【 11 】
「今日、クローディアが学園に来ていなかったが、何か知っているか?」
城に戻って、俺はジークハルトにそう聞いた。
「クローディア様なら視察に出ていますよ」
「視察?」
「はい」
王族が視察に出ることはよくある。
兄も俺も子供のころから勉強の一環として、よく視察へ送り出されていた。家を継ぐ予定の者たちも領地や他国へ視察に行くことは推奨されている。
ただ在学中は、学園内での生活を優先し、よほどのことがない限り学校が休みの時に行うよう指導される。
「レイスタンス家に関係ある視察か?」
「ちょっと待ってください。今資料を持ってきます」
ジークハルトはそう言って、厚めのファイルを持って来た。
「えーっと、王太子殿下と婚約者様が行われる視察のようです」
「兄上の? 何故クローディアが兄上たちの視察についていくんだ?」
「イライザ様からのご要望のようですよ」
イライザは俺の兄・クリストファー・ボールウインの婚約者だ。
確か、フルネームはイライザ・バレリアル、男爵令嬢だ。
俺がクローディアを選んだお茶会で、兄はイライザと運命の恋に落ちたんだそうだ。
身分違いだと反対されそうなものだが、花嫁選びのお茶会にイライザを招待したのは王家だ。彼女はそのままの身分であっという間に婚約者の座におさまった。
兄もイライザもそれなりの美男美女なのも手伝って、世紀のラブロマンスとして世間を騒がせ、2人の人気はうなぎ登りだ。
運命の恋人たちを見たいという声が多く、あちこちから視察の依頼が殺到しているというのを聞いたことがある。
だが、
「……クローディアは何のためについていくんだ?」
「どうしてかは分かりません。この資料にはイライザ様からの依頼としかありませんから」
「……明日は学園に来るのか」
「あー、今回の視察は向こう一ヶ月の予定ですね」
「はあ?」
予想を超える長期の答えに、俺は言葉を失った。
ありえないだろう?
一応《王子》扱いの俺だって学生だからと免除されているのに、何でクローディアがそんなに視察に同行するんだ。それもイライザの、兄の婚約者の要望って。
「それって、今回が初めてとかなのか?」
「あー、いえ、年の半分は視察へ行っているようですよ」
「半分? 学園はどうしてるんだ?」
「王家の方から学園へ、授業と行事、生徒会への参加は免除してもらっているとあります」
俺は言葉を無くす。
「さすがに試験は免除されてないみたいです。ほとんど学校に行っていないようなのに、3年間上位10番以内から落ちたことがない、素晴らしい成績ですね」
ページをめくりながら、ジークハルトは感嘆の声を上げた。
「おや、殿下とクローディア様は3年間同じクラスですね」
「そうみたいだ」
俺が肩をすくめながらそう言うと、ジークハルトは大きくため息をついた。
「もしかして、クローディア様が出席していないのを、今まで気がつかなかったのですか?」
「……あぁ」
言いたくないが、今年初めてクローディアがどのクラスなのか見たのだ。
今までは自分のクラスを確かめれば、同じクラスが誰なのかあまり気にしていなかった。
幼馴染たちがいつの間にか周りに集まれば、他の生徒は用がない限り寄ってくることもない。
基本男子と女子は別々に授業をすることも多い。男子ならともかく女子を気にすることはダンスの授業くらいだ。
「そう言えばダンスの時間にクローディアと踊ることがなかったな」
授業とはいえ、学園もいらないもめ事は作りたくないのだろう。婚約者がいる生徒はなるべく婚約者とペアになるようにするのだ。婚約者が不在の時は同じように婚約者がいる者同士、婚約者がいない者はいない者同士にする。
俺は試験の時に踊る以外、免除が多かった。
「あれはクローディアが休みだったからか」
今ごろ、思いついてしまった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
不定期更新になりますが、
次話も、よろしくお願いします。




