一方通行の恋
イルミネーションが綺麗な季節がやって来た。私はスマートフォンを片手に、メッセージを送る。
「24日、会える?」
既読され、1分も経たないうちに返信された。
「23日なら」
なんとなく分かっていた。けれど、胸が痛む。だから、動かせない指を見つめて言い聞かせた。「彼に本命がいるのは理解してたでしょ」って。「私は二番目なんだから」って。
約束があるだけで、頑張れる。彼に出会ってから今まで、彼との約束を楽しみに生きてきた。だから私は、懲りもせずにスタンプを押した。「OK」という可愛らしいスタンプを。
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女友達との飲み会では、決まって恋愛話で盛り上がる。けれど最近になって、皆は私にその話題を振らない。それは、
「何にもなかったよ。私も、皆みたいに早く恋がしたいなー」
返答が同じだから。私に振っても、面白い話が出ないからだ。だって、事実を言えるわけがない。この人たちは口が滑りやすいし、そんな話に尾ひれ背びれがつくのは御免だ。
恋人がいる男に惚れて、二番目の女として生きているなんて、恥ずかしくて親にも言えない。だから、相談相手がいない。ゆえに、私はどうすればいいのか延々と悩み続けている。
本命のことを考えれば、別れたほうがいいに決まってる。でも、邪な考えが過るのも事実で。本命にこのことを伝えて彼と別れさせようだなんて、何度も何度も考えた。
その結果、今に至る。結局、彼に会えなくなるのが嫌だから、次の約束を取りつけてしまうのだ。けれど彼に会ってから、笑うより泣く時間のほうが増えた。切なくて、苦しくて。だから、次を最後にしようと決断する。もう、有耶無耶にしたり、ぶれたりしない。
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あれから時間が早く過ぎ、23日を迎えた。車で迎えに来てくれた彼と、ドライブへ出掛けた。そして、イルミネーションを見て、食事をして、ホテルへ行く。
時間が経つにつれ、緊張が増した。彼に別れを告げるなら早く言おう、と。けれど、彼が視界に入ると、胸が高鳴ってしまう。その温もりに触れれば、決断も霧散しそうになる。
情事を終え、ひと時の快楽に身を委ね終えた彼は、ベッドから立ち上がろうとした。だから私は、咄嗟に手首を掴む。
「……どうした?」
「何でもない……」
違う。そんなことが言いたいんじゃない。彼に別れを告げなくちゃ。そうすればきっと、新たなスタートをきれるはずだ。彼は彼女と幸せになれるし、彼に関わらなければ私だって、他の男性に目を向けられる。きっと、良い人が見つかる。そう考えようとしても、心は本音を叫んだ。
(一人にしないで……)
ダメだ、このままじゃ今日を最後にできない。でも、終わらせなくちゃ。彼の為にも、自分の為にも。だから、
「今日で……終わりにしよ」
震えながら、小さい声で話した。彼に聞こえただろうか。顔を上げて、彼を見つめると……。
「……わかった」
承諾した。それも、あっさりと。そのことに傷つき、泣きそうになる。なぜだろう、望んでいた結果のはずなのに。
私から連絡をとらなくなったら、彼はどう思うのだろう? そう考えたことがある。当時は、切なくなってくれるかな、なんて思っていた。けれど、その答えは判明した。
「じゃあ、さよなら」
切なく思うどころか、何とも感じていない。ただ、彼女のもとへ帰るだけ。少なくとも、私にはそう見えた。
着衣後、彼は玄関から出て行った。何事もなかったかのように。こうして私は、最後の夜を終わらせた。なぜか、頬に涙が流れた。
あれから、一カ月が経過した。正直言うと、彼にはまだ未練がある。その証拠に、彼とのやり取りを残しては、何度も読み返していた。けれど、そんなこと繰り返しても何にもならない。彼が彼女と別れて、私のところに戻るだなんてあり得ない。
だから、彼に関するものをすべて捨てると決めた。そして、新しい人を探したい。泣く時間より、笑う時間を増やしてくれる人に出会いたいから。