16〜囮
遠ざかっていた意識が覚醒していく。
眼が覚めると、後ろには雪と女の子たち、前には何故か顔が真っ赤に染まっているアーノルドが杖を構えて今にも呪文を唱えようとしていた。
あれ?
何でそんなに怒ってるだ?
とりあえず聞いてみるか。
「えっと、すみません。何でそんなにお怒りなのでしょうか?」
「誰のせいだと思っている!貴様が儂のマジックアイテムをぶっ壊したからであろう!見よ、この指輪を!」
アーノルドは自身の手につけている指輪を大地に見せつける。
指輪は大きな宝石ようなものが嵌められているが、その宝石には亀裂が入り、いかにも壊れていそうな有様であった。
「このマジックアイテムを手に入れるのにどれだけの苦労があったか、しかもそれを貴様が壊した。怒らない理由がどこにある!?」
うわー、めちゃくちゃ怒ってらっしゃる。
エノめ、意識がなかったとき、どこまで暴れてたんだ?
とりあえず謝ってみるか。
「意識がなかったとはいえ、それは悪いことをしてしまった。すまん」
「意識があるとかないとか知らんわ!儂の怒りを収めるために貴様を殺す!焔よ、我が敵を射貫け。」
杖をかざしていたアーノルドは呪文を詠唱すると、アーノルドの前には炎が現れ、炎は十数本の炎の矢へと形成されていく。
「さぁ、死ね」
炎の矢は大地に向けられ、放たれる。
矢は後ろにいる雪たちに当たってもおかしくない角度で飛んでくる。
ヤバイな、怒りすぎて俺にしか眼中に入ってなさそうだ。
大地は動体視力で矢の軌道を読み、身体能力を生かし矢を避けつつ、雪たちに被害がいきそうな弓は手に魔力を纏い、矢の軌道を逸らす。
大地はあることに気づく。
あれ?こんなに身体が軽いのは初めてだ。
エノのおかげかな?
だったらあいつに感謝しねぇとな。
アーノルドは大地に呪文を唱え続ける。
どうにかして早くあいつの怒りを収めないと。
いや、待てよ、あいつは雪たちにも被害が及びそうな攻撃してるってことは雪たちの存在を忘れているってことだ。
なら今のうちに雪たちを逃して、逃してから後のことは考えるか。
「おい、雪聞こえているか!?」
大地は後ろにいる雪に声を掛ける。
「……っ!?聞こえる!」
「今のあいつは俺しか見えてない!だからお前たちは今のうちに逃げろ!」
「‥‥‥大地はどうするの?」
「俺はお前たちが逃げたら大人しく捕まって、ちょっくらあっちの世界に行ってくる!」
「‥‥‥駄目!ならこの子たちだけ逃して私も一緒に大地と行く!」
「馬鹿言うな!外にはまだ敵がいるんだ!この子たちだけじゃ捕まっちまう!第一、今の俺じゃお前を守りきれねぇ!」
「‥‥‥でも!」
「大丈夫だ、安心しろ。用事が終わったらすぐに戻ってくる!だからその子たちと逃げろ!覚えているか?小学生の時によく2人で使った抜け道あるだろ?あそこなら敵も把握していない筈だ!隙を作ったら、そこに向かえ!」
雪は大地の言葉に頷き、女の子たちと一緒に逃げる準備を始める。
さて、何か奴の隙を作れるような物はないか?
大地は目を凝らし、周囲を把握しようとする。
すると少し離れたところに廊下の壁に備え付けられている消火器が目に入る。
あれを使ってみるか!
大地はアーノルドの攻撃を弾きながら、消火器を手に取る。
「これ、どうやって使うんだ?確かこの栓を抜いたらいけるよな?」
消火栓を初めて使う大地であったが、無事に安全ピンを抜き、片手でホースを持つ。
「む?何を持っている貴様?」
ここでアーノルドは大地が手に取っている消火器の存在に気付き、観察を始める。
「これか?これは簡単な火を消すための道具だよ」
「そんなもので儂の魔法を無力化させるとでも?」
「まぁ、無理だな。これはちょっとした火じゃないと効かないからな。お前の魔法を消すのは無理だろうさ。だから違うことに使わせてもらう!」
消火器のレバーに手を握ると、白い粉末が大量に噴出される。
大地は消火器を振り回し、粉末を周囲にばら撒き始めた。
視界は粉末で非常に悪くなる。
アーノルドは大地の行動が何の目的なのか察しがついた。
「貴様!こんなもので逃げれると思うな!」
「逃げねぇよ!」
視界が悪い中、詠唱を唱えるために杖をかざすアーノルドの死角から大地は飛び掛かる。
死角からの奇襲により、アーノルドは詠唱を中断し防衛に移る。
杖と拳が交じり合う。
「貴様!なかなかやるな。あれは逃げるためのものではなくまさか儂の死角を作り、そこから攻撃を仕掛けてくるとは!」
「それはどうも!」
塞がれてしまった大地の攻撃であったが、大地はなおも攻撃を仕掛ける。
しかし、アーノルドは巧みに杖を使い大地の攻撃を受け止める。
あいつ、魔法しか使えないと思ってたが、あんなに杖をうまく使ってくるとはな、棒術でも習ってんのか?
大地は攻撃を終え、アーノルドと距離を取る。
「あんた、魔法がないと何もできない野郎だと思ったが、違ったんだな」
「当たり前だ。魔法使いというのは全てにおいて万能でなければならん。貴様のように魔法が多少使えても、それは魔法使いとは言わないのだよ」
「接近したら勝てると思ったんだけどな」
「今頃命乞いしても遅いぞ。儂は貴様を殺すということは決定事項だ」
「なぁ、提案があるんだが一ついいか?」
アーノルドは話し合いをしていて頭が少し冷えてきていた。
「提案?まぁいい、聞いてやろう」
「俺は死にたくない。でもあんたは俺が指輪を壊したせいで俺を殺したがっている。そうだろ?」
「うむ」
「あんたの怒りようでその指輪はものすごく高いものだっていうのは考えがつく」
「その通りだ。この指輪は防御性能が非常に高いおかげで非常に高価だ。儂の財産を半分を支払ってでも欲しかった。なのに貴様が壊した。殺す理由には十分だ。」
「だからさ、俺を殺すんじゃなくて売ったらいいんじゃないのか?あんたのその高い指輪を壊せる奴隷だぜ?それはさぞかし高く売れるだろ?あんたの指輪と同等ぐらいには売れるんじゃないか?」
「ふむ?確かにこのマジックアイテムを壊せる奴隷だ、かなり高く売れるはず」
アーノルドは手に顎を乗せ、何か考え始めた。
大地はここで追撃をする。
「だろ?もしお前が今避難所にいる人たちに危害を与えないなら俺は潔く捕まろう。でも避難所の人たちも捕まえるってんならそれはもう死ぬ気で暴れ回ってお前のお仲間にも被害を与えてやる。さぁ、どうする?」
アーノルドは笑い始める。
「クックックッ、面白い。まさか自分を売り込んでくるとは」
「まぁ、犠牲になるのは俺だけで構わない」
「いいだろう、こちらも今の全兵力を注いでも貴様を抑えるのには少々骨が折れる。あの娘を手に入れたかったが、貴様を手に入れた方が儂にとって好都合である。貴様の話に乗ってやる」
こうなるなら雪たちを逃がす必要なかったな。
読んでいただきありがとうございます!




