が良くなった。









最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


不定期更新になりますが、

次話も、よろしくお願いします。

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