謎の少女...
(貴女は誰...?)
私は夕暮れ時に染まる校舎の上からこの王国を見据え、一人物思いにふけっていました。
そう...、私がこの世に足を踏み入れた瞬間に現れたあの黒髪の少女について考えていたのです。
(分からない...、あの子と視線を合わせた瞬間、まるで自分がこの王国に何年も住んでいるかのように思えてしまった)
カリンという少女に見覚えこそあるものの、その本質が見えていない様で心底気持ち悪い...。
(私がいないはずの数年間が、まるで私も体験したかの様に思えてしまっている...?)
身に覚えのない記憶のはずなのに、それこそが私が歩んで来た歴史だとでも言われているかのよう...。
しかも、違和感を覚えるはずの現象に違和感を覚えない自分が1番気持ち悪く、考えれば考えるほど迷路の様に迷う。
それでも、疑いたくない物はあった。
(私は望月林華...、それだけは間違いない...はず...)
自分で自分の事を疑うなどあってはならない事だが、今の私はそれすらも疑わずにはいられない。
でも、本当にどうやってこの王国にやって来たのかすら思い出せません。
(私には何か大事な役目があったような...)
頭の片隅に靄がかかった様な感じがずっと残っている...。
それすらも時間が経過すれば経過するほどだんだんと薄らいで行くのが分かる...。
最早、この状況こそが普通なのだと受け入れ始めるのは時間の問題だろう...。
だからこそ私は紙に書き記す。
「私の本当の妹は「華凛」だ」
と。
顔を忘れ去ってしまったとしても、その名前だけは忘れない。
前世の記憶が更に薄らいだ気がする...。
(もう少しで私もこの世界の住民になる...、その前に少しでも多くの痕跡を残しておこう...)
私は自分がこの世界に自分が来たという痕跡を意味もなく残し始めるのでした。
きっと次に出会うとき、私は...。
「ふふふ...」
黒髪の少女はただ笑う。
少女は鳥籠の中で舞う黒い鳥を見ながら愉悦の笑みを浮かべた。
「大丈夫...、何も怖いことはないよ...、だから...さ、今は遊ぼうよ、今まで辛かった分何もかも忘れて遊ぼう、ねっ?お姉ちゃん♡」
つんっと鳥籠を少女が揺らすと鳥籠内の舞台が変わるのだった。