読まれた!
兄を連れて自分の部屋に向かう私は先にドアノブに手をかけた。
あっちから呼べと言ってきたとはとはいえ、やっぱり先に私が入った方がトウマも安心するだろうという私なりの配慮である。
「連れてきたよ〜」
私が自分の部屋に戻りトウマを見るとハッと息を飲んでしまった。
なぜなら、自分のオリジナル小説を読んでいたからであり、それを見た私は変な汗が止まらなくなっていたのだ。
「おお、カリンか、カリンの兄もいるみたいだし暇つぶしは終わりだな」
そう言いながら私の机の上に原稿用紙を綺麗に置き直した。
つい気になったので聞いてみる。
「読んだの?」
「ああ」
「ああ...じゃないわよ!何勝手に読んでるのよ!」
「何怒ってんだ...、別にいいだろ減るもんでもないんだしさ」
こいつは反省してないなと言動でわかる。
女の子の私物を勝手に漁るなんてトウマの気がしれない。
「たしかに減るものじゃないけどね、私の作った小説を勝手に読むなんてどうかしてるわ」
「なっ...、そこまでいうなら一応謝っておくすまん」
なんだかんだ言いながら謝ってくれたので許す。
「まあ、謝ってくれたし...今回は許してもいいかな」
「でもカリン、お前文才あるな!基本活字なんか読まない俺が読んでも結構面白かったぞ」
「本当!?」
私は食い気味に彼へと顔を近づけた。
自分の作品を面白いと言われることに嬉しさがこみ上げてくる。
「どの辺が面白かったの?」
「まあ、そうだな...主人公の人形使いがだんだんと町の皆に好かれていく過程がしっかりと書かれていたのが良かったかな、最初の女の子に人形遊びで笑顔をあげる話なんかはとても良くできてると思ったな」
「導入部分は大事だと思ったから丁寧に書いたんだ、トウマちゃんと読んでるじゃん」
私は嬉しさのあまり彼の腹に軽く肘を当てると、彼は「当然」と答えた。
「俺は面白いものは素直に面白いというぞ、逆に面白くなかったら何も言わずにもう読んでなかったと思うしな」
確かに彼は私達が入ってくるまでの間ずっと私の小説を読んでいたことになる。
そのページ数も10枚ほど行っていたと思うので結構読んでいるなとは思っていた。
私が兄を呼んでくるあの僅かな時間にそこまで読んでいたという事は速読だとしても面白かったという事だろう。
さっきまでの恥ずかしさは既にどこかへ飛び去っていた。
彼のこの顔は嘘をついているような感じではない。
本当の本音で面白いと言ってくれているのだと思うと何かこみ上げて来るものがある。
ついつい口走る私。
「トウマ...もし良かったらまた今度私の物語を読んでくれない?新作書くから」
「おっ?いいけどもう怒らなくていいのか?」
私は首を縦に振り「いいよ」と答える。
「トウマに面白いって言って貰えたことの方が何倍も嬉しかったから...」
そんな私の顔を見ないように後ろを振り向いた彼は小さく呟いた。
「その顔はずるいだろ...」
小さく呟かれた彼の本音。
だが私はその言葉を聞き取れていなかったので聞き返す。
「何か言った?」
「何も言ってねーよ!」
「何よ!気になるじゃない!」
私は彼に何度も尋ねてみるが答えてくれる気配はない。
そんな私達のやり取りを見ていた兄は静かに笑っていた。