己の理想
「今日カリンの兄は家にいるか?」
俺は彼女に聞いてみると、不思議そうな顔をした。
「え...っと兄さんなら家に帰ればいると思うけど、どうしたの?」
「いや、ちょっと用があってな...、今日カリンの家に遊びに行ってもいいか?」
「別に構わないけど...」
俺は彼女の承諾を得ると、目線をそらして彼女から離れる。
あの時の光景をもう一度脳裏に浮かばせる。
あの数の剣を錬成する方法が何かきっとあるはずなのだ。
俺はそれが知りたい。
〜放課後〜
世界が夕日に染まる時間が今日も来る。
先生の授業終了の声が教室内に響き渡ると、学校が終わる合図のように皆が教室から出て行く。
「カリン帰るぞ」
「ちょ!待ってよ!」
俺が急かす様に帰り仕度をしたので、彼女は不機嫌になりつつ俺の横を歩いている。
そんな俺を見た彼女は、こんな事を呟いた。
「ねぇトウマ、なんかあった?」
「いや...別に...」
そう彼女には伝えるが、きっとすぐにバレるだろう。
こういう時の彼女の感は冴えているのだ。
「はは〜ん...さてはこの前の事で兄さんにまた何か教わろうって魂胆ね...」
図星を突かれたので言葉に詰まる。
「...」
「大丈夫だって!私は応援するよ、頑張ってる人を見るのは好きだから」
彼女はそう言いながら笑顔で歩き出す。
余りにも美しい表情に俺は思わず見とれてしまう。
やっぱりあの時だ。
あの時カリンに助けられた事により、俺の理想の女の子が彼女になってしまっているのだ。
俺にとって頼りになるカッコいい女の子...、それがカリンという人。
またその子に助けられたとなっては男として恥だと思い、俺は心底悩んでいた。
(どうしたらもっと強くなれる...?)
そんなことばかり考える。
迷いの袋小路に差し出した光が彼女の兄だったのだ。
彼の活躍を見たとき、俺もあんな風になりたいと心の奥底から思えたのだ。
笑顔で敵を倒し市民を守る...。
言葉にすればこんなにも短い文字なのに、実際に実行しようと思うと難しい事この上ない。
もう少しで彼女の実家が見えてくる。
ついに家の間に立った俺は大きく深呼吸をし、彼女の家の玄関に手をかけた。