雨上がり
風邪っぴきで落ちた体力も戻ったなぁと窓の外を眺める。
思ったより薄暗い空はべそっかきの雨もよう。道路には傘の花が色とりどりに流れ咲いてる。
向かえの商店の軒先にひょろりとノッポな男の子。
私は壁の時計と机の上を確認。
「お先に失礼します」
「ん、無理しないように。お大事に」
「ありがとうございます」
挨拶を交わし、上着と傘を持つ。
閉じた心の鍵は見つかりそうで見つからない。結果の見えない追いかけっこみたいな気分。
ユウは顔を上げて何故か気まずそう。でもね、私を見て笑ってくれた。
そして私も言い訳があれば気にならないの。
「傘はどうしたの?」
「降ってなかったんだよ」
持ってない理由がそれか。ここにいる理由は聞かないでおくね。
「入れたげるから帰ろ」
「ん」
帰ろうとした時にユウのお腹が空腹を訴えた。
笑いをこらえきれなかった私から恥ずかしそうに視線をそらすユウを連れてファミレスでお茶。ユウはがっつりごはんだけど。
ちらり、視線を向けるのはファミレスで注文された食事。
いつから苦手だったはずのものも食べられるようになったんだろう。
「いつまでも子供舌じゃないさ」
味覚の発達変化を自慢するユウは子供っぽくてかわいい。
言ったら、怒るんだろうなぁ。
「何見てんだよ」
やさぐれた口調は拗ねた照れ隠しっぽい。
ユウの髪が近い。視界をチラついたその先を捕まえる。
「ねぇ。伸びた?」
「もうじき切る」
二人きりの密会みたいな時間。
食べてる最中に手を伸ばして食べるのを止められたユウは不愉快?
ごめんね。
座ってると視線が近くてドキドキするの。
これってどんな罰ゲーム?
「やんでる」
ファミレスから出れば雨はやんでいて水溜りがぽっかりと道を占領している。
人の靴先と風が小さなさざ波が水面を歪ませる。
「風邪っぴき、治ったトコなんだから冷やすな……」
ユウの忠告が途切れた。
「セキ、顔上げろ」
あまり大きい声ではない声。
囁くような優しい声。
ちょっと、強引に顔を上げさせられて向きを操作された。
怒っていいかな?
「ほら」
ユウはそんなこと気づいた風もなく、雲間からかろうじて顔を出す沈む夕陽。
きっともう沈んですぐ暗くなる。
どんよりな灰雲の切れ間から覗くグラデーション。
「な。うっすかったけど、虹」
「え?」
虹?
気まずい気分。ユウは気がついてないのか嬉しげで得意げ。
「セキ、きれいなの好きだろ?」
ここで夕陽がきれいって言えるクラッシャーになりたい……。
沈黙と疑問符がユウへの答えになっていた。
ユウがムッとしているのがわかる。
「……薄かったからしょうがないか」
きっと自分に言い聞かせてるんだろう発言。その露骨に攻めてくるわけでも態度が本当に申し訳なくて。
「ご、ごめんね」
かろうじて、頭の先を出していた太陽も引っ込んですっかり人工光の世界。
「虹って言わなかった俺が悪いし」
「……うん。ごめんね。でも、きれいな夕陽だった。ありがとね。ユウ」
薄くても見えた虹を共有したいって思ってくれた気持ちが嬉しいんだ。
いつの間にか街はクリスマス仕様。
ユウとフミがどう過ごすかよく密会していたのを思い出す。
クリスマスぼっちにならないための協定密会って言ってたっけ?
「タイムリミットは月半ばだったかな?」
思い出してクスッと笑う。
「セキはクリスマスどう過ごすんだ?」
「クリスマス予定?」
頷くユウを見ながら本当を言うか、誤解を招くか悩ましい。
「年末の仕事日だから忙しいわ」
正直に答えた。
だって平日なのよ?
その安堵した表情はなに?
「おふくろがケーキ焼くって言ってたからさ。セキの分も」
ぉお!
「おばさまの手作り大好きなの!」
とてもおいしいんだもの!




