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ありがとうございました

 私はカリンの家にもう一度向かっていた。

 以前に一度顔を合わせてはいるのだが、ちゃんとお礼を言いにきたのです。

 息を吸って吐いて大きく深呼吸をしてから彼女の家の前に向かう。

 それでも、いくら祭りとは言え、家の前に出店を構えられているのには流石に笑った。


(おいおい、人の家の前だぞ?ちゃんと許可はとってんだろうな?)


 そう思いながら店を素通りし、カリンの家のドアノブに手を当てた。


「お邪魔します!」


「あら、エルシーさん、カリンちゃんならもう出かけたわよ」


 あの時と同じ声で私に声をかけてくれたこの存在こそ、私が感謝をしなくてはいけない人なのだ。


「今日用があるのはカリンじゃないんです、用があるのはエルカ様なんです」


「私に用事?」


「エルカ様、あの時はありがとうございました」


 私が深々とお辞儀をすると、彼女は静かに笑う。

 そんな事いちいち言わなくても良いのよ、とでも言うかのようであった。


「ああ、いいのよあのくらい、困った時はお互い様でしょ?」


 私は彼女の優しさに言葉が出て来ません。


(違うんです、あの時だけでなくそれより以前にも貴方様には命を救われているんです)


 そんな事を言っても彼女は絶対に覚えてなどいないだろう。

 皆の英雄として前線に出続けた彼女と、怖くて国から逃げ出した私。

 そこには天と地ほどの差があるのは言うまでもない。

 それを思うと情けなくなり自分が許せなくなるのだった。


「エルカ様...、私は...」


 何かを言いかけた私に、彼女は優しく呟いてくれました。


「今何を言おうとしたのわからないけど、それはきっと言わない方がいい言葉よね?、大丈夫貴方は貴方なりに頑張ったのでしょ?、だったらそれでいいのよ、きっと貴方の選択に間違いなんてなかったんだから」


 私は何も言っていないのに全てを見透かしているかの如く、今私が言われたい言葉を全て言われてしまいました。

 誰かに認めて欲しかった、妹を捨てて逃げた結果もう一度妹に出会えてどうするか考えて踊りを見せる事にしたのですが、それが後2日後に迫りどうしようか悩んでいたのです。

 今ならまだ逃げられるとも思ったのですが、今の言葉でそんな気分はどこかへ吹き飛んでしまいました。


「ありがとうございます!エルカ様、私はもう迷いません!」


 堂々と胸を張り最後の仕上げするためギルドに戻る私を、彼女は優しく見つめていてくれていました。


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