実はね...
彼女は私をギルドの裏路地へと連れ込み、何処と無く深刻そうな表情でこう呟くのでした。
「実はね...、もう少しでローシュが遠征から帰ってくるんだよ...、その時になんて伝えたらいいか考えていてね...」
「なるほど...、まだローシュさんはお腹の事を知らないんですよね?」
「ああ...、ローシュの遠征中に知ったからな、だからこそなんて伝えようかと思ってね...」
(なるほど...、エルシーさん以外と乙女なトコあるんですね〜)
いつもエルシーさんのカッコいい所しか見てこなかったので、私の中で彼女は冒険者と踊り子を両立させた凄いプロとして見ていました。
でも...、やっぱりそんな彼女でも女の子らしい部分は持っているのだと今理解します。
少し考えてから私は答えを出しました。
「そうですね...、聞いておいてなんですが、やはりエルシーさん自身の口から答えるのが1番だと思いますね」
彼女は私の答えを聞くと、一度大きなため息を吐いて髪を掻き毟りました。
「やっぱそうだよな〜...、こんな事を子供に聞く私もどうかしてるけど吹っ切れたわ、ありがとう林華」
「どういたしまして」
そう、こう言う話は直接聞いてあげるのが1番効果があるのだ。
大抵の人物は内に秘めた隠し事を話せなくてストレスが溜まっている場合が多く、それを聞いてあげるだけでもストレス解消になるのである。
女性とは共感されたい生き物なので、できるだけその人の目線に立ち反対意見を言わない事を心がけるだけで不思議と女性という生き物は気分が良くなる物なのだ。
これは私が現代日本を生き抜くために身につけた技術である。
まあ、まさか異世界でも通用するとは最初こそ思いもしなかったが、やはり異世界でも女性の考え方はあまり変わる事は無かった事が幸いし、私は何度も困っている女性を救ってきた。
自分でも時々自分が本当は小学生ではないのでは?と思う事がある。
明らかに思考の速さが子供のそれではないと幼いながらに理解している自分が少し気持ち悪くあるが、それも前世の記憶というチートがある事による副作用に過ぎないのだろう。
(前世の記憶ってやっぱりチートね、色んなライトノベル読んできたけど、前世の記憶って大概チートになりかねないものね)
私はそう思いながら、エルシーさんの話を真剣な表情で聞き続けるのでした。
明るい世界...。
ただただ眩しい光が私の部屋に差し込み美味しい空気が一杯に広がる空間にあるのは少女の好きな物のみ。
少女は何となくその場にあった紅いアメ玉を口に含んだ。
「甘い...」
程よい甘さに舌を唸らせる少女。
娯楽こそ少ない物の、少女にとってこの空間はとても過ごしやすい物であった。
別に食事をつくたなくても念じるだけで好きな物が出現し味も素晴らしい。
洗濯をしなくても魔法を使うだけで全身が新品同様に新しくなる為、別に風呂に入る必要もないのである。
ただ...、自分の知っている事以上の事が出来ないのは堪らなくストレスではあるのだが...。
逆に言えば自分の知っている最高の愉悦を常に味わえるという事ではある。
それ故に自由がないような気がした。
自分の知っていること以上の事は物理的に行えないという歯がゆさが少女を苦しませ続ける。
何でもできるが何にもできない。
それが世界の選択権を得るために少女に課せられた代償。
それでも少女は静かに待つ。
一時的に精神が崩壊した物の、すぐ様それを選択者としての体が元に戻してしまう。
どれだけ泣き叫ぼうが少女の声が愛すべき者に届く事はもうない。
何故なら、それが自分の名前を放棄した少女にとって1番堪え難い苦痛だと世界そのものが考えたからである。
世界の行く末を選択する者に私的な考えは本来許されない。
その為か彼女が新しく生成された世界に直接関わる事が出来なくなってしまっていたのだ。
「お姉ちゃん...、私は...誰だっけ...?」
最早自分の名前など思い出せる筈もなく、少女はただこの状況を受け入れるしかなくなりつつあるのだった。