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王子様はギャフンと言う  作者: 水瀬


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14/24

【 13 】








 次の日、登校してすぐ、ヒューたちが集まってきた。

 挨拶もそこそこに三人は声をそろえて同じことを言った。


 ほらあれだ。クローディアがいつ登校するかを、だ。

 凄いな。そんなにクローディアが気になるのか。

 もしかして俺よりクローディアのことを知ってるんじゃないか?

 まるで、俺より婚約者みたいじゃないか、と思ったが飲み込んだ。


「クローディアなら、視察で学園は暫く休むそうだ」

「視察、ですか?」


 ユリウスが疑うように俺を見る。


「あぁ、兄たちの視察へ同行している」

「……そうですか」


 ユリウスたちは納得いかない表情で、それでも頷いた。

 おい、お前ら俺まで疑うのか?

 ちゃんと公務になっている。ジークハルトが言うんだから間違いないぞ。

 何か言いたげなユリウスたちの次の言葉を待っていると、始業のベルが鳴った。





 午前中の授業が終わると同時に教師に呼び出された。

 そのまま午後いっぱい、放課後に行われる生徒会の顔合わせについての打ち合わせとなり、その流れから俺は先に一人で生徒会室に居た。

 この後新生徒会の初めての顔合わせが始まるからだ。


 生徒会は各クラスの成績優秀者から三名から四名が選ばれる。

 生徒会に選ばれると将来がある程度約束される。

 希望の職がある者はもちろんだが、下位の爵位しか持たない者や庶民から試験を受けて入学した者は、特に頑張る。

 学園の学力の底上げと、才能ある者を見つけるのに役立っていると言う。


 終業の鐘が鳴り、ぞくぞくと今年生徒会に選ばれた生徒たちが入室してきた。

 みな少し緊張した面持ちで、周りの様子をうかがっている。

 俺は窓際の椅子から立ち上がり、彼らに端から席に着くよう指示をだす。

 いつもならヒューたちがやってくれるが、まだ来ていないので仕方がない。


 ほぼ席が埋まったころ、ようやくヒューたちがやってきた。

 いつの間にかキャシーと一緒に行動する仲になっていたのか、当たり前のように四人で俺の側へとやってきた。

 俺はキャシーの顔を盗み見る。

 そして、ドジだと言いながらクローディアにワインをかけた女だと確認した。

 少し媚びるような笑顔に見えるのは、ワインの恨みがあるからだろうか?


「殿下、アレイン男爵家のキャシー嬢です」


 ヒューがいつになく格好をつけて、そうピンクの髪の女を紹介した。

 もうすでに席についている他の生徒たちの前ですることではない。

 学園で身分はそんなに重視されていないが、やはりそれなりのルールはある。

 俺たちが誰かをひいきにしすぎると軋轢が生まれる。

 ヒューたちは最初から俺の側近として名が挙がっているが、キャシーはただでさえも特別感があり噂になっている。

 同じクラスとはいえ、突然この仲間に入れるのは良くない。

 だが、ここで今それを言うのもはばかられた。


「アレイン男爵家の長女、キャシーと申します。殿下。生徒会に参加させていただくことになりました。よろしくお願いいたします」


 それなりに綺麗なカテーシーをして、キャシーがそう言った。

 俺は頭を上げさせ、笑顔を張り付ける。


「生徒会長のエリック・ボールウィンだ。忙しくなると思うが、頑張ってほしい」

「はい」


 当たり障りのないことを言うと、キャシーは、にっこりと柔らかい笑顔で小首を傾げた。

 ピリピリと背筋に嫌悪感が走る。

 何だろうこの感覚は、女性は苦手な方だが、キャシーに感じるのはそれ以上だった。


「もう会が始まる、席についてくれ」


 俺はそう言って、彼らから離れた。







「殿下、この後少しキャシー嬢も交えて、お茶にしませんか?」


 会が終わって、一息ついていると、ユリウスがそんなことを言った。

 いつも眉間にしわをはりつけている奴が、何故か笑顔だ。

 キャシーは上目遣いでこちらを見ている。

 どっちもとっても気持ち悪い。


「いや、悪いが今日は城で少し所要がある。君たちだけで楽しんでくれ」


 キャシーの前なので余所行きの態度でそう言う。

 キャシーと一緒にお茶なんて、とてもじゃないが無理だった。

 キャシーがこちらを見るたびに、ぞわぞわと虫が這いまわるような感じが全身を襲うのだ。


「じゃあ仕方ありませんね」


 と、ユリウスが言い、キャシーは悲しそうな顔をした。

 途端にヒューが寄ってくる。そして、


「では、明日はどうですか」


 なんて言った。一瞬何のことかと思っていると、


「キャシー嬢はお菓子作りが得意なんだそうです。明日作ってきてくれるそうですから、明日お茶会をしましょう」


 なんて続けた。

 こいつら本気で大丈夫か?


「ヒュー、学園に食品の持ち込みは禁止だろう」

「そうなんですか!」


 俺の言葉に、キャシーがそう声を上げた。

 急に大声を上げたので、残っていた生徒たちがこちらを見た。


「殿下、そんな堅苦しいことを言わなくても。せっかくキャシー嬢が……」


 周りの様子に気が付かないのか、ヒューが割って入る。


「ヒュー、生徒会役員がルールを破るのは良くない。他の生徒の見本になるのが我々の仕事でもあるのだから」

「ですが」

「いいんです、ヒュー」


 食い下がるヒューの腕にキャシーが手をかけて止めた。

 呼び捨てにも、ヒューを触ったことにも驚いていると、キャシーは瞳を潤ませた。


「殿下、申し訳ありません。あたし知らなくて……これからは気をつけますので、また何か間違っていることがあったら教えてください」


 はぁ? 何で俺が教えなきゃならないんだ、と思ったが、いろいろ驚きすぎて声にならなかった。

 心を落ち着けるため、こっそり深呼吸する。そして、


「まだ編入してきたばかりだろうから、分からないことも多いだろう。だが生徒会に入った以上、学園の生徒の見本とならなければならない。大変だとは思うが、ルールは早めに覚えて欲しい。ルールはユリウスが詳しいから、良く聞いてくれ」


 お前たちもう仲がいいんだろ? だったらちゃんと指導しろよ、と目配せする。

 ユリウスの眉間に少しだけしわが戻る。

 何だ? その表情。いつもお前が俺にルールを守れと言うじゃないか。

 何故か無性にイライラした。


「じゃあ、私は次があるのでこれで。また明日」


 まだ何か言いたげな四人を残して、俺は生徒会室を後にした。








最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


不定期更新になりますが、

次話も、よろしくお願いします。

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