表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホゾン  作者: 森林
1/2

上書き保存

拙い文章ですがよろしくお願いします。

 私は今までで一番と言っていいほどの大声で怒鳴りちらし、口にした事もない罵詈雑言を目の前の男に浴びせていた。

 

 私は人生の中で怒るという行為をしたことがなかった。

 相手の言葉や行動によって不快を感じたり、頭にくることも幾度となくあったのだが、その感情は湧き上がることあるも、身体から溢れることはなかった。


 しかし今回ばかりは違った。自分の中から湧き上がった感情は『怒り』。怒りは自分の身体を満たし、それでも湧いてくる怒りは口から湯水の如く溢れた。

 それでいて頭の中はひどいくらいに落ち着いていた。そして怒っている私をもう一人の私が後ろで見ているかのように客観的だった。


 酷い顔……


 目の前にいる男は私の剣幕に酷く怯えていた。すぐ後ろにソファーがあるのにそれに座らず、床に尻餅をつくように座り込んでいて、醜さすら感じさせる。


 何故私がここまで彼に憤りを感じているのかというと浮気だ。

 彼は私という妻がいるのにも関わらず、他の女と情事を起こしていたのだ。


 結婚して二年。今思えば、一年ほど前から彼の不自然な行動はあった。その時から私は怪しんでいたのだが、まだ結婚してから一年だ。私は彼を信じていた。


 魔がさしたのは今から一ヶ月前。ほんの出来心で彼のスマホの中身を勝手に見てしまった。


 メールボックスには、私が聞いたこともない女からのハートの絵文字がふんだんに使われた胃もたれのするようなメールがびっしりと詰まっていた。

 私は吐き気にも似た嫌悪感を感じた。

 そこから私は探偵に依頼して彼の周辺調査を行った。もちろん結果は黒だった。


 こうして私は彼の前に証拠を提示し、怒鳴り散らしていたのだ。


「ごめん……」


「……いや……」


「…………ごめん……」


「……いや……」


 ダメだ。彼が何を言っても、もう私の心まで届かない。それどころか彼の言葉は私の心にひどく苛立ちを覚えさせる。


「声……聞きたくない」


「……あ…………ごめ……」


 彼は何も喋ることが出来ず、そのまま家を出て行った。


 私は出て行く彼を目で追うこともせず、俯き、身体をわなわなと震わせていた。


 ガチャン


 玄関が閉まる音が、この空虚で決定的に何かが欠けてしまった家に虚しく響く。


 怒りの線はそこでプツンと切れた。

 私は身体に力が入らなくなり、崩れるように倒れこむ。


「…………っ……ぅ……ぁ……」


 涙が溢れ始めた。

 一度溢れてしまった涙は全く止まる気配を見せない。それどころか土砂降りの雨のように勢いは強くなっていった。


 ふと左手の薬指にはめていた指輪が目に入る。

 そのとき、私の中に彼との思い出が走馬灯のように流れ出した。


 ーーーー好きだった。


 もう一度名前を呼んでほしかった。

 呼んでぎゅっと抱きしめ、耳元で愛を囁いてほしかった。

 そうすればまだ私は彼を許すことができたと思う。でもーーーー


 私は指輪を外し、適当に投げとばす。


 壊れてしまったものは完全には修復することはできない。いくら上部を取り繕っても、少しの綻びが決定的にズレを生んでしまう。遅かれ早かれまた壊れてしまう。

 一度割れてしまったコップを直して使ったりはしない。

 私の記憶のコップに注がれた彼との思い出はもちろん、割れた拍子に飛び散った。


 ーーさようなら。




 


 三年後


 私は新しい彼(・・・・)と結婚した。


 私はあれからすぐに離婚して、一人暮らしを始め、新しい仕事を始め、今の彼と出会った。


 今の私はとても幸せを感じている。


 前の彼と結婚した時も幸せだったが、それ以上だ。


 嬉しいことのあとは怒りが起き、そのあと悲しみがこみ上げる。そして最後には楽しいことが待っている。喜怒哀楽とはよく言ったものだ。


 私はこれからはずっと幸せに暮らしていけるだろう。今の彼とだったらそう思える。


 お腹の中には新しい命が芽生えようとしている。


 私はこれから新しい人生を歩んでいこう。前だけを見て。



お読み下さりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ